第10回  香港の人口問題

老齢化と人材流出阻止へ
優秀人材の入境計画を始動 中国本土依存が加速
中国本土の妊婦に入境制限
費用未払いが問題化 悪循環も中国頼み
中国男性との結婚急増 香港女性


香港ディズニーランドでミッキーやミニーと記念撮影する香港人家族

 人口約七百万万人の香港は東京都の半分しかない。香港返還時、約六百十七万人だった人口が八十万人以上増加し、様々な人口問題を起こしている。人口増の大半は中国本土からの移民によるものだ。香港大学アジア太平洋研究センターの鄭宏泰助理教授は「中国本土からの移民人口を総合すると、〇一年時点の香港総人口の約一割に当たる」と指摘する。

 香港の出生率は一九七一年が三・五、八一年が一・九、九一年一・三、〇一年〇・九と低下が著しい。高齢化も深刻で、六十五歳以上の全人口に占める割合は八一年が六・六%、九一年が八・七%、〇一年は一一・一%と上昇。予測では三一年には六十五歳以上が二四%前後を占めることとなり、ほぼ四人に一人が高齢者となってしまう。

 少子高齢化だけでなく、女性の割合が増えて男女比のバランス崩壊(一〇対九)が生じて女性の晩婚化が進み、現在、離婚あるいは離婚調停中の夫婦は約二十二万人に上る。香港の男性は生活観念の厳しい香港人女性を敬遠して中国本土の女性と結婚する傾向となり、香港人女性も中国本土の上流階層との結婚志向が強まり(表参照)、人材面でも中国本土依存が進んでいる。

結婚式を挙げたばかりの香港人カップル

 実は、深刻化する少子高齢化を遅延させるために貢献しているのは、中国本土から来た中国女性が香港男性と結婚後、香港で出産することだ。〇六年の新生児六万五千八百人のうち約一割がそのケース。だが、香港当局は今年二月以降、両親とも香港永住権のない新生児の香港での誕生は厳しく制限。中国本土籍の女性が香港で出産するケースが増加(表参照)し、両親とも香港永住者でない新生児誕生が〇六年、一万人を突破したからだ。香港の病院で地元の妊婦に手が回らないばかりか、公立病院での分娩費用の未払い、踏み倒しが続出している。

 本土籍の妊婦が香港で出産を求める理由は、子供が香港永住権を自動取得できるだけでなく、第二子以降の場合、「一人っ子政策」の罰金支払いを回避できるためだ。その背景には、香港基本法(ミニ憲法)の解釈をめぐり、〇一年七月、香港終審法院(最高裁に相当)で「香港永住権のない中国公民でも香港で出産すれば子供に永住権が付与される」との裁定が下されたことが大きい。

 以後、この判例を盾に臨月になって観光資格で香港へ入境し、短気滞在期間中に駆け込み出産する本土籍妊婦が続出した。計画的に双程証(親戚訪問のための一次往復ビザ)で入境し、駅ホームで産気づいて駅員の助けを借りて出産したり、出入境管理所で産気づいて警官が新生児を取り上げる騒動まで発生。本土妊婦の増加で本来、ケアを受けるべき地元妊婦が出産時に支障を来すケースが増え、社会問題化した。

香港IDカードの更新申請にきた香港人たち

 そこで、香港政府は二月一日以降、新制度を導入。香港での出産を要望する本土籍の妊婦には、事前検査を受けた後、出産予約登録と三万九千香港ドル(五十八万五千円)の出産前払い金(公立病院の場合)、未登録の場合の出産は四万八千香港ドル(七十二万円)の支払いを義務づけた。

 本土妊婦の出産は少子高齢化が進む香港にとって中長期的に人口政策の一助となるとの見方もあるが、海外からの技術移民が減り、人材危機が迫っていることへの危機感も高まっている。香港駐在外国人数は九六年、約五十九万人(全人口の九・四%)だったのが、〇一年は四十五万人(同六・七%)、〇六年は四十九万人(七・〇%)で返還前より減少している(〇六年の香港駐在日本人は約二万五千人)。

 王蒼柏・香港大学アジア研究センター研究員は「返還後、香港に駐在する欧米人や日本人は減少傾向。中国本土からの移民急増とインドネシア、フィリピン、インド、パキスタンからの就労者が増えている」と分析。「返還後、技術移民が流出し、非技術移民が増加することで経済競争力が低下している。有能な技術移民を呼び込む人材難打開策に迫られている」と警鐘を鳴らす。

香港ディズニーランドを訪れた四川省成都の子どもたち

 香港政府は「輸入優秀人才計画」(九九年)、「輸入内地専業人才計画」(〇一年)、「優秀人才入境計画」(〇六年)など高技術者移民の受け入れを積極的に推進。審査に合格すれば、七年間の香港での就労後、永住権が取得できる政策を打ち出した。「優秀人才入境計画」では中国系米国人で世界的なピアニストの郎朗氏、中国人ピアニストの李雲迪氏らが香港居住権を獲得したが、目標一千人に対してわずか百四十九人しか申請許可を出せず、中国本土からの高級人材受け入れが主で計画が順調とはいえない状況が続く。

 一方、返還当時、注目されていた香港人の海外移民数は激減している。香港保安局の統計資料によると、香港が中国に返還された一九九七年は三万九百人だったのに対し、〇一年から毎年一万人前後まで減り、二〇〇六年は一万三百人で十年前の約三分の一に激減した。九四年に二百五十社あった移民仲介業社は今ではわずか十社。過去三年間で香港人の移民する国ベスト3は一位から米国、オーストラリア、カナダの順だ。

 香港の移民事務手続き業顧問、関景鴻氏によると、九七年の移民数は九五年、九六年の二年間に移民申請したケースの反映であり、当時は、香港返還後の将来を不安視する動きが高まり、三万人を超えた。近年、香港人が海外移民するケースが激減した要因は、市民が香港への信頼度を回復させたことに加え、不景気を動機とする貧民の移民ケースが少なくなった点にある。香港の人口問題は中国本土からの移民増と技術移民の減少で中国本土依存が強まり、「質」が大きく変わりつつある。(深川耕治、写真も)

【香港人と中国本土人の結婚動向】
 1996年   2006年
香港男性と中国本土女性  24564人  28000人
香港女性と中国本土男性   1821人   6500人
香港人男女       約35000人 約29800人
結婚カップル総数    約37000人 約50300人
(資料は香港政府統計處)

【香港での出産件数】
      母親だけ中国本土籍  両親とも香港永住権なし
2001年   7810人       620人
2002年   8506人      1250人
2003年  10128人      2070人
2004年  13209人      4102人
2005年  19538人      9273人
(資料は香港入境処)