第11回(最終回)  辺縁化の危機

華南経済圏融合で上海に対抗 
本土依存で独自色薄らぐ
違法な本土食品、混乱も


港珠澳大橋が通る予定の中国広東省珠海の海岸線。海の向こう側はマカオ

 七月一日の返還十周年の祝賀行事は民間イベントも含め四百六十件。一日に返還記念式典には胡錦涛中国国家主席が参加することで一国二制度の成果を証明する国威発揚イベントが目白押しとなりそうだ。

 一年前の〇六年六月二十八日、中国共産党序列四位の賈慶林全国政治協商会議(政協)主席は香港、マカオと中国の間で締結されたCEPA(経済貿易緊密化協定)三周年の記念講演を香港で行い、「確固たる金融、貿易、運輸の国際センターとしての地位を築く香港には辺縁化(取り残す)されることはない」と強調した。「辺縁化」の懸念は中国大陸への投資が加速する台湾でも広がっている。

 CEPA拡充で今後さらに中国への輸出品ゼロ関税化や旅行業、香港の法律事務所が中国本土で事業展開する際の優遇措置が拡大される一方、中国側のメリットだけが拡大して香港独自の貿易機能が衰退するとの懸念も噴出しており、中央政府としてそれを必死に否定する発言だ。

香港島ワンチャイの市場の風景

 CEPAは「ミニFTA(自由貿易協定)」とも呼ばれ、中国が日本包囲包囲網のためにASEAN諸国や韓国、米国とのFTA交渉を進める下準備となっている側面がある。CEPAによって香港、マカオと中国本土の間で関税撤廃が進み、現在では全部の香港製品がゼロ関税の対象となっている。香港に進出する中国資本企業も二千社を超え、香港の大型インフラ(トンネル、コンテナターミナルなど)に投資し、香港と中国本土は経済面で切っても切れない運命共同体となりつつある。

 香港と広東省間での主な協力事業は「香港−広州高速鉄道」や 「港珠澳大橋(香港−珠海−マカオ大橋)」の建設、香港と深セン市蛇口区を結ぶ「西部通道」道路整備、広州市南沙開発区の共同開発などだ。人民元の対ドル為替レートの切り上げで、中国本土客の香港観光が急増。人民元の対香港ドル交換レートが一対一を突破し、「人民元での買い物OK」の看板を出す商店が増え、消費熱も高まっている。

 だが、新型肺炎(SARS)騒ぎを乗り越えた香港経済は、インフラを整備して中国依存を深めながら、独自の競争力は徐々に失いつつある。実際、〇五年のコンテナ取扱高を見ると、香港は前年比わずか二%増の二千二百四十二万TEU(二十フィート標準コンテナ換算)で六年間維持してきた世界一の座をシンガポールに明け渡した。

港珠澳大橋が通る予定の中国広東省珠海の海岸線

 急激な伸び率の三位・上海、四位・深セン(=土に川)が香港の中継貿易機能の脅かし、特に深センの塩田港の拡充は香港の需要を奪い、CEPAの恩恵は香港と隣接する深センに注がれる現象が目立ち始めた。賈政協主席の発言とは裏腹に、自由貿易港としての香港の“地盤沈下”は進んでいるが、香港財界は中国進出強化で穴埋めしようとしている。

 一方的な中国依存状況を香港ナンバー2の許仕仁政務官は「上海など中国の大都市との競争に辺縁化されてはいけない」と発言、危機感をあらわにしている。

 中国本土との経済統合が進む中、香港政府は、食の安全問題でも警戒感を高めている。〇六年六月、中国の環境保護団体の調査で中国本土の未認可の農場から香港に大量の残留農薬入り野菜を検出。香港の大手スーパーで「毒菜(基準値を超える残留農薬入り野菜)」が販売されていたことが発覚した。その後も河北省産アヒルの卵が発ガン性のある工業製染料で着色され、同メーカーの製品が香港で流通販売されていたケースや香港で販売されている中国本土産魚介類から禁止されている合成抗菌剤「マラカイトグリーン」が検出され、緊急輸入停止措置が取られるなど、新型肺炎(SARS)の教訓を生かせず、食品衛生管理のずさんさが問題になっている。

中国広東省珠海の市場の風景

 華南経済圏の中心的役割を果たす香港と対抗するのが、上海を中心とする長江デルタ経済圏と北京、天津を中心とする環渤海経済圏だ。中国社会科学院が三月末に発表した「二〇〇七年中国城市競争力藍皮書」によると、香港は二年連続で国内最高の総合的な競争力のある都市として評価された。二位以下は深セン、上海、北京、広州、台北、無錫、蘇州、仏山、マカオの順。現段階では香港がトップを走るが、二〇一五年以降、上海が上回るとの観測も出始めている。

 香港は従来の妄信的な中国依存をやめ、隣接する広東省との役割分担を明確化し、大珠江デルタ経済圏の確立へ向け、ライバル・上海とは違う華南の生き残り策が不可欠となってきている。北京五輪、上海万博を控え、長江デルタ経済圏や環渤海経済圏の勢いは珠江デルタ地域を中心とする華南経済圏よりも上回り始めており、香港は「中国の一都市」に格下げされないために、中国本土との経済一体化とは別に香港独自の新たな経済振興策が不可欠な時期を迎えている。(深川耕治、写真も)(終わり)