第5回  香港映画復活への道・下

最大市場の中国に売り込め
内容面では検閲が依然大きな壁
規制緩和で本土に映画館も


香港企業・麗新グループは2004年9月、広州市天河区に映画館「天河電影城」をオープン

 香港政府が香港映画制作にテコ入れすることで、一体何を目指すのか。年間二十作の中国語映画を制作している香港の映画制作会社・天下媒体集団(ビック・メディア)の馮永総裁は「巨大商圏となる中国本土」と断じる。調査会社ニールセンの予測では〇一年の映画興行収益が一億米ドルに満たなかった中国が、〇六年は三億三千六百万ドル、一〇年には七億二千万ドルに拡大する。

 海賊版の映画DVDが当局の取り締まり強化に関わらず各地で改善しない現状が大きな懸念材料だが、「今後は各地の投資者が協力して映画投資基金を創り、米国の投資者が北京に事務所を置いてシンガポールや台湾の財団と協力しながら香港にも投資基金を創って欧米とアジアの商圏をまとめ上げていく必要がある」(馮総裁)と見通す。

 HAFが三月、香港国際映画展に参加した業者や入場者を対象に行ったアンケート調査によると、「香港映画の最大売り手市場はどの地域か」との問いへの回答は、一位が中国本土、二位・米国、三位・台湾、四位が日本と韓国(同数)となった。テレビやゲーム関係の業者に関しても香港製ソフトの最大売り手市場は圧倒的に「中国本土」との答えだ。

 香港政府の映画振興策だけでなく、中国政府の後押しも香港映画の大陸進出に拍車をかける。

深セン中心部には香港企業・ゴールデンハーベスト社が最新鋭の映画館をオープン

 従来、香港映画を中国本土で上映する場合、外国映画は年間二十本以内という規定枠の対象となり、香港企業出資の映画館は経営権が中国主導でなければならないなど厳しい制限を受けていた。しかも、中国共産党の思想教育に合わないシーン(暴力シーンや中国の伝統を否定するシーン)があれば上映禁止になるなど、検閲が厳しかった。

 しかし、香港と中国との経済貿易協力強化協定(CEPA)で〇四年一月から香港企業が中国本土で映画館の経営やビデオ販売などの合弁企業を香港側主導で設立できるようになり、香港映画は中国の「国産」映画扱いに認められ、外国映画上映枠から除外。中国と香港の合作映画制作でもスタッフ半数が中国から出すとの制限も緩和された。

 広東省広州市中心部にある天河娯楽城(モダンなショッピングモール)には香港企業・麗新グループが〇四年九月、最新技術を駆使した十二スクリーンある映画館「天河電影城」を新設。深セン中心部には香港企業・ゴールデンハーベスト社が最新鋭の映画館をオープンさせ、若者を中心に人気がある。天河電影城に来た広州在住の携帯電話販売会社勤務・王瑞礼さん(22)は「香港企業の経営する映画館はハード、ソフト両面で豪華。高い料金でも本格的な外国映画をサラウンドの大迫力で鑑賞できて気に入っている」と旧来の中国映画館とのグレードの違いに大満足だ。

香港国際映画展にはアジア各地の映画制作会社が出展した

 一方で、香港映画の場合、せっかく多くの投資家によって中国での封切り準備をしていても、中国当局の検閲にひっかかり、上映禁止になる例もある。香港映画「黒社会」(杜h峰監督)が中国本土で上映されると、きわどい抗争シーンで画面が真っ黒になり、字幕も内容が変わったり、映像も編集し直され、香港映画ファンをがっかりさせた。三部昨「インファナル・アフェア(無間道)」も中国本土での上映内容は部分的にストーリーを変えて上映されている。

 国内映画上映に関する検閲は国家広播電影電視総局(広電局)の監督権を持つ中国共産党中央宣伝部による通達によって決まる。党の不利益になる上映内容と判断されれば海外での作品評価とは無関係に上映禁止となる。

香港・モンコックの映画館

 杜h峰監督の新作「黒社会U」や日本の芸者を題材にしたハリウッド映画「SAYURI」は上映禁止となり、映画「ダビンチ・コード」も宗教的問題で上映二十四日目で突然、上映禁止。中国の検閲問題は依然として大きな壁で、香港映画投資者にとって大きなリスクとなって立ちはだかっている。逆に中国本土の香港映画ファンの中には、規制のない香港で一日中、共通言語である広東語バージョンで映画三昧を楽しもうと個人旅行する広東省の若者も増えているほどだ。

 広東省電影公司の趙軍副社長はこの点について「中国の映画事業は元来、閉鎖的体質。香港など外資映画館がどんどん流入することで旧来の中国映画館の上映方法も、生き残りをかけてハード、ソフト両面で改革されるようになるだろう」と“黒船到来”を中国映画業界の改革への苦い良薬と見て長期的観点から歓迎しているが、中央宣伝部による検閲の壁だけは到底越えられそうにない。