第6回 香港観光業の憂鬱

内憂外患で打つ手手詰まりも
中国の“パンダ効果”に期待
本土客の買い物ツアー「強要」
悪習絶てず、中国メディアが批判


中国四川省から香港に贈呈されるジャイアントパンダ=香港新聞処提供

 「今度のパンダは香香(シャンシャン)、港港(カンカン)がいいんじゃない」。香港島南部の香港海洋公園(オーシャンパーク)で「パンダ名公募」の張り紙を見ながら香港人の李さん親子は、中国から四月二十六日に贈呈されたばかりのパンダ名発表を待ちこがれる思いを語った。新たに贈られた2頭の名前は公募でオスが楽楽(ルールー)、メスが盈盈(インイン)に決まったが、香港での歓迎ムードは冷めることはない。

 香港海洋公園は香港ディズニーランドと共に中国本土客が観光する人気二大スポット。香港返還十周年を記念し、中国政府は香港に四川省生まれの幼いオスとメスのジャイアントパンダ一組を贈呈することを決定し、受け入れ先が香港海洋公園となってパンダブームが再燃している。

香港海洋公園で建設中の新パンダ館=深川耕治撮影

 三月末、開園三十周年を迎えた香港海洋公園の盛智文(アラン・ジーマン)総裁は「昨年一年間の入場者数は過去最多の五百万人を超え、そのうち、大多数がパンダ館を訪れている。ディズニーランドはアニメ上の空想動物だが、こちらは本物の動物ばかりで、新しいパンダが来ると入場者数が着実に増える」と語り、予想より苦戦が強いられている香港ディズニーランドと対照的に順調な黒字経営に自信を深める。

 中国政府が香港にパンダを贈呈するのは二度目。前回もやはり、香港返還を記念して贈呈が決まり、香港特別行政区政府は総工費八千万香港ドル(一億二千万円)をかけてパンダ館を新設。九九年にオスの安安(アンアン=14歳)とメスの佳佳(ジャージャー=21歳)が贈られてきたが、佳佳は妊娠できず、香港生まれのパンダ誕生はきわめて困難になった。

 香港政府は中央政府に若いパンダの贈呈を要望し、中国国務院は昨年十月に批准。〇五年生まれのパンダ二頭は公募で名前が決まる予定で、四月二十六日に四川省成都から空路、香港国際空港に到着し、愛くるしい仕草で香港メディアの話題をさらっている。七月一日の香港返還十周年記念日に一般公開され、“香港観光の起爆剤”として中国本土客や地元民を中心に人気が高まりそうだ。

開園一年を過ぎ、集客で苦戦する香港ディズニーランド=深川耕治撮影

 香港観光局の統計では、〇六年、香港を訪れた人は二千五百二十五万一千百二十四人(前年比八・一%増)。〇七年は二千六百四十万人(同四・六%増)が訪れると予想している。香港の観光業を支えているのは中国本土客だ。〇六年は一千三百五十九万三百四十二人(前年比八・四%増)が訪れ、香港を訪れた観光客総数の五三・八%を占める。このうち約六百六十万人が「自由遊」や「個人遊」など個人旅行資格で香港入りしており、定番となっていた団体旅行ツアーよりも個人旅行に人気が集まっている。

 過去の香港観光業を振り返ってみると、〇三年の新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)危機後、中央政府が支援策を強化し、中国本土観光客の香港受け入れを次々と解禁。中国大陸からの観光客を主な対象としたランタオ島の新ケーブルカー「昴坪三六〇」が昨年、オーブンし、さらに大陸からの吸引力が増している。

 中国本土客の香港への個人旅行が一部解禁されたのは〇三年七月。当時、SARSで観光客が激減し、起死回生の香港支援策として中国政府が打ち出したものだ。広東省内の広州市など四市を皮切りに〇六年は湖南省長沙市や江西省南昌市など六市、〇七年二月の段階で四十九の本土客が個人旅行資格で香港を訪れることが可能となった。

ケーブルカーが魅力の香港海洋公園=深川耕治撮影

 しかし、最近は中国本土頼みの観光客受け入れ策に効果は減速し始めており、新たな吸引力を打ち出す策に考えあぐねている。「パンダ贈呈」効果以外では国際会議や展示会の誘致、伝統行事を通じた集客などしかなく、手詰まり感がある。近隣地域ではシンガポールや上海が積極的な観光振興策を打ち出しており、競合都市に引けを取りかねない状況だ。上海では巨額を投じてF1グランプリ開催を手がけ、上海バンドに国際的な名店街エリアを積極的に建設。シンガポールも七千五百億円を投じて二つのカジノを建設。コンベンションセンターやテーマパークなども兼ねたエリアとなっており、海外からの観光客吸引に力をいれる。

 さらに、最大のライバルは二〇〇〇年十二月に中国返還されたマカオだ。香港と同じ「一国二制度」で、香港に比べて急速な観光業の発展で景気が安定している。新型カジノが次々とオープンし、フィッシャーマンズワープや新型テーマパークを次々と建設。今後五年間のホテルの部屋数は五万部屋増やす計画で、香港の「百万ドルの夜景」が色あせるほどだ。

 それに追い打ちをかけるのが、中国本土客の買い物ツアー「強要」問題。〇六年十月、中国青海省からのツアー客が買い物を断り、ガイドに置き去りにされる事件が発生して中国本土客からひんしゅくを買った。他にも上海や青島からの旅行客から苦情が上がり、問題化している。中国本土からの団体ツアーは安売り合戦が加熱し、香港の旅行代理店の中には原価割れを承知で請け負い、客にガイド指定の店で高い買い物を強要して赤字補填するケースが増えたからだ。

豊富な海洋生物を楽しめる香港海洋公園=深川耕治撮影

 その後も、中国中央テレビが三月三十一日、ゴールデンタイム番組「経済半小時」で格安香港ツアーの潜入取材を行い、ガイドらがツアー客に安価な宝飾品を高級品と偽って購入させた現場を放送。曽蔭権(ドナルド・ツァン)行政長官が三月二十五日の選挙で再選された二日後(二十七日)、与党と協調する財界系の自由党党首、田北俊(ジェームズ・ティン)氏が香港観光発展局主席に任命(任期は四月一日から三年間)されたが、就任早々、その釈明に追われた。

 中国本土客への依存を強める香港観光業界は古くからの悪習を絶つことが業界刷新と観光振興に必要不可欠になりつつある。(深川耕治)

【近年の香港観光業の動き】
2003年2〜5月 新型肺炎(SARS)が香港や中国広東省で猛威ふるう
2003年7月 中国本土からの「個人遊(個人旅行)」、「自由遊(自由旅行)」を一部解禁
2005年9月 香港ディズニーランド開園
2006年2月 2005年の香港への旅行者は約2336万人(前年比7%増)、2年連続過去最高
2006年5月 香港湿地公園(ウェットランドパーク)開園(現在まで100万人入場突破)
2006年6月 約80人の四川省団体ツアー客が旅行社の強制的な土産物販売で反発、騒ぎに
同7月 上海の旅行ツアー客が土産販売の強制で苦情
同9月 香港ディズニーランド開園1周年で入場者500万人突破(目標560万人に達せず)。ランタオ島の新ケーブルカー「昴坪360」が強風で止まり、観光客がゲーブルカー内で宙づりに
同10月 青海省の団体ツアー客が買い物を断り、ガイドに置き去りにされる
同12月 山東省青島の旅行ツアー客らが旅行社の強制的な土産販売でクレーム
2007年1月 中国本土の個人旅行資格、四十九都市に適用拡大