第7回  親中派vs.民主派

民主化へ長い“胎動”続く 
経済安定で「愛国愛港」貫く 親中派
2012年の普通選挙は困難に
「香港の良心」不出馬が打撃
風化する天安門事件、民主派低迷


2007年3月25日、開票直前の香港行政長官選挙風景

 香港の民主化問題は返還前から国際的には最も注目されていた問題だ。故・トウ小平氏は返還後の香港政治について一九八四年、香港の鍾士元氏ら財界系政治家ら有識者と北京で会談した際、「一国二制度とは一国という前提下での二制度であり、愛国愛港(中国を愛し香港を愛する)が最低限の基準だ。つまり、必ず、愛国者主体の香港人が香港を治めるということだ」「香港は資本主義なので社会主義を支持するよう求めないが、自民族を尊重し、香港の主権を祖国に復帰するために一国二制度を行使し、香港の繁栄と安定や中国本土の利益を損なわないようにする者が愛国者だ」 と述べている(党中央文献研究室編「百年小平」の周南・元新華社香港支社長談話より)。

 当時の中国最高指導者は、返還後の香港トップ、行政長官や香港特別行政区政府のあり方について「愛国愛港」が必要不可欠であることを強調。再選された曽蔭権(ドナルド・ツァン)行政長官(62)も再選後の政府ナンバー2となる政務官選びについて「愛国愛港が条件」と述べており、中央政府の意向と一致する発言が際だち始めた。

06年7月1日、香港の民主派デモに参加する陳方安生(アンソン・チャン)元政務官(右)と民主派の立法会議員ら

 香港のトップを決める行政長官選挙も親中派優位は変わらない。三月二十五日に投開票された同選挙では、現職の曽蔭権氏が六百四十九票を獲得、再選を果たした。民主派が擁立した立法会議員(民主派政党・公民党所属)で弁護士の梁家傑(アラン・リョン)氏(49)は百二十三票で大きく水をあけられ、曽氏が圧勝。景気回復のよる経済安定で政権への不満を減らした親中派の思惑通りの選挙結果となった。

 同選挙は親中派財界人が多数を占める定数八百人(現在は五人欠員)の間接選挙で、中国政府の間接支配に有利な選挙委員が大多数を占め、選挙委員百人以上の推薦がなければ立候補できない民主派にとって立ちはだかる高い壁で過去二回の選挙は無投票だった。

 だが、今回は昨年十二月十日、選挙委員を選ぶ選挙で民主派が予想以上に善戦し、曽氏は六百四十一人、梁氏は百三十二人の推薦で立候補。返還後初の候補者二人による投票決戦まで持ち込んだのは「大きな前進」(民主派)だ。

香港行政長官選挙で普通選挙の2012年実現を訴える梁家傑氏

 ただ、民主化勢力が目指す行政長官、立法会議員の完全普通選挙実現は遠い道程が続く。〇二年十一月から〇三年七月までの新型肺炎(SARS)騒ぎで香港では三百四十八人が感染、二百九十九人死亡。景気が冷え込み、香港基本法(ミニ憲法)二三条をめぐる国家公安条例制定の動きに反発した大規模な民主化デモが〇三年七月一日に行われ、五十万人以上が参加。翌年同日も五十三万人が参加して結果的に〇三年三月、董建華行政長官(当時)の任期途中辞任に追い込んだ。

 しかし、その後は景気が回復し、中央政府は〇七年の行政長官、〇八年の立法会議員の完全普通選挙化を却下。曽蔭権行政長官が圧勝して再選されることで、民主化運動は衰退してきている。それでも香港基本法では最終的な行政長官、立法会議員の普通選挙化の目標を謳っていることから、民主化問題は二〇一二年の完全普通選挙実現が焦点となっているが、現段階では中央政府の認可を得ることが困難で、「任期内(二〇一二年六月末)までに普通選挙実現に努力する」(曽行政長官)との公約は実現が厳しい状況だ。

06年7月1日、返還記念式典で談笑する曽蔭権行政長官(前列右から2番目)と中央政府駐香港連絡弁公室の高祀仁主任(前列左から2番目)

 行政長官選挙に立候補して善戦した公民党所属立法会議員の梁家傑氏は「二〇一二年の行政長官選と立法会議員選挙を一人一票の普通選挙に実現達成するため、政府を継続監察し、次期行政長官選に再び出馬したい」と徹底して民意としての普通選挙実現へ市民の再結集を訴える。

 民主派勢力にとって大きな痛手は昨年七月一日の民主派デモに「香港の良心」と呼ばれる陳方安生(アンソン・チャン)元政務官が参加しながらも、今年三月の行政長官選挙に不出馬を表明した点が大きい。過去の世論調査でも支持率の高かった親英派のチャン氏が民主派の新しい顔になれば低迷する民主派を蘇生できるとの目論見はもろくも崩れた形だ。

 毎年六月四日に香港で行われる天安門事件追悼集会も十七年間で様変わりしている。九〇年の初追悼集会には主催者発表で最多の十五万人(警察推計八万人)が参加したが、九一年が八万人、九二年四万人と激減し、近年も参加者数は低迷(表参照)。事件から十八周年を迎え、人々の記憶は風化し、事件を知らない世代も増えた。

 香港政府系のテレビラジオ局「香港電台(RTHK)」が今年三月に行った世論調査(市民一千七人対象)によると、「返還前の英国統治下と返還後の特別行政区政府を選ぶとすればどちらの市民になりたいか」との問いに「特別行政区政府下がよい」が四一・一%、「英国統治下に戻りたい」が三一%、「どちらでもよい」が二一・八%と回答。香港人のアイデンティティは英国統治下を懐かしむ声が依然として根強く、「あなたは何人か」との問いに六一・八%が「香港人」、三六・四%が「中国人」と答えている。親中度を増す香港財界と違い、「借りた時間と空間を生きる」一般市民は経済安定は大歓迎だが、中国への忠誠心は意外に進んでいない。(深川耕治、写真も)

【香港の天安門事件追悼集会参加者数動向】
       主催者発表   警察推計
2002年    4万5千人   1万8千人
2003年    5万人     1万7千人
2004年    8万2千人   4万8千人
2005年    4万5千人   2万2千人
2006年    4万4千人   1万9千人

【7月1日の香港民主化デモ参加者数動向】
       主催者発表   警察推計
2003年    50万人     35万人
2004年    53万人     20万人
2005年    2万1千人   1万7千人
2006年    5万8千人   2万8千人