第8回  急発展するマカオ

ラスベガス抜き、カジノ世界一
高額賭博の中国人客が下支え
経営権開放でバブル状態に


2007年2月11日、約50億香港ドル(750億円)を投入してマカオでオープンした巨大カジノ「新リズボア娯楽場」(240テーブル、スロット480台)

 昨年開業したばかりの米系カジノ「ウィン・マカオ」。スタッフルームからディーラーが時間制で五十人ずつ一斉に持ち場に向けて歩き出した。ディーラーは技術力はもちろん、標準中国語(北京語)能力も必須だ。客は広東語よりも北京語での会話が圧倒的に多く、VIPルームを含め、中国本土客が大多数で、欧米人は一割に満たない。

 ルーレットやブラックジャック、バカラ、大小(ダイ・ショウ)、ブーレなどのカジノテーブルには中国本土客がずらりと取り囲み、北京語が飛び交う。「ラスベガス風の明朗なサービスがいい。持ち金は五十万元(七百五十万円)だが、賭博仲間じゃ、少額な方だ」。福建省アモイから来た不動産業の男性、李さん(48)はロレックスの高級時計をはめ、ラフな服装でタバコをくゆらせながらバカラに興じる。

 別の禁煙エリアのカジノテーブルには個人旅行解禁で浙江省層からきた十人ほどの中国本土客たちがルーレットの勝ち負けで大騒ぎ。勤務が終わったディーラーに話を聞くと、「高額の賭けをする羽振りの良い常連客は大多数が大陸(中国本土)の金持ち。マカオへの個人旅行解禁がカジノ熱をますます高め、ディーラーは人手不足で給与も上がっている」と確かな手応えを感じている。

米系カジノ「ウィン・マカオ」でブラックジャックを楽しむ人々

 マカオは香港同様、一九九九年十二月、中国に返還され、香港と対照的に「一国二制度」が適用されて以降、経済成長は順調だ。マカオ政府の統計によると、カジノに勤務する人は〇六年末現在、約三万六千人。約二十七万六千人の労働人口を持つマカオで約一三%がカジノで働いている。月給はマカオ人の場合、平均一万三千パタカ(一パタカは約十五円=十九万五千円)で香港人を含めて外国人の場合は平均二万六千パタカ(三十九万円)だ。しかも、五千六百人分の空職があり、若者は他業種よりも給与が二倍近く高いカジノ勤務にどんどん吸収されていくのが実情だ。

 マカオには二十三の政府公認カジノがある。マカオが一九九九年十二月二十日、中国に返還され、マカオのトップである何厚●(金ヘンに華)(エドモンド・ホー)行政長官は〇一年、カジノ経営権の開放を行い、米ラスベスガス系資本など二百五十億米ドルが投じられ、カジノの経営競争が激化した。

巨大カジノ「新リズボア娯楽場」が入る新リズボアホテル(右)は巨大な中国銀行ビルと競うように建つ

 〇四年に米ラスベガス系カジノ「金沙娯楽場」(ラスベガス・サンズ)、米系のウインリゾート(永利リゾート)、香港系の銀河娯楽場(ギャラクシーカジノ)などが次々と進出。返還前、リズボアホテルなどマカオのカジノ経営権を一手に握っていたマカオ旅游娯楽有限公司(STDM)総裁のスタンレー・ホー氏は「私はマカオで四十年の経験がある。彼ら(米ラスベガス資本企業)は待つことを覚えないと私に追い付くことなどできない」と述べ、今年二月、約五十億香港j(七百五十億円)を投入して巨大カジノ「新リズボア」(二百四十テーブル、スロット四百八十台)を開業して巻き返しを図っている。

 カジノはラスベガスに二百件以上あるのに対し、マカオは十分の一程度だが、「ハイローラー」と呼ばれる富裕層の高額掛け金者が中国本土から押し寄せ、ラスベガスをしのぐ売り上げを記録している。カジノ経営権開放による外資導入と中国本土の高額賭博客がマカオのカジノ振興の主要因だ。

 一方で中国の地方幹部がお忍びでマカオで豪遊し、公費や収賄金を転用して高額掛け金でカジノにつぎ込む事件が問題化。中国政府は賭博禁止令を出して徹底取り締まりを呼びかけるが、発覚するのは氷山の一角に過ぎないとの批判が出ている。

マカオのカジノ王、スタンレー・ホー氏が経営するリズボアホテル(左)に隣接してオーブンした米系カジノ「ウィン・マカオ」

 マカオは二〇〇六年のカジノ総収益が七十二億米ドルで米ラスベガスの六十六億米ドルを抜いて世界一。〇六年のGDP(域内総生産)は二万八千四百三十六米ドルで香港(二万七千六百四十一米ドル)を初めて抜いた。「東洋の真珠」と呼ばれた香港よりもGDPで上回る急速な発展ぶりだ。経済成長率も一六・六%でカジノ産業の売上高は二二%増、カジノ産業への投資額は三九・六%増という驚異的な急成長が続く。

 〇六年、マカオを訪れた観光客数は前年比一八%増の約二千二百万人。うち中国本土客が約一千二百万人(五四%)、香港客約七百万人(三二%)、台湾客約百五十四万人(七%)の順となっている。中国本土の富裕層が一夜で費やす巨額マネーはカジノ収益の半分以上になる計算。観光収入は三百五十三億パタカ(五千二百九十五億円)で前年比二三・八%増という“カジノ・バブル”状態だ。

 香港大学に留学経験を持ち、民生問題に詳しい関翠杏マカオ立法会議員は「マカオのGDPが香港を上回ったのはカジノ産業を含めた観光業だけが急成長しているだけで決して楽観できない。狭い土地の不動産高騰を引き起こし、カジノ以外の産業構造が多元化せず、大部分の庶民は経済効果の恩恵を受けていない」と産業全体の底上げにはつながらず、カジノ一極集中による目先の急成長に惑わされるべきではないとの厳しい見方だ。(マカオ・深川耕治、写真も)

【マカオ】中国広東省珠海市と陸続きで接し、珠江の河口付近に位置する。人口四十九万八千人(〇六年三月現在)で華人が九五%を占める。政府歳入の約七割がカジノ・観光業による。香港から南西七〇キロで香港とマカオは毎日二十四時間往来する高速船で約一時間。マカオ半島部とタイパ島、コロアネ島があり、総面積は東京都足立区の約半分(二七・三平方キロ)。一九九九年十二月二十日にポルトガルから中国に返還され、香港と同じく、返還後五十年間は「一国二制度」が適用されている。〇五年七月、広場八カ所と二十二の歴史的な建造物が「マカオ歴史地区」として世界文化遺産に登録。