第9回 カジノ景気で中台統一のモデルに

港珠澳大橋の実現高まる
マカオを一国二制度の成功例に
バブル化懸念、他業種“地盤沈下”も


マカオのソフトドリンク販売店では「人民元取り扱いOK」の表示も

 「週末になるとマカオから金持ちが大勢やって来る。いまや、香港よりもマカオに移民を希望する大陸人(中国人)が多い」。マカオから陸続きの中国広東省珠海市。経済特区として深セン、汕頭(スワトー)と共に改革開放の実験地となった珠海市内の高級レストランで調理師をしている王建波さんはカジノ景気に沸くマカオが珠海よりも急速に発展する姿を間近に感じながら羨望のまなざしでこう話す。

 一国二制度の成功はもはや香港でなく、マカオがモデルとなりつつある。一九九九年十二月二十日、香港より約二年半遅れでポルトガル領から中国に返還されたマカオは、カジノ経営権の開放でカジノやテーマパークが増え、観光客も年々増加して観光収入はうなぎ上り。しかし、カジノ産業の一極集中的な急発展では、製造業など基盤産業が取り残され、マカオ経済全体の底上げにはならない。

 マカオのカジノ業界は製造業など他業種よりも約二倍の高収入で、別の専門業種を目指していた若者が専門学校を辞めて目先の収入だけに目がくらみ、カジノ業界に就職する傾向が強まった。“カジノ・バブル”現象は他業種の人材難を深刻化させている。メーデーの五月一日、政府高官の汚職反対や所得格差の是正を求めた約一万人のデモが行われ、デモ参加者は警官隊から威嚇射撃を受けるなど一時騒然とした事件はその反映だ。

マカオの中心部、セナド広場

 陳広漢中山大学教授は「カジノのみの経済発展政策は市民の貧富格差を拡大させ、産業の多元化ができないマイナス要因を生む。長期的には土地不足とカジノ以外の専門技術職の人材難に迫られ、法整備が不完全であれば産業全体の衰退につながるので隣接する珠海市など広東省との産業連携が繁栄持続の鍵を握る」と警鐘を鳴らす。

 「人民元で買い物OK」。マカオでは消費熱の高い中国本土客に対応するため、商店の至る所で看板が出ている。ホテル宿泊時は香港ドルかパタカ(マカオ通貨)しか使えないが、カジノ、レストラン、商店では人民元で支払い可能な場所が広がっている。香港ではすでに人民元口座の開設や人民元決済のクレジットカード使用、人民元の中国本土への送金など香港の銀行で対応可能になりつつある。人民元切り上げへの国際的圧力が高まる中で、香港が人民元オフショア市場実現への実験場として重要な役割を果たし始めていることから、マカオも追随する動きだ。

 香港のゼネコン、ホープウェル社の胡應湘(ゴードン・ウー)総裁は三月末、マカオの研究フォーラムで「年内に港珠澳大橋のプロジェクトが具体的に決着するだろう」と自信たっぷりに話した。

 胡総裁は、マカオと珠海、香港を海上大橋で結ぶ「港珠澳大橋」計画(全長三十五キロ)を一九八九年に最初に提唱した生みの親。実現すれば三十分で香港と珠江デルタ西部が結ばれ、製造業の移転や観光の促進を促すと主張したが、巨額の投資が必要なため一時立ち消えた。しかし、二〇〇〇年以降、香港と中国本土のインフラ拡充が討議されるようになって再び現実味を帯び始め、朱鎔基首相(当時)も支持表明したことで大きく動き出した。

世界遺産の一つとなったマカオの聖ポール天主堂跡

 同大橋が完成すれば、物流網強化による経済効果が期待できるだけでなく、人の往来拡大で香港やマカオと中国本土との経済一体化がさらに加速する。橋の東玄関口(香港側入り口)は香港ディズニーランドがあるランタオ島で、橋の西側はマカオと珠海の二又接続。船舶の通航を妨害しないように一部地域は海底トンネル方式を導入する見込みだ。

 「港珠澳大橋の実現は、台湾統一後のモデル」との見方も根強い。福建省アモイと海上でわずか二キロ余りしか離れていない台湾領の小金門島まで金厦大橋を建設する構想が中台双方で論議され、未だに構想の域を超えない事態が続いているからだ。〇三年八月、中国国務院は港珠澳大橋前期工作協調小組の設置を了承。本格的な後押しを始めたのは、中台統一のモデルとして先駆けになるとのしたたかな読みもある。

 中国広東省を流れる大河、珠江周辺の肥沃なデルタ地帯「珠江デルタ」とマカオ、香港が経済一体圏となる「大珠江デルタ経済圏」構想は同大橋実現で大きく前進するが、あくまで原点は故・トウ(登ヘンにオオザト)小平氏の悲願、両岸(中台)統一工作の一里塚ということになる。(マカオ・深川耕治、写真も)