香港企画記事速報
2004年9月15日記

民主派「共闘」の盲点浮き彫り−香港立法会選挙

高得票率だが議席伸びず失速

 十二日投票の香港立法会(議会、定数六〇)選挙は、民主派が前回(二〇〇〇年)より三議席増の二十五議席、親中派が三議席減の三十五議席で与党として過半数を制した現状維持の構図は変わらず、香港の民主化は減速を迫られた。当初、議席数躍進が期待された民主派は直接選挙枠で民主党主導の票配分の共闘調整が行き詰まり、先回より高得票率(62・5%)ながら過半数に届かず大苦戦。組織票や浮動票獲得で過去の苦い教訓を生かした親中派と中央政府の用意周到な「愛国愛香港」工作が奏功した形だ。
(深川耕治,、04年9月15日記、写真も)

親中派、「愛国工作」が奏功、過半数維持

 「民主派は民主化と人権問題の協力では問題なかったが、経済・社会政策では求同存異(求める内容は同じだが意見や手法が全く違う)で足並みがそろわず、わが党が大打撃を受けた。当選者はすべて現職で新人は落選した」――。立法会で第一党から第三党に転落した民主党の楊森主席(写真右・中央)は、選挙結果が確定した十三日午後、著名な民主活動家である同党元主席の李柱銘(マーチン・リー)氏と共に記者会見し、沈痛な面持ちで今回の選挙対策が親中派に及ばず不振続きだったことを率直に認めた。
 民主派最大勢力である民主党は前回、親中派与党・民主建港連盟(民建連)党首のスキャンダルが追い風となり、十一議席を獲得して第一党に躍進したが、今回は民主党候補者・何偉途氏の中国本土での買春事件(落選)、再選を狙う●(サンズイに余)謹申氏の不動産をめぐる公費流用疑惑(再選)など一連の醜聞で逆風にさらされた。
 弁護士や学者が多い民主党にとって、最大の弱点は、親中派に比べて遜色(そんしょく)ない実務的な経済政策、行政改革が打ち出せず、多様すぎる民主化、人権擁護、自由化のみを強調して「現政府の反対党」と化し、香港経済振興の説得力ある青写真が示せないことだ。与党が醜聞まみれで支持率が落ちている時は追い風が吹き、浮動票が流れ込んで予想以上の勝ち戦だが、逆風が吹くと、固定票が少ないために的確な票読み判断ができず、他の民主派候補との票配分で共闘が裏目となり、効果的な議席獲得ができない最悪の結果をもたらす。
 その最大の被害者で、大敗したのが劉慧卿(エミリー・ラウ)氏率いる民主派政党・前線(フロンティア)だ。前回四議席だったが、共闘を組んだために劉氏再選の一議席のみとなり、台湾独立派と手を結ぶイメージが強い劉氏の発言力を封じたい中央政府としては予想以上の「民主派封じの成果」だった。
 直接選挙枠の香港島区では、民主党序列二位の李柱銘候補が最終盤苦戦で落選の危機との地元メディア報道でテコ入れし、結果的には得票率37・2%で余裕の再選。逆に民建連は大苦戦(得票数21・1%)ながら二議席を獲得、再選確実とみられていた前線の何秀蘭候補が民建連の蔡素玉氏にわずか八百二十一票差で落選し、李柱銘氏のテコ入れ策が大失策となった。
 民主派で新たな「顔」となったのは人気ラジオ番組のパーソナリティーを辞めて出馬した辛口評論家の鄭経翰氏(写真右)、デモ活動常連で「長毛(長髪)」とあだ名される過激な民主化組織「四・五行動」のリーダー・梁邦雄氏(写真左)が初当選を果たしたこと。彼らの辛辣(しんらつ)な言動は中央政府の新たな頭痛の種となりそうだ。香港基本法四五条の行政長官選挙について改革を求める基本法四五条関心組が議席数を二議席増の四に増やしたことも選挙改革への関心の表れだ。
 一方、二議席増で第一党(十二議席)に躍り出た民建連の馬力党首(写真左・中央)は「党として最悪の時期は過ぎ去った」と胸をなで下ろす。昨年十一月の区議会選挙で大敗した同党は中央政府の緻密(ちみつ)な後押しで先回より六万票増やした。中国本土から香港への個人旅行解禁、経済緊密化協定(CEPA)、アテネ五輪の中国人金メダリストの香港訪問で中国への愛国心を醸成させ、中国本土との結び付き依存が高いことでの香港経済の安定・発展のメリットを有権者に浸透させた。
 特に投票日直前の中国人金メダリストの香港でのパフォーマンスは二〇〇八年の北京五輪での経済効果、愛国心高揚を香港市民に植え付け、親中派有利の最大宣伝効果となった。次回の立法会選挙も〇八年の北京五輪直後に開催されるならば、同様の効果が得られると中央政府は踏んでいるはずだ。
 今回の選挙結果の最大の特徴は、「一敗二進」。親中派の二大与党、民建連と財界寄りの自由党が議席を伸ばし、最大野党の民主派勢力だった民主党が議席を減らし、三党鼎立(ていりつ)の力関係が親中派有利の現状維持となり、今後四年間、「猶予期間」として続くようになった点にある。
 香港立法会全体としては民主派勢力が三議席増え、親中派が三議席減ることで、親中派では中道寄りの自由党の発言力が強まる一方、民主派の中での民主党の求心力が弱まって民主派内の勢力図が様変わりした。香港の経済発展と安定を最優先に、「経済効果をもたらす民主化」という民意も財界ペースで進めるという「香港経済力優先」路線がより明確になった形だ。
 香港トップである董建華行政長官の最終評価も、この一点に絞られるため、議会対策は、従来の「中央政府のイエスマン」に成り下がるトップダウン方式の中国依存路線だけではかじ取りが困難となり、香港の景気安定最優先のために中央政府に逆提案・説得交渉できる高レベルの独自経済政策、民主化ロードマップ提示が必要不可欠となってきた。董行政長官の支持率低迷から見ても董氏への期待感は極めて薄く、ポスト董建華となる次の行政長官に、その手腕(中央政府と限りなく対等にモノを言い合える香港優先のスタンス)を求めたいというのが香港市民の本音だ。
 今回の立法会選挙は、〇八年の次期行政長官選びが、民主派の要求通り、民意を直接反映する完全普通選挙で決めるか、従来通り、中央政府の「メガネ」にかなった人物を裏工作で決めて間接選挙で決定するか、結果次第で大きく変わる余地があったが、親中派が過半数を制することで、後者にほぼ確定。昨年七月の民主化要求五十万人デモと前後し、連立与党の自由党が最初に主張した「二〇一二年の行政長官直接選挙実施」は、漁夫の利を得ようとする最大与党・民建連の追認も得て現実味を帯び始めている。
 次期行政長官の有力候補の一人に目されている自由党の田北俊(ジェームズ・ティエン)主席(写真左)は十三日、「私はまったく(出馬)意思がない。財界の理念に合うのは唐英年(ヘンリー・タン)財政官」と語り、早くも行政長官候補者選びの主導権を得ようとのキングメーカー的な存在感を持ち始めている。一昨年七月の国家安全条例制定反対デモ後、董長官の行政諮問機関・行政会議メンバー(閣僚)を辞職して「香港政府や中央政府に民意を反映してノーを言える人物」と株を上げ、香港商工会の発言力を代弁する田氏の動向は香港政界でも「注目株」だ。
 立法会での親中派、民主派の権力バランスが大きく変わらなかったことで、両派のせめぎ合いは選挙制度改革、経済政策などをめぐり、主導権争いのせめぎ合いは当分続く見通し。中央政府による香港への遠隔操作は、その向こうに控える台湾問題の解決に向け、波乱含みの重い課題を残したままだ。
 香港立法会 香港の議会。香港特別行政区が一九九七年七月一日にスタートして以降、立法権機関として機能してきた。九八年七月一日、第一期立法会が二年間の任期で開始され、その後は四年ごとに選挙が行われている。〇〇年に第二期立法会選挙、そして今年九月十二日に第三期選挙が行われ、直接選挙枠六ブロック三十議席と間接選挙枠(業界別)三十議席の計六十議席確定のために約百七十八万人が投票。投票率は返還後最高の55・63%だった。
香港立法会(60議席)の政党別議席数
親中派 計35     民主派 計25
民建連 12(10)  民主党 9(11)
自由党 10(8)   前線  1(4)
その他 13(19)  基本法45条関心組 4(2)
※カッコ内は前回選挙の獲得議席数