香港企画記事速報
2007年7月16日記 深川耕治

普通選挙実施へ道険しく 香港
改革案、実施時期延長の“玉虫色” 

香港基本法の最終目的、実現遠く

中央授権論に逆らえぬ香港政府
一刻も早い実施求め批判 民主派
行政長官の公約実現微妙に
報道の自主規制も進む


 中国返還十周年を迎えた香港では、民意を反映する全面普通選挙実施への改革が香港政府主導で進み始めている。十一日、政府トップの行政長官と立法会議員の全面的な普通選挙に向けた改革素案<<(表参照)>>が発表されたが、実施時期や方法は民主派、親中派の意見を列記した選択可能な列記案で民主派が要求する二〇一二年実施は選択肢の一つに過ぎない。中央政府や親中派の意向も取り入れることで素案は「玉虫色」となり、早期実施に暗雲が立ちこめている。(深川耕治、写真も)


7月1日、香港島中心部で行われた完全普通選挙実施を求める民主派デモ=深川耕治撮影
 香港政府が発表した素案(政制発展緑皮書)では選挙人数や候補者数、実施スケジュールについてそれぞれ三つの方案を提示し、最も早くて二〇一二年、遅ければ行政長官選が一七年以降、立法会議員選が一六年以降にずれ込む提案となっている。今後、十月十日まで三ヶ月間の公開諮問を行い、意見聴取後、再度討議を重ねていく予定だ。

 発表記者会見で香港ナンバー2の唐英年(ヘンリー・タン)政務官は「政府の立場ではなく市民の多くの意見を聴取して普通選挙の改革を討論する場として期待する」と述べ、あくまで素案として市民や各政党の意見を聴いて内容を吟味する前段階であることを強調した。

 同素案に対して猛反発したのは民主派だ。民主党の何俊仁主席は「多項目の選択肢がある“やらせ公開諮問”で、期間も短いので市民は十分に討論し尽くすことができないし、一二年に完全普通選挙を実施したいとの民意を分断するやり方だ。政府は最終的な改革案作りをコントロールすることに腐心している」と失望感を示し、警戒感を強めている。

 曽蔭権(ドナルド・ツァン)行政長官は三月の行政長官選で再選した際、「任期内で普通選挙問題をできる限り解決する」と公約。香港大学民意研究計画が六月に行った世論調査では二〇一二年に行われる行政長官選挙で直接選挙を実施することについて賛成は五七%で過半数となっており、普通選挙実施への市民の意識は高い。

 市民の過半数が望む行政長官選の普通選挙案は、親中派が牛耳る八百人から組織される選挙委員会委員と約四百人の区議会議員を合わせた一千二百人の指名委員会が複数の候補を擁立し、最終的に市民一人一票による直接選挙を実施するという民主派が要求する案だ。

 香港のトップである香港行政長官(任期五年、再選一回まで)を選出する行政長官選挙は、現段階では親中派財界人が多数を占める定数八百人の間接選挙で、中国政府の間接支配に有利な選挙委員が対多数を占め、選挙委員百人以上の推薦がなければ立候補できない。また、立法会議員(任期四年)選挙は定数六十でうち三十人が各業界、二十四人が地方選挙区、残り六人は選挙委員会から選出される。

7月1日、第三期香港特別行政区政府の幹部就任宣誓式は胡錦涛中国国家主席も参加=深川耕治撮影
 香港基本法(ミニ憲法)によると、香港行政長官選挙と立法会選挙は〇七年以降、完全普通選挙に変更できる可能性を示していたが、〇四年四月、中国の全国人民代表大会(全人代=国会)は「〇七年以降とは〇七年に実施するという意味ではない」との解釈を示し、〇七年の行政長官選、〇八年の第四回立法会選の完全普通選挙の可能性を否定。民主派は一二年の普通選挙実施を要求している一方、最近は中央政府および親中派はさらに遅延させる動きを見せている。

 これまでの動向から、民主派、親中派双方の立法会議員の間では、行政長官選挙については一二年の選挙で選挙委員数拡大などの改革を行い、一七年から普通選挙を導入する案になる、との見方が強い。

 中国の呉邦国全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員長は六月六日日、「香港の高度な自治は中央政府が授けたものであり、中央が香港に付与した分だけ香港は権利を有する」と中央授権論を発言し、香港の民主派は猛反発。毎年七月一日に行う恒例の民主化要求デモで参加者数の増加を見込んだが、実際は返還十年の多様な記念イベントに押され、参加者数は警察推計が昨年比八千人減の二万人(主催者発表は一万人増の六万八千人)で期待はずれとなった。

 親中派と民主派は返還十周年を区切りに親中派優勢に転じつつある動きの中で、各党は今回の公開諮問での市民の議論次第で十一月の区議会議員選挙に向け、選挙制度改革を中心に対策を練り直す。来年秋には立法議員選挙が控えており、香港は新たな政治の季節を迎えている。

 香港記者協会が発表した「香港言論自由年報(二〇〇七年版)」によると、中国返還後の十年間で「中央政府や広告主の意向を意識するメディア自主規制が強まっている」と指摘。反中国のスタンスで売る香港紙「蘋果(りんご)日報」などには広告掲載を遠慮する企業が増えている。

 その一方で、香港経済は返還十周年を迎えてハンセン指数が上昇。十三日には香港株式市場は初めてハンセン指数が二三〇〇〇を突破し、前月比約一二%増で活況だ。中国では五月、個人投資家が香港株を一部購入できる制度を導入し、香港株への投資を増やし、香港が経済的に中国依存を強めることで経済の繁栄が維持される構造になりつつある。

【香港行政長官選挙の改革案】

1 選挙委員会の委員数(三択)
・800人より削減
・800人
・800人より増員(1200人、1600人など)◎
2 立候補者数(三択)
・10人またはそれ以上◎
・8人以内
・最多で2〜4人
3 完全普通選挙の実施時期(三択)
・2012年◎
・2017年
・2017年以降
【香港立法会議員選挙の改革案】
1 選挙方式の変更(三択)
・職能別議席枠を直接選挙による地区選出枠へ切り替え◎
・職能別議席枠を保留、ただし、選挙権がある人から選ぶ
・議席数を区議会から上乗せ、段階的に普通選挙に変更
2 実施時期(三択)
・2012年◎
・2016年
・2016年以降
(◎は民主派が支持)