台湾企画記事
2004年11月28日記

独立宣言後の新憲法こそ有効
台湾新憲法の本質は国家承認から

許慶雄・淡水大学大学院国際学科教授に聞く

「中華民国」は国家でなく旧政府

 台湾では陳水扁総統が昨秋打ち出した住民投票による二〇〇六年の「新憲法」制定と〇八年施行の実現に向けた世論形成が進められている。従来の中華民国憲法の限界と矛盾、新憲法制定が必要である理由について、台湾教授協会法政委員会委員長を歴任し、国際法理論の観点から「台湾共和国」独立による新憲法制定が唯一の選択肢と主張する許慶雄・淡水大学大学院国際学科教授に聞いた。(2004年11月28日記、聞き手・深川耕治、台北市内で,写真も)


 ――現行の中華民国憲法が、一つの国の憲法として国際社会の中で認知される可能性はあるか。認知されなければ、陳水扁政権は、どのような形で新憲法を制定すれば国際社会で認められる憲法となりうるか。

 「台湾の現状は中華民国という旧政府しか存在せず、中華民国は国家ではない。国連を中心として『一つの中国』とは中華人民共和国なのか、中華民国なのか、正当性を争っているが、中華民国と外交関係を持つ中南米を中心とする二十七カ国以外は、中華民国を非合法な旧政府としか見ていない。そんな現状で「新憲法を制定する」と主張したところで、大多数の国連加盟国は憲法とは認めない。米国カリフォルニア州でも州法があり、香港にも香港基本法(ミニ憲法)があるが、地方政府の法律であって一国家の最高峰の憲法ではないのと同じだ」

 「中華人民共和国の憲法は一九五四年に制定され、改革開放政策を打ち出して一九八二年以降、四回にわたって改正された。中華民国憲法はすでに一九五四年の中華人民共和国憲法制定によって廃止されたことになる。台湾は独立宣言して新憲法を制定しない限り、意味がない。李登輝前総統の周辺、黄昭堂・台湾独立建国連盟主席(台湾総統府国策顧問)に対しても指摘しているが、せめて新憲法制定の一分前に新国家の独立を宣言しない限り、いくら内容が素晴らしくても新しい憲法とは認められない。憲法学的に見れば、新国家の独立宣布あっての新憲法であり、このままでは新国家の新憲法としての効力はない」

 ――中国や米国にとっては「独立宣言なき新憲法制定」ならば、猛反発するほどの動きではないということか。

 「米中にとっては台湾が新憲法を制定することは好ましくないと阻止するだろうが、現状での新憲法制定ならば、香港基本法の制定のような一地方政府の法律制定と同レベルとしか国際社会は認めないだろう。十月に訪中したパウエル米国務長官が『台湾は独立国家でなく、国家主権を備えていない』と香港メディアに話したことは、国際社会を熟知した彼らの正直な見解だ。李登輝前政権は二国論を打ち出し、陳水扁政権は一国一辺論で、すでに台湾は独立主権国家なので独立宣言する必要はないと主張しているが、一方で、台湾は外交文書の署名では中華民国政府として二十七カ国と外交関係を結んでいても、あくまで政府承認であって国家承認として結んでいない」

 ――九〇年代に台湾教授協会で憲法草案の骨子づくりに最初に参加した際、どういう難題があったか。

 「当時、台湾教授協会で憲法草案を検討する時、実際に関わった政治や憲法の専門家はわずか六人しかいなかった。大半が自然科学、数学などの専門家なので、憲法への理解は制限されていた。国家が保障すべき基本的人権についての憲法への導入すら受け入れない状況で、試行錯誤が続いた。今後は、国際的な憲法学者ら、テクニカルな部分で専門家の意見を多数取り入れ、憲法草案を検討していくべきだ。現状では新憲法を制定しても未完成で、時間をかけて何度か改正しないと本物の憲法にならないだろう」

 ――台湾にある中華民国体制は「独立国家」でなく、中国旧政府の残存勢力、叛乱勢力に過ぎないとの歴史認識は、現代の国際法理論でも常識化しているのか。

 「現代の国際法理論の観点から見れば、中華民国政府と外交関係を樹立する国家はすべて外交文書で『政府承認』として行っているだけで、中華民国を一つの国であるとする『国家承認』として国交樹立している国は一つもない。一旦、中華民国を『国家承認』すれば、国交断絶や戦争状態、中華人民共和国との国交樹立が行われたとしても、『国家承認』自体を覆すことはできない。今後、台湾が独立国家として国際社会で認知されるためには、第一に『台湾共和国』なら『台湾共和国』という国名で国連へ新加盟申請すると共に、外交関係を結んでいる中南米を中心とする二十七の国に対して新たな国名で『国家承認』を得ることが最優先されるべきだ」

 ――台湾内部では中華民国体制がすでに一つの独立国家として成立しているとの主張もあるが、国際社会や国際法理論では中華民国政府を中国の旧政府としか認めていないということか。

 「その通りだ。台湾の現政権や政府高官、学者らは、中華民国がすでに独立した主権国家であると繰り返し主張して台湾民衆を欺き、多くの誤解を招いてさらなる危機に自ら陥っている。現在の中華民国が国家ではないことをはっきり認めるべきだ」

 「一九一二年、中華民国は中国の新政府として発足したのであって新国家の樹立や中国から完全に分離・独立したわけでもない。長大な中国史の中で明朝、清朝などは政府の名称であり、中華民国もその一つととらえるべきだ。一九四九年に樹立した中華人民共和国政府も中華民国政府を打倒して誕生した新政府であって決して中国から分離・独立した新国家ではない。モンゴル共和国が中国から分離・独立して新国家を創建した形態とはまったく違う」

 ――中華民国と中華人民共和国は「一つの中国」の中の各政府名称で、中国大陸から台湾に逃げ込んできた蒋介石率いる国民党政権は中国旧政府の残存勢力ということか。

 「旧政府の残存勢力であり、中国の叛乱分子、団体と見なされるべきだ。台湾が中華民国体制を維持することは、中華人民共和国が合法的に台湾を自国の領土の一部として獲得することを可能にしてしまう。現状では、台湾の中華民国体制は主権国家ではなく、合法的な政府でもなく、ただの叛乱勢力に過ぎない。本来ならば一九七一年、中華人民共和国が国連に加盟し、中華民国が脱退した前後で中華民国は独立を宣言すべきだった。これ以降、『二つの中国』を国民党政権が主張してもナンセンスになり、大陸反攻は不可能な情勢となっている」

 ――台湾の中華民国政府は対内的には「中華民国は独立主権国家」と主張している一方、国際社会では一貫して独立国家であると主張しない矛盾が、台湾で国際会議を行う場合、「中華民国」の名称と国旗を使用できない陳腐な現象を引き起こしているのか。

 「台湾内で中華民国は国家だとの理論が存在しているのは事実だ。主な根拠は、一九九〇年代に民主化を進めた台湾は、過去の中華民国とまったく異なる独立国家になったということだ。台湾での中華民国は人民が総統や立法委員(国会議員)を直接選挙で選び、政府や軍隊、人民が存在していることは他の国家と変わりがないという点や李登輝政権終盤に「二国論」を提議し、中華民国と中華人民共和国は異なる二国であることを主張していることなどが根拠として挙げられている」

 「ただ、その一方で、世界貿易機関(WHO)加盟やアジア太平洋経済協力(APEC)加盟でも、世界各国が国家名目で加入しているのに中華民国政府は国家であることを否認して『経済体』として申請している。APECでは外交部会では参加が許されないのはそのためだ。国連加入問題でも、台湾外交部(外務省)が中国の代表権再検討を提議するのみで、新たな国家として国連加盟を申請しようとしない。対内的に中華民国はすでに独立主権国家と主張しつつ、国際社会では一貫して中華民国を独立国家であると主張しない矛盾は現状のままでは収拾がつかない」

 ――台湾はどのような形で主権独立国家になるべきか。

 「現代国家が憲法を実施するには必ず主権、領域、国民を明確にしなければならないが、台湾の場合、中華民国体制が国際法学上、中国の旧政府として認定されているので主権国家とはいえない。新国家を建設するには、@エジプトとシリアが合併してアラブ連合共和国を建国したような合併のケースAリベリアのようにどの国にも属さない地域で独立するケースB旧ソ連が崩壊して十六の新たな国を建設するケースC母国からの分離・独立、の四種類がある。台湾の場合、中国からの分離・独立というCの選択肢しかない。台湾独立連盟は中国が崩壊するまで待つというBを選ぼうとするが、中華民国政府が中国の旧政府であるという事実から見れば、ブッシュ米大統領や日本の小泉首相、国際社会が納得できる台湾の独立方法はCしか選択肢がない。」

 ――現行の中華民国憲法の問題点は何か。

 「一九四六年、中国国民党と中国共産党の闘争が激化した時期に採択された中華民国憲法は四七年十二月二十五日、当時の国民党政権が民主政治を実行する決意表明のため、各党派の改正要求案を大幅に取り入れ、無理に制定・施行された。適用困難な部分が制定当初から存在していた中華民国憲法は九一年、最初の改正が行われ、その後、九二年、九四年、九七年、九九年、〇〇年と計六回改正されている」
 「改正後の問題点としては、第二三条に国家の安全と社会秩序を守るために人権を制限する規定があり、弱者を保障する社会権が保障されず、行政権の帰属に不明確な部分があることなどだ。一般の違憲審査とまったく無関係な憲法裁判所の設置や中央・地方政府の権限を憲法で明記していない矛盾点なども地方自治の問題点として挙げられる」

【中華民国憲法の修改正手続き】 中華民国憲法第一七四条によると、憲法改正は@国民大会代表(三百人)総数五分の一の発議によって三分の二の出席と出席代表の四分の三の議決によって修正できるA立方委員四分の一の発議により四分の三の出席と出席委員四分の三の議決に基づいて憲法改正案を作成し国民大会に承認を提議することができる、のいずれか一つで憲法修正が可能。また、中華民国憲法の追加修正条文第一二条によると、憲法修改正は、立法院(国会・二百二十五議席)の立法委員(国会議員)総数の四分の一以上の提議を経て総数の四分の三以上の出席と出席委員の四分の三以上の決議によって憲法修正案を提出できる。公告から半年後に中華民国自由地区選挙民の投票によって是非を決定し、有効同意票が選挙民名簿総数の半数を越えた場合、通過とし、憲法第一七四条の規定は適用されない。

【Hsu Ching-Hsiung】1948年、高雄生まれ。台湾大学法学部政治学科卒。近畿大学大学院法学研究科(憲法専攻)博士課程前・後期修了、法学博士。淡水大学日本研究科長、国立政治大学国際関係研究センター特約研究員、国立放送大学非常勤教授、東呉大学政治学科非常勤教授、台湾教授協会法政委員会委員長を歴任。著書に「現代国際法入門」(月旦出版)、「国連と台湾共和国」(前衛出版)など。