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2013年6月2日記


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習主席お忍び乗車は「事実」
党の圧力で「虚報」に
 中国系香港紙「大公報」が4月、中国の習近平国家副主席(当時)が北京市内のタクシーにお忍びで乗車した経緯を詳細に報じた後、虚報だったと謝罪した前代未聞の事件をめぐり、別の香港紙が「乗車は事実だが習主席が報道されることを拒んで虚報謝罪に至った」との見方を紹介し、真相が徐々に明らかになってきている。(深川耕治=2013年6月2日記)

タクシー運転手は所在不明

 
 香港紙「大公報」4月18日付の誤報とされた記事
 問題となったのは、中国の最高指導者である習近平総書記が国家主席に就任する直前の3月1日夕、北京市内でタクシーに乗車し、運転手に「一帆風順(順風満帆)」とサインを書いた気さくで意外な親民ぶりを報じた4月18日付の香港紙「大公報」の記事。
 同紙は3月1日夕、習総書記が北京市内でタクシーに乗車し、釣魚台ホテルまで乗せたタクシー運転手との会話内容などを運転手に直接取材して4月18日付で独占スクープとして報じたが同日夕、「重大な事実関係の虚偽があった」として一転、読者に謝罪した。

 同日午後2時の時点では、新華社通信も中国版ツイッター「微博」上で同内容を「北京の交通部門に確認したところ事実だ」と記者の署名入りで認めていたが、午後5時50分になって突如、「報道は虚偽情報だ」と断じた。

 大公報の報道を転載、紹介していた人民網、財経網など中国各ネットメディアは削除に追われて大混乱。同日付の中国紙「合肥晩報」「アモイ晩報」は1面トップで掲載したほどで中国国内メディアの関心の高さがうかがえる。香港の中国系紙が中国最高指導者にまつわる満を持して報じた記事を即日誤報と認めて謝罪するのは極めて異例だ。

 「大公報」は香港紙「文匯報」「香港商報」と並ぶ香港の三大親中国系紙で創刊100年を超え、明確に中国共産党支持を打ち出しており、広東省でも発行販売を許可されている。党の影響力が強く、党指導部リーダーの動向に関する報道では事実確認はしっかり取れるはずだが、虚報謝罪に至った経緯には署名入りで書いた幹部記者2人を含め、一切コメントしていない。

 同紙によると、習総書記を乗車させたのはタクシー運転手歴8年で北京市郊外在住の郭立新さん(46)。北京郊外の自宅で直接取材し、写真付きで掲載していた。交通渋滞時間となった午後7時ごろ、北京市内の鼓楼で習総書記と付き人1人を乗車させ、釣魚台ホテルまで8・2キロ、26分の乗車時間、会話したという。

 北京在住のフリージャーナリスト・高瑜氏
 社会問題の話題が好きな郭さんは、乗車時、総書記とは気付かず、助手席に座った習総書記に対して北京市民の平均寿命が延びても大気汚染問題が深刻であることを話し、信号待ちしている時、総書記であることに気付いて「乗車時は気付きませんでしたが、習総書記ではありませんか」と尋ねると、「私だと分かった運転手は君が初めてだよ」との返事を聞いて頭が真っ白になったという。

 その後、習氏は郭さんの月収や仕事の状況、現在の党や政府の政策についてどう思うかを尋ね、郭さんは「党の政策は一般庶民の面倒を見てくれる良い政策だが、時々、幾つかの政策がゆがめられ、執行されていないと庶民の中には思っている人もいます」と答えると、「党を信任してくれてありがとう」と返答。最後に郭さんは「庶民に気安く近づいてくださり、私たちは福分が多いです」と話すと、習総書記は「みんな本来は平等。私も庶民出身だ」と笑って返答したという。

 下車時、サインを求めた郭さんに習総書記は「一帆風順」と書き、そのサインを額に入れて自宅で大切に飾っている姿も同紙は写真付きで紹介している。

 新華社が署名入りで習近平総書記のタクシー乗車が事実であることを北京の交通局に確認した記事
 習総書記は2月8日にも北京市内の出稼ぎ農民やガードマン、廃棄物処理の労働者などを慰問した際、北京のタクシー業界の問題についても聴取し、タクシーの停車する場所が少ないことやガソリン価格の高騰など交通渋滞問題についても懸念を示し、科学的な管理強化で問題解決を処理するよう指示している。

 北京のタクシー運転手は政治や社会現象について率直に話すケースが多く、党幹部としても北京市民の生の声を聞き取りやすい。温家宝前首相は現場視察による率先した親民路線で政府への求心力を高める先鞭をつけたが、習総書記のタクシー乗車による親民ぶりは新たな指導者像を印象付ける絶好の機会だったはずだが、大公報の謝罪で幕を閉じた形だ。

 ところが、4月26日付「蘋果日報」は、北京在住の元中国新聞社記者でフリージャーナリスト高瑜氏の「非常に高い信頼性のある情報源の話」として「乗車は事実だが、党中央弁公庁の圧力で虚報であることを迫られた」のが真相であると報じた。

 同紙によると、習氏はタクシー下車後、党総書記の職務管理をする腹心の栗戦書党中央弁公庁主任に「思い付きで乗車したことなので報道しないように」とクギを刺したが、党中央対外宣伝弁公室の副局長が総書記の親民イメージアップにプラスになると勝手に解釈して、個人的に「大公報」北京駐在記者に情報提供し、大々的な報道になったという。

 報道直後、習氏は栗中央弁公庁主任を呼び、「報道するなと言ったのに、なぜ報道されているのか」「愚か者がばかを重ねた」と叱責。栗氏は新華社通信に「大公報」の報道をもみ消すよう慌てて指示し、情報提供した副局長も当局から処分されたという。

 習氏を乗車させたタクシー運転手の郭さんは、香港各紙によると、謝罪報道後、メディアとの連絡は取れず、所在不明。情報源の口封じは徹底している。

 高瑜氏は「習氏は北京で生まれ育ち、地元を熟知しているといっても、直接民情を知るために無断でタクシー乗車することは党の紀律違反。趙紫陽総書記(当時)が天安門広場でハンガーストライキをする学生にお忍びで会ったことも党の厳重な紀律違反だった」と話している。党幹部を護衛する中央警衛局の不備を露呈することにもなり、対外的に公表できない秘話で終わらせるしかないのが真相のようだ。