連載 「三通」の実験場アモイ 中台貿易の最前線ルポ 第8回



  連載 北京五輪と中国(全12回)
 連載 変わりゆく香港「一国二制度」10年の実験
 激戦・台湾総統選2004
 ルポ コピー天国・中国
 中華圏の魚食ブームを探る



直航と大陸客で再生狙う 台湾側の思惑
香港に代わる新たな中台の紐帯に アモイ

 「台湾の主体性」守る闘い 馬政権は多難な舵取り

5月20日の総統就任演説後、会場参加者に手を振る馬英九総統夫妻と蕭万長副総統夫妻=深川耕治撮影
 08年5月20日、台北で馬英九総統の就任演説は1万5000人が固唾を呑んで見守った。冒頭、「台湾はアジアと世界における民主の灯台。民主国家として国際空間の中で孤立せず、中台関係の安定へ発展に向かう」と対中融和を強調。「安全保障の盟友」である米国から防御型武器を購入しながら対米関係を強化し、自ら掲げる「3つのノー(統一せず、独立せず、武力を使わず)」政策で中台関係の現状を維持しながら「台湾はピースメーカーになる」と訴えた。

 台湾国家安全委員会諮問委員に就任した対日関係や安全保障問題に詳しい楊永明台湾大学教授は「馬総統の就任演説で対日関係に触れなかったのは少し残念。就任当初の優先順位は大陸(中国)との経済交流強化と対話再開が最高位で正式な外交関係のない米国、日本などとの外交関係は全体の1割ぐらい」と話す。

 台湾の世論は経済を主軸とする中台関係改善による景気浮揚を支持している。就任1年目は中台対話再開と週末チャーター直行便の就航、中国人観光客の台湾観光受け入れ拡大を最優先とし、「対米関係を重視しつつ、対日関係は優先順位が下がらざるを得ない。馬総統は日米安保を支持表明しており、反日親中ではなく知日派を目指して努力していることは日本の政界も徐々に分かり始めるだろう」(楊教授)と見ている。

 台湾は、独立志向の強い陳水編政権から対中融和志向の馬英九政権に変わり、対中経済政策が大きく変わった。馬総統の公約では、7月4日に中台間の週末チャーター直行便を就航し、2009年六月には定期直行便に格上げ。中国人観光客の台湾訪問に関しては一年目に毎日三千人、四年目には1万人に拡大するとしている。中国人労働者や中国産農産物は受け入れない一方、人民元の両替は全土で解禁する方向だ。また、中国からの台湾不動産投資については住宅などは除き、工場、オフィスなどへの投資は許可し、投機的売買は規制するとしている。

 直行便就航と中国人観光客の台湾訪問拡大で経済再生を狙う馬総統は、総統選前の08年2月、「中国人観光客は年間三百万人を超え、1000億台湾ドル(約3300億円)の商機につながる」と話すほど、期待感は膨らむ一方だ。だが、「台湾人意識」が高まる台湾では、総統選で約4割に当たる440万人超の有権者が民進党に投票。中国主導で「中台接近」が進むと「大陸から経済でのみこまれる」との危機感、警戒感も根強い。馬総統はその点にも十分配慮すると見られる。

 大陸進出の台商、中国の政策変更で移転余儀なく

コロンス島から見たアモイ全景。不動産開発が進み、台湾からの投資も増え続け、香港に代わる中台の新たな紐帯となりつつある=深川耕治撮影
 実際、中国進出の台湾企業は苦しい経営環境に直面している。中国大陸では百万人を超える台商(台湾人ビジネスマン)が活動。アモイには台湾の進出企業が約三千百社集中する。民間レベルでは台湾経済の中国依存度は急速に強まり、ハイテク面での台湾の優位性も揺るぎかねない状況だ。

 台商に関しては中国で出稼ぎ労働者の待遇を改善する新労働契約法が1月施行され、従来、安い労働賃金が魅力だった中国での工場運営はコストがかさんで厳しさが増すばかり。広東省、江蘇省などに進出していた台商は工場の縮小・閉鎖に追い込まれたり、中国の他地域、ベトナムなど東南アジアに移転。台湾に工場を戻すケースも出てきた。

 馬英九新政権は中国との経済開放で景気浮揚を進め、急接近によるリスクを封じ、「台湾の主体性」を守り抜けるか、新たな段階に入った。三月の総統選で馬氏が当選した時、香港メディアは「台湾の三通解禁が一気に進むことで香港の地盤沈下が顕著になるのでは」との「香港衰退論」を報じ始めた。

 「両岸三地」とは中台と香港、マカオを指す総称だが、三通解禁が実現すれば、香港、マカオが中継地としての魅力を失うことは否定できない。マカオでは中央政府の指示を受け、今後、カジノ経営権を新たな企業に開放しないとし、台湾への配慮も見せる。馬氏は「私は香港で生まれた。皆さんの心配は杞憂に過ぎない」と香港記者団に答え、香港では中台の貿易中継地として両岸のビジネスコンサルタント業などで新たなビジネスチャンスを拡大させる動きだ。だが、実際は貨物便などが半減するとの予想もあり、地盤沈下は避けられそうにない。

 アモイは台湾とは地理的、文化的に近く、今後、中台間の貿易・投資関係がさらに緊密化する中で「成否」を見据える実験場であり、中台貿易の縮小体。すでにアモイで起きているこれまで紹介した様々な問題こそ、三通(中台の交通、通商、通信の直接往来)解禁後に起こる難題や摩擦を先駆けて具体的に提示している。

 中台対話の再開による三通解禁で香港、マカオの迂(う)回路が撤廃される日が近づく中、台湾に最も近い地の利を生かしたアモイが、香港、マカオに替わる「両岸の新たな紐帯(ちゅうたい)」となるのか、今後の動向に目が離せない。(台北・深川耕治、写真も=08年6月12日記=連載終わり)

陳水扁政権と馬英九政権の政策相違
陳水扁政権 馬英九政権
中台関係 台湾は主権独立国家。中台は別々の国家で「一つの中国」に反対 中華民国は主権独立国家。三つのノー(統一せず、独立せず、武力を使わず)を堅持
経済目標 2008年は経済成長率4.32%。1人あたりのGDP約1万8000ドルと予想。07年の失業率は3.91% 経済成長率は年6%、2016年までに1人あたりGDPを3万ドルに。失業率は4年以内に3%以下にする
中国資本の対台湾投資 禁止 原則開放
国連問題 「台湾」名義で加盟推進 「中華民国」名義での復帰目指す
対日政策 日米簡保条約を支持。安全保障面での日本との協力関係を構築する 日米安保条約を支持。文化・経済交流を中心に推進。


※許可なく写真の二次使用は禁じます




中国株スーパーバブル攻略法!