連載 「三通」の実験場アモイ 中台貿易の最前線ルポ 第7回



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不動産開発業者の政治力拡大 アモイ密輸事件の「紅楼」
デモでPX工場移転の憂き目

 三通解禁後の地価高騰見据え

アモイ巨大密輸事件の現場となった紅樓。オフィスに改装される予定だ=深川耕治撮影
 アモイ市湖里区の住宅街。大通り沿いにある朱色の7階建てビルが、内装をすべて撤去した吹きさらし状態で建っている。1999年に発覚したアモイを舞台にした「建国以来最大の密輸事件」とされるアモイ密輸事件の現場、通称「紅楼」であることは到底気付くはずもない。

 「事件で全国的に注目を浴びた後、汚職展示館として一般公開されました。やがて内装を変えてフィットネスクラブとして営業し、今回、内装を一掃してオフィスビルとして建築し直す予定です」。近くの携帯テントで新築マンションの宣伝を行っている男性は優良物件を紹介するかのように淡々と紅楼の移り変わりを話した。

 アモイ密輸事件はアモイを舞台とした総額800億元(1兆2800億円)以上に上る巨大密輸汚職事件。福建省幹部や中央幹部ら300人以上が訴追され、14人の死刑を含む84人が有罪判決を受けた。

 主犯の頼昌星被告(遠華集団総裁=当時)は香港に移民後、不動産売買で巨額の資金を得てアモイに戻り、貿易会社「遠華集団公司」を設立。地元政府、税関、公安当局高官らに高額の賄賂(わいろ)を贈りながら中央政府幹部まで買収し、人民解放軍の艦船に密輸船を保護・先導させて石油、たばこ、自動車など530億元(7950億円)相当を海外から密輸していたことが判明している。

頼昌星被告(遠華集団総裁
 頼被告は中国当局の捜査の手が伸びる直前、1999年8月に香港経由でカナダへ逃亡。同年11月、移民法違反でカナダ当局に逮捕され、中国側は重大な密輸事件主犯として現在も強制送還を求めている。

 遠華集団総部である「紅楼」こそ、地元幹部や中央幹部らを高級娼婦に接待させ、録画撮影して脅したり、密輸の口封じをしていた場所で、中国中央テレビでも当時、詳細を報じた。香港メディアでは遅浩田国防相(当時)や劉華清・元中央軍事委員会副主席の子息、賈慶林全国政治協商会議主席(当時)の妻、林幼芳女史らが事件に関与したと盛んに報じたが、当時の江沢民政権の中枢を揺るがしかねない事態を避けるため、政権中枢の関与は執行猶予付き死刑判決を受けた李紀周・元公安次官以外は公表されないまま封印された。

 汚職再発防止より地元の不動産利権うごめく

アモイのコロンス島前を通過する中国海軍の艦艇=深川耕治撮影
 2001年にアモイを視察した朱鎔基首相(当時)は紅楼を「反汚職」の教材として保存するよう指示。同年八月には「反汚職展示館」として一般公開され、観光名所になっていた。アモイ市当局としては、この苦い経験を生かし、腐敗防止に神経を使っていると思いきや、同事件に似た不動産業界の汚職疑惑が広がっている。

 アモイ市海滄工業区の一角。市政府は広大な敷地に台湾系企業「騰竜グループ」を誘致し、2001年、総工費108億元(1620億円)を投じてポリエステルの原料となるパラキシレン(PX)を製造する大型化学工場の建設を始めた。

 しかし、周囲でマンション建設を進めていた不動産開発業者が猛反発。2007年5月、同業者を通して「PX工場は原爆のようなもの。ガンを多発させる」などと書かれた携帯電話ショートメールが不
コロンス島から見たアモイ。対岸はアモイ港=深川耕治撮影
特定多数の市民の携帯メールに流れた。同年6月、市民数千人が参加するPX開発反対デモが行われ、市当局は同地での開発を断念。工場建設はアモイと隣接する●(サンズイに章)州に移転して一件落着した。そこには中台関係改善でアモイの不動産価格が上昇すると見た開発業者の思惑が入り乱れている。

 「水清無魚、人清無徒」(水が清すぎると魚は住みにくく、人も清廉潔白すぎると人が寄ってこない)。PX問題で地元不動産業者に話を聞くと、中国の諺で返答してきた。巨大密輸事件でアモイ政府は大々的に汚職摘発キャンペーンを展開したが、「今では不動産業者と地元政府の癒着、腐敗は以前と変わらない」(アモイの小売業者)。

 アモイ密輸事件が発覚した1999年は、台湾で李登輝総統(当時)が「二国論」(中台は特殊な国と国の関係)を発表し、中台対話が頓挫したとはいえ、小三通が一部解禁され、中台貿易が大きく前進した時期。アモイで頼被告のような利権に目ざとい者たちが不動産開発で巨万の富を手に入れた時期と重なる。

 国民党政権末期の李登輝路線を実質的に引き継ぐ馬英九新政権がスタートし、中台対話の再開で三通解禁が秒読み段階に入った現在、1999年当時と似たアモイの活況ぶりは官民癒(ゆ)着や汚職と無縁なのか。中国各地で不動産開発業者と地元政府が癒着し、農民の土地を食い物にしている構図と違わないのか、注意深く見守る必要がある。(中国福建省アモイ・深川耕治、写真も=08年6月11日記)

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