台湾関連情報

2011年2月4日記


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中国の慈善事業、台湾を席巻
 
中国で慈善活動を精力的に展開している事業家の陳光標氏(42)が中国大陸の事業家ら50人を率いて先月下旬、台湾入りし、総額5億台湾ドル(14億円)を貧困層や独居老人、地震被災者ら社会的弱者に現金で手渡し、大きな反響と賛否両論で沸いた。台湾各地の地方自治体で対応に温度差があり、「(中国大陸の)統一戦略に利用されるな」との警戒感もある一方、社会的弱者への慈善事業を見直す機会にもなり、慈善旋風を巻き起こした。(深川耕治=2011年2月4日記)

貧困層や独居老人に14億円

現金手渡しに賛否両論

紅包を受け取った台湾の婦人から中華民国旗の風呂敷を受け取る陳光標氏(右)
 1月27日、妻子と共に台湾入りした陳氏は、各地域を巡回しながら貧困家庭や独り暮らしの老人、地震被害者などに現金1万台湾ドル(1台湾ドル=2・8円)以上を配ったり、現金に代わる物資を配給。27日、中部・新竹県で貧困層へ総額約660万台湾ドルを寄付したのを皮切りに、28日以降、新北市や南投県、台北の円山ホテル、花蓮県、桃園市、高雄市などを巡回し、2月1日に出境するまで終始、台湾各メディアの注目の的となった。

 3日の春節(旧正月)を前に、この時期は紅包(=日本のお年玉に相当)を会社や地方自治体の長が配る時と重なり、40〜50台湾ドル程度の現金を入れた紅包に比べ、陳氏が施す1人当たりの紅包が抜きんでて高額であることも貧者救済の点から地方政府の対応に冷水を浴びせることになった。

 28日、陳氏が宿泊するホテル前には、情報を聞き付けた多くの人々が紅包をもらおうと懇願。新竹で紅包を受け取れなかった婦人は「他界した母の葬儀に10万台湾ドル必要」と陳氏に直訴。それぞれの事情に理解を示しつつも、偏りがないよう台湾の各基金会や慈善団体を通して金銭的支援をするように変更した。
台湾の南投県で貧困層に300万台湾ドルを寄付する陳光標氏(左)

 さらに食事のために立ち寄ったレストランでは失業した若者が紅包をもらえるよう懇願。陳氏は「若者は創業の精神を持てば創業できる。あげてしまうと害することになり、本人の助けにならない」と拒否した。

 同日、陳氏は家族3人で中台の歌の懸け橋となった故テレサ・テンの墓参へ新北市内の金宝山を訪問。「車の中でよく聞いていた」と涙を流しながら代表曲「月は我が心」を歌い、献花した。記者会見では「今後は毎年、台湾を訪れたい。次回は5月に訪台する」と話している。

 陳氏本人は極貧の幼少期、兄弟姉妹が餓死する経験を持ち、中医師(中国伝統医学の医師)として医療従事者となった後、2003年に建設資材のリサイクルを行う江蘇黄埔再生資源利用有限公司を創業して資産総額600億円の富豪になった。
台湾の花蓮で独居老人に紅包を手渡す陳光標氏(右)

 09年の寄付金総額が中国トップになると、米フォーブス誌は「アジアの慈善英雄」と評すほど。キリスト教に根差した欧米の慈善精神と違い、中国では企業収益の一部を社会還元する伝統がないことを憂慮し、「中国の他の企業家も取り組んでほしい」との意味合いから、札束を壁のように積んで慈善事業を行い、過去の慈善事業の実績を大々的に宣伝。中国国内でも賛否両論あった。

 本人が創業したリサイクル企業では建設取り壊し時のコンクリートや廃材を環境汚染にならないように無害化する技術や生活ゴミ処理技術を開発。道路舗装や建材リサイクル事業を展開して急成長した。同社純利益の半分以上を慈善事業に注ぎ込み、本人の個人資産約50億元(1元=13円)も「世を去る時、全財産を慈善団体に寄付する」と宣言している。

 09年にはマイクロソフト社のビル・ゲイツ氏や米投資家のウォーレン・バフェット氏と直接意見交換し、企業収益の一部を慈善事業に充てる姿に感動。バフェット氏が「自分の財産の半分を慈善事業に差し出す」と表明したことについて「尊敬し、感動した」と感想を述べた上で公開書簡で「私がこの世を去る時には自分のすべての財産を慈善団体に寄付する」と宣言し、内外の注目を集めている。
2009年に北京でビル・ゲイツ氏やウォーレン・バフェット氏と会った陳光標氏(中央)

 08年に発生した四川大地震では自社で救援隊を結成。生き埋めになった6000人以上を掘り出し、128人の命を救うことができたと表明。震災地に対する寄付はテント、ラジオ、テレビ、扇風機などを含め、総額2130万元。

 陳氏の台湾での慈善活動について当初から台湾側の意見は賛否両論で割れた。

 反対派は「同情心からの間違った慈善行為。本当の意味で社会的弱者への援助になっていないばかりか民衆に誤解すら与える」(王麗蓉台湾大学副教授)、「受け取る側が本当に低所得者層かはっきりせず、お金を出す方も受ける方も良くない」(国民党の楊麗環立法委員)、「金銭をひけらかし、心理的に台湾人を侮辱している」(台湾団結連盟の黄毘輝党主席)など手厳しい。

 一方、慈善活動に積極的な台湾の富豪、郭台銘鴻海集団理事長(富士康科技集団理事長)は陳氏の台湾での慈善活動について「有言実行の人だ。善行をいとわずやっている」と高く評価。台北花博覧会で家族総出の慈善活動を行う中、「愛には貴賤なく、慈善行為は人それぞれだが、受ける側の尊厳を保って行うべきだ」と受け手側の尊厳重視を強調している。

 会員数600万人を持つ国際仏光会(本部・台北)の世界総会長である星雲大師は「陳氏には金剛経を送った。金剛経にある『無相布施』(執着や自他の区別なく布施をするのが本当の布施)こそ仏教が求めるところだ」と話している。

 中国大陸と台湾では、文化や経済レベル、習慣から見ても、慈善活動の手法や受け手側の意識が違う。中国大陸でも特異とされる陳氏の慈善活動が台湾の事業家たちの慈善活動への認識に変化をもたらすかどうかは、陳氏の訪台回数によって地殻変動を起こすきっかけとなるだろう。