台湾企画記事
2004年6月23日記

宣言なき台湾独立か/宣言なき戦争突入か
混迷深める中台関係の未来

鍵握る仲介役・米国のさじ加減
独立派台湾企業締め出しへ−中国  米からの武器供与増で防備−台湾
 五月二十日、台湾の陳水扁総統は総統就任式で北京五輪が開催される二〇〇八年までの新憲法制定を確約し、第二次政権を出発した。中国は陳政権の新憲法制定の動きを「宣言なき独立」と受け止めて武力行使に踏み込むのか。混迷を深める中台関係の未来は、仲介役である米国のさじ加減次第で大きく左右される時代を迎えている。(深川耕治、写真も=2004年6月23日記)

台湾の王金平立法院長 米国から台湾への武器供与について現地視察を行うために訪米した王金平立法院長(国会議長=写真右=)を団長とする台湾超党派の立法委員(国会議員)視察団は六月二十一日、ワシントンの米国防総省でウォルフォウィッツ米国防次官と約五十分間、初会談した。

 会談でウォルフォウィッツ次官は「台湾が(米国からの)防御性武器購入を急がなければ台湾海峡の軍事バランスが急速に壊れることになる。台湾側が自らの防御体制(の不完全さ)を厳粛に受け止める意志がなければ米側も厳粛に受け止めることはできないし、中国の軍備拡張を鼓舞増長させて台湾の安全をさらに脅かすことになるだろう」と突き放したような口ぶりで話した。

台湾・金門県の大金門島にある蒋介石国立公園 これに対し、王立法院長ら視察団側は「立法院の立場では必要な国防経費を削減することで両岸(中台)の軍事力格差が広がるようなことはあってはならない」と米側に伝え、軍事バランスの均衡重視の姿勢であることや武器供与のプロセス、価格などについて意見交換した。

 ウォルフォウィッツ次官の表情が曇ったのは、会談の中で与党・民進党の梁牧養立法委員と親民党の林郁方立法委員が相次いで潜水艦の自国製造政策を主張した時点からだ。ウォルフォウィッツ次官は「その政策は間違っている。台湾の資源は限られており、資源を浪費すべきではない」と真っ向から反対し、「両岸の軍事投資は年々、台湾が下降する一方、中国は上昇して均衡が失われつつある。中国の軍事増強が不必要になるには隣国の武力脅威がなくなるか、台湾が一方的に周辺地帯での衝突ができないよう強調するかの二者択一しかない」と述べた。

会談前、視察団メンバーの中からは「米国が台湾に武器供与を続けることは中国側がすでに黙認許可しているのではないか」との観測が流れ、米側が事前にこれを強く否定した経緯があった。米側は台湾への武器供与について「中国とは討論することをあえて避けているので中国側の同意を取り付けているわけではない」と説明し、米国から台湾への武器売買の話題がメディアで報じられるたびに「中国政府からの抗議が提出されている」と実情を解説。

台湾・金門県の大金門島にある馬山展望台から中国福建省アモイを望む しかし、それでも米国が中国の抗議をはねつけるのは「台湾関係法(最後に解説)」を盾にしているからだ。ブッシュ米政権は、レーガン大統領や父親ブッシュ氏が大統領の時代と同様、親台湾路線に変わりはないが、陳水扁政権樹立以降、米側の事前根回しなしに国号問題や住民投票、新憲法制定の提唱をぶち上げたことに少なからず不信感を抱いている。今年末の米大統領選挙でブッシュ氏が再選されなければ、米共和党の伝統的な親台湾路線が崩壊して中国重視策がとられ、中台軍事バランスの歪みで〇八年の「宣言なき中国の台湾軍事侵攻」も最悪のシナリオとして浮上し始めることになる。今後、中台関係は仲介役・米国のさじ加減次第で最悪の結果をもたらすことも、ソフトランディングさせることも可能な状態だ。

 台湾側は米国からの防衛装備調達でミサイル防衛(MD)システムなどを完備する六千百八億台湾ドル(約二兆円)の特別予算を組んで立法院での承認を得ようとする段階に入っており、王金平立法院長は同予算に含まれていないイージス鑑についてもハワイ・真珠湾で視察し、必要是非を検討している。

 台湾では二十日、米国防総省の専門チームが協力する中、コードネーム「漢光二〇号」の軍事演習が行われ、二〇〇六年時点での中国との戦争を仮想し、米台共同軍が中国軍に勝つシミュレーション通りの展開を実地訓練した。二十一日には、中国からの弾道ミサイル攻撃を想定した机上軍事演習を米軍と共同で行い、台米軍事協力は盤石であるかのようにみえる。中国が台湾武力侵攻した場合、「台湾軍は三峡ダムにミサイル攻撃する」との声も台湾側から出始め、中国側は「逆に核兵器で対処する」との文攻(言葉での攻撃)もエスカレートするばかりだ。

許文龍奇美集団会長 一方、中国は陳水扁総統の就任式以降、中国大陸に進出する台湾の「緑色(与党・民進党のシンボルカラー)」企業は台湾独立派企業なので中国内から排除するとの報復措置に出た。

具体的には江蘇省などに大規模工場を建設して大陸進出していた奇美実業グループが激しい批判の矢面に立った。奇美実業は創業者・許文龍氏(76)=写真右=が陳総統のブレーンである総統府資政の肩書きを持つ。許文龍氏は十五日、事態収拾のため、経営の第一線から退いた。今後、中国大陸に進出する台湾企業は大陸への投資を促進する企業と東南アジアなど他国へ投資をシフトする「緑色」企業に二分され、軍備は米国からの供与依存が強まることになりそうだ。

【台湾関係法】米国と中国が一九七九年一月一日を期して国交正常化したことで米国と台湾が断交した後も、台湾との経済・文化関係を維持し、中国からの武力侵攻に備えて台湾に防御的性格の武器を売却することなどを規定した米国の国内法。台湾の実質上国交のある国と同等に扱っているのが特徴。一九九六年の台湾海峡危機の際、クリントン政権が台湾近海に2空母艦隊を派遣して中国の武力威嚇(かく)をけん制したのも同法を法的根拠とした。