中国企画記事 特選
2004年7月14日記

軍事的緊張増す台湾海峡
江派の権力温存へ武力侵攻も
軍内の志気鼓舞し求心力確保か

香港デモ対策空振り、台湾問題… 曽慶紅氏の責任論高まる
胡錦濤派へのけん制、失脚防止へ軍の求心力を利用
 香港で行われた五十三万人参加の民主化デモが中台関係に微妙な政治的影響を及ぼし始めている。江沢民中央軍事委員会主席の“懐刀”である曽慶紅国家副主席が香港・マカオ事務工作の総責任者の立場でありながら、香港のデモや台湾問題に有効な対策を打ち出すことができず、江沢民派にとって不利な状況を造成、胡錦濤派と拮抗する権力闘争バランスが壊れ始めた。台湾侵攻を想定した軍事力誇示で江派の志気を高め、権力を温存する動きが加速、中台関係は中国の軍事力強化で中国有利の時期到来が早まり、台湾海峡の軍事緊張を高めつつある。(04年7月14日、香港・深川耕治記)


 六月三十日、アフリカ諸国歴訪を終えた曽慶紅中国国家副主席(写真右)は「アフリカの星々(アフリカ諸国)は東洋の真珠(香港)と比べるのは難しい。東洋の真珠は燦爛(さんらん)と輝いている」と言い残し、香港と隣接する広東省珠海市に入って七月一日の香港返還七周年記念日を珠海で迎えた。一日夕には珠海から北京にもどる予定だったが、香港の民主化要求デモが昨年同日のデモより三万人多い五十三万人であることを知り、深センで情報収集、急きょ、もう一泊して二日に北京にもどるという動揺ぶりだった。

 平党員ながら軍トップとして君臨する江沢民中央軍事委員会主席(写真左)が側近中の側近として後継に据えたい曽国家副主席は、香港・マカオの管理事務に関する最高責任者となったのが昨年七月末。新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)騒ぎで雲隠れした江氏の権力が一時精彩を欠いたものの、盛り返し、曽氏を中央軍事委副主席へ昇格させて軍トップを譲る画策を続けた。

 だが、曽氏の昇格はおろか、香港の民主化デモの対策が空振りに終わったことで曽氏の責任問題も問われかねず、江沢民派としては胡錦濤総書記・温家宝首相コンビによる胡錦濤派に権力を完全掌握される危機感が高まり、さらなる巻き返しに必死となっている。その最大の好機が台湾武力侵攻を臭わす軍の志気鼓舞による江氏への求心力アップだ。

 江沢民中央軍事委員会主席は最近、酷暑の中で曹剛川国防相と李継耐総装備部長を引き連れて「鉄軍(鉄の軍隊)」と呼ばれる対台湾戦略予備部隊の済南軍区五十四集団軍一二七師団を視察した。

 中国福建省の台湾向け宣伝放送「海峡の声」(海峡之声広播電台によるラジオ短波放送)によると、江氏は視察中に同師団幹部と接見した際、「鉄の軍隊という精神を高らかに掲げ、全面的に部隊を建設し、情報掌握条件下の局地戦に勝利しよう」との揮毫(きごう)を記して激励した。

 五十四集団軍は人民解放軍の中でも林彪氏、張万年氏などの軍エリートを輩出した精鋭軍グループで、中でも一二七師団は第十五空挺部隊と同様、台湾武力侵攻の際、台湾本島内の都市部と山村部の先制攻撃を任務としている機械化された歩兵師団。防空能力を強化し、台湾海峡の制空権奪取を最優先した部隊の一つだ。

 また、中国中央電視台の報道によると、人民解放軍総装備部ではロシア製戦闘機「スホイ27」でこのほど、素早く敵機の背後に回り込んで攻撃できる高難度の「コブラ機動」(低速で水平飛行中、急激な機首上げで機体全体をエアブレーキにして一時的に空中停止する荒技)を実現し、対台湾戦略での制空権奪取に強気の構えを見せている。

 これらの動向は今月から来月にかけて中国と台湾双方が台湾海峡を隔てて大規模な軍事演習を繰り広げることに直結している。

「中国青年報」など中国官営メディアによると、中国は今月中に台湾本島から三百`足らずに位置する台湾本島西海岸に地形が似ているとされる福建省・東山島で陸海空三軍による十万人規模の軍事演習を実施する予定。同島では一九九六年以来、八回の軍事演習が行われ、〇一年は十万人を動員した最大規模のものだったが、今回はそれに匹敵する最大規模のもの。

 台湾海峡の制空権掌握を主目的とする同演習では、南京軍区、広州軍区、東海艦隊、南海艦隊、北海艦隊、戦略ミサイル部隊、戦車部隊、海軍陸戦隊、空軍パラシュート部隊などが参加する。台湾侵攻時の制空権奪取を目的として最新戦闘機やヘリを含め、先進兵器がフル活用される。

 台湾メディアの報道では、武装警察部隊も台湾本島西海岸に似ているとされる東山島での演習に加わり、米軍から購入した大型輸送ヘリ「ブラックホーク(UH-60)」まで投入される可能性があるという。台湾総統選で陳水扁総統が再選されたことで台湾の独立志向が懸念され、軍内部のいらだちや焦りを払しょくするに余りある対台湾の軍事力を誇示し、軍の人心掌握と江氏の求心力強化が図られることを目的としている部分も大きい。

 一方、台湾側はコードネーム「漢光二十号」と呼ばれる毎年恒例の軍事演習が今月末から八月にかけて行われる。今月末は台南地域の高速道路を封鎖して戦闘機の緊急離着陸訓練が行われる予定となっており、来月は、陸海空軍が参加する火力演習を実施する。中国の武力侵攻への防備だけでなく、中国大陸での反転攻勢のシナリオも視野に置いたものとなるという。

 六月末、王金平立法院長(国会議長)率いる台湾の立法委員(国会議員)米国視察団が米国各地で具体的な台湾への武器供与内容を視察し、試算交渉も行った中、台湾にもどった王院長は「三月二十日の総統選直後から数ヶ月間は一度、中共(中国)が台湾への武力侵攻を行う可能性があった。今後もその可能性はぬぐいきれず、二〇〇五年に中共の武力が勝り始め、〇六年に戦争の危機がさらに高まるだろう」と話している。

 ロシアのタス通信によると、中国がロシア国防省に対し、中・長距離弾道ミサイル三発の連続試射実験を七月中に行う計画を通知。中国山西省五寨ミサイル発射センターから約二千五百`の射程内にある新彊ウイグル自治区タクラマカン砂漠にあるロブノール地区に向けて移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風31号」(射程八〇〇〇`)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「巨浪2号」(射程八〇〇〇`)、中距離弾道ミサイル「東風21号」(射程二〇〇〇`)の三発を連続試射するとしている。

 中国ではこれまで中長距離ミサイルの連続三回の試射は行われておらず、前代未聞だが、マカオ国際軍事学会の黄東会長は「担当部署の第二砲兵部隊の実践能力を試し、米国の台湾への武器供与停止を訴えるメッセージ性があるものの、米国への過度な敵対意識の表れではない」と見ている。

 とはいえ、今後、中台の軍事的緊張は台湾海峡の制空権争奪をめぐる戦いとなることは確かだ。中国は神舟五号による有人宇宙飛行に成功し、軍事目的の宇宙ステーション計画を打ち出す一方、台湾も五月、米国の協力で華衛二号の打ち上げに成功。陸海空軍の戦力アップや弾道ミサイル強化だけでなく、衛星打ち上げによる宇宙空間での争奪戦にまで発展しつつある。(04年7月14日記)