連載 特選


ルポ コピー天国・中国
ルポ コピー天国・中国(1)

バイク密売の現場に潜入

倉庫内で際どい商談/広東省南海市


大瀝鎮のバイク販売店。ほぼ100%が日本製バイクを模倣したニセモノを売る。2年ほど前までは販売員が、バイク目当ての客が乗る車を止めてラミネート写真の見本を見せて客寄せしていた

 広東省の省都・広州からタクシーで西へ一時間。高速道路を使い、珠海デルタ地帯の一角、同省の南海市大瀝(だいり)鎮に入った。

 人口百六十万人の南海市は珠江に注ぐコンテナ港があり、外国企業を誘致するためのハイテク開発区も設立、行政ではインターネットを活用する「電子政府」の試みを展開して国からモデル都市に指定されている。

 しかし、これは表向きの「顔」。「広東省で二輪車の偽造品販売といえば、南海市大瀝鎮。四輪車なら九江県ということぐらい、広州出身者なら、だれでも知っている。昔、地域ぐるみで密輸に手を染め、取り締まりが厳しくなって、今度は二輪車偽造にくら替えし、最近は日本製バイクの模倣品を製造販売している」と地元に詳しいタクシー運転手が話す。

 南海市大瀝鎮の中心部に入ると、両側四車線の道の両脇にずらりとバイク販売店が軒を連ねる。主要道路から右折して市道を十分ほど走ると、広大な倉庫群が続く。倉庫はほとんどシャッターが閉まり、開いている倉庫はバイク修理店の営業を地味にやっている程度。

 突然、砂ぼこりにまみれた三十歳前後の地元男性が自転車から降り、タクシーに近づいて話しかけてきた。「ヤマハ、ホンダ。日本製スクーター安く売るよ」とラミネート写真になった見本をおもむろに見せる。

 「現物を見ないと、買う気にならない。現物。現物」と答えると、信頼できるディーラーと思ったらしく、自転車に乗って、「こっちへ付いて来い」と指さしながら、倉庫群の奥の奥へ案内された。行き止まりでタクシーを下車すると、バイク密造グループのリーダー格らしいひげ面の四十歳過ぎの男性と同メンバー三人が案内。前後だけでなく、左右、抜け道に至るまで密造グループメンバー十五人が抜け目なく監視する中、倉庫の階段を上り、七階建ての老朽化したアパートの中に入り、さらに奥へ。

 閉まっていた倉庫のシャッターを開け、入っていくと、再びシャッターを閉め切った。

 中には最終的なエンジンテストを続ける密造グループの技術者が五人。ヤマハやホンダ製に似せた模倣スクーター(八〇ccクラス)四台が置かれ、「一台五千元(七万五千円)でどうだ」と値段交渉が始まる。「買いたいのは四〇〇ccの日本製バイク。スクーターではない」と折衝すると、ひげ面のリーダー格は少しちゅうちょした後、「分かった。現物を見せよう」といって、別の倉庫に案内した。

 鍵がかかった倉庫のシャッターを開け、十畳ほどのスペースに日本製高級バイクの模倣品が四台置かれている。四台は、ホンダ、ヤマハ、スズキの二〇〇一年型四〇〇ccバイクと見た目はそっくり。新車ならば日本国内で五十万円は下らないスポーツ車タイプだ。

 大瀝にはバイク販売店とともにバイク修理工場が林立し、看板には「ヤマハ」「ホンダ」「カワサキ」などの文字が並び、正規の部品交換や整備補修ができるような錯覚に陥る。実際は正規ではなく、中国製の安い部品を使って補修しており、倉庫にある「日本製バイク」というのも、「外見はそっくりでも、パーツはすべて安い中国製。だから本物の半値以下でさばける」(地元の販売店員)というからくりになっている。

 「一万元(約十五万円)、キャッシュでどうだ」とリーダーが切り出し、打ち解けてくると「あの日本製バイクは日本から韓国、韓国から中国へ密輸し、一カ月前、大瀝(だいり)の港に陸揚げされた。これだけ厳重に警戒するのは、公安の摘発が多く、逮捕されると三年間は刑務所にぶちこまれるからだ」と屈託なく話す。

 正確に言えば、大瀝鎮は改革開放路線が始まって以来、地域ぐるみで違法な密輸を行って栄え、鎮政府も加担していたが、密輸取り締まりが強化され、本物の日本製バイクをごく少数手に入れ、パーツをばらして、ニセモノに変える技術や流通ルートを黒社会(マフィア)の協力で再び確立し、地元政府役人も癒着しているという構図だ。最近は中央政府の圧力で地元政府もかばいきれず、日本製高級自転車にも目を付け、息を凝らしてビクつきながらヤミ商売する形に急変した。

 十分前後の際どい商談後、「気に入った機種がないので残念」と記者が断ると、あっさり“解放”してくれた。

 待機していたタクシーに乗り込むと、運転手は開口一番、「あなたは幸運だった。つい最近も、この近辺で取材のために倉庫でニセの商談をしていたCCTV(中国中央テレビ)記者が、メディア関係者であることを気付かれ、刃物で脅される事件が起こったばかりだ」と話し、手には携帯電話を握り締め、「いつでも警察に通報できるように準備していた」と目を白黒させた。

 中国の二輪バイク市場は約千百万台の規模にもかかわらず、日系合弁メーカー製(真正品)の販売台数はその一割にも満たない約百万台であり、中国で走るバイクの九割以上が日系合弁メーカーの真正品のコピーバイク。「コピー天国」中国の中でも、日本製バイクが販売開始されると、その約十倍のニセモノが市場に出回ることから「最大の被害が出ている代表的ケース」(日本貿易振興会)だ。

 大瀝鎮は日本製バイクを食い物にする最大規模の“巣窟”。バイクが市場に出回れば、メンテナンスの需要が増え、中国では修理工場すら日本企業の商標を盗用する商標違反が罪悪感なく横行する。同時にバイクの部品も商標盗用し、二輪車部品についても日本ブランドの商標を盗んだり、微妙に変えたものが雨後の竹の子のように増えるばかり。そこには、海外企業の商標登録をなかなか登録させず、意匠(デザイン)が無審査という中国の知的財産権保護の実態と、生ぬるい刑事処分が犯罪を増殖させていく元凶となっている。

(南海市・深川耕治、写真も=2002年9月10日記)