中国企画記事 2007年6月5日記


水道水で悪臭、太湖SOS 中国無錫
工業廃水で藻が大量発生
上海ガニ養殖、安全問題に


 二〇一〇年の上海万博を控え、隣接する江蘇省や浙江省を跨(また)ぐ長江デルタ経済圏の水資源として欠かせない中国第三の淡水湖・太湖の汚水による公害問題が深刻化している。太湖の北岸、江蘇省無錫市では五月二十九日以降、太湖を水源とする水道水から悪臭が発生し、水や食の安全が脅かされている。(深川耕治、写真も)


太湖で漁業を営む漁民たち。魚の種類も減り、汚水汚染は漁業に大打撃を与えていた=深川耕治撮影
 無錫市沿岸の太湖は今夏、高温小雨で二十五年ぶりの最低水位を記録し、悪臭を放つ緑色の藍藻が例年より一ヶ月以上早く異常大量発生。水源の取水口が汚染され、五月二十九日から飲用できなくなった。住民らはスーパーでミネラルウオーターの大量購入に走り、ボトル水が売り切れ、混乱。六月一日には多数の無錫市民が悪臭で飲めない水道水を避けるために蘇州や宜興など近郊都市へ避難。地元の高校、江南大学、無錫南洋学院などでも臨時休校となり、大型バスで他地域へ避難し始め、混乱は続いた。

 原因は異常気象だけでなく、最大要因は流域の工業化による違法な工業廃水垂れ流しによる環境破壊、水質悪化だ。太湖は湖底にヘドロが一b以上堆積しており、北西部の汚染が深刻。回遊魚はほぼ絶滅し、魚類も五十年前に比べて生息種類が半減以下となり、生態系は破壊され続けている。無錫近郊の黄泥頭村では過去五年間で人口三千人のうち約一lが肝ガンなどで死亡、「癌症村(ガン発症村)」の悪名まで付いているほどだ。

 太湖は蘇州、無錫、揚州、常州など江蘇省を代表する工業都市の水源であり、農業や淡水真珠や上海ガニ養殖などに欠かせない一方、上海近郊の企業が工場を一千以上乱立させ、標準規定値を大幅に上回る排水を垂れ流し続けた。観光収益を見込む無錫市政府は一九九〇年代、太湖浄化計画を打ち出し、工業廃水を抑制しようとしたが、江沢民政権時代は経済成長を最優先させ、工業廃水も生活排水も廃水量が急増。太湖には殺虫剤や有機廃棄物、重金属による汚染が確認されただけでなく、富栄養化による藍藻類が異常増殖、アオコも増えて水道水の異臭は改善されないままだ。

 江蘇省政府は異臭騒ぎが起こった五月二十九日、ようやく悪質な違法汚水垂れ流しを行った企業名二十二社を公表。一罰百戒に乗り出したが、二十二社全部が無錫市内の企業だった。新華社など官営メディアでも報道されたことで、ポスト胡錦涛の呼び声が高い李源潮江蘇省党委書記が五月三十一日、無錫を訪れ、現地視察。飲料水の安全と社会安定を指示し、国家環境保護総局や専門家らが水質調査に乗り出した。

 中央政府の圧力下、地元政府は太湖の水位を上げるため、長江流域の水を流し込むようにし、人口降雨を試みた。毛小平無錫市長は二日、「天災だったが、給水は正常に回復した」と話すが、地元民らは後手に回る市政府を「どっちみち暴露される人災」と批判している。

 太湖の汚水問題は一部地域の問題ではなく、上海近郊の黄浦江の汚水、広東省でも珠江デルタエリアで下流域の水質汚濁が進み、深刻化。来年八月の北京五輪は環境五輪を目指していても、改革開放による環境破壊を行った他地域は盲点のままとなっている。太湖で養殖された上海ガニは日本にも輸出されており、水と食の安全は対岸の火事ですまされない状況だ。



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