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2011年7月1日記


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重慶発「紅歌現象」が全国化 中国共産党90周年
革命賛歌で党求心力増強
太子党の正統性示唆も


 7月1日、創立90周年を迎えた中国共産党は、初期の革命政党から改革開放政策を経て中国を世界第2位の経済大国に躍進させた。一方で巨大な既得権益組織と化し、貧富の格差拡大による民衆の暴動、幹部の汚職深刻化、周辺国との摩擦拡大などさまざまな矛盾や問題が噴出。その裏でポスト胡錦涛体制となる来秋の党大会を控え、毛沢東時代の革命文化を礼賛する新保守主義が重慶から広がり、保守派と改革派の権力闘争を激化させている。(深川耕治=2011年7月1日記)

来秋の党大会へ抗争激化
新保守主義が改革派と対抗
党内派閥に地殻変動


重慶市郊外にある紅岩革命歴史博物館内の毛沢東像と蝋人形=深川耕治撮影
 重慶市郊外にある紅岩革命歴史博物館。中国共産党が抗日戦争中、1938年から重慶での出先機関として使っていた場所で蒋介石率いる中国国民党の重慶政府との国共停戦協議を行うため、毛沢東が宿泊した部屋もある革命神話の聖地だ。

 「国民党が重慶から台湾に撤退する前、この渣滓洞は投獄されていた党員300人が銃殺された場所です」。地元ガイドが説明すると、各地から訪れた中国人観光客たちが犠牲者の遺影をじっくり見ながら熱心に展示物を見つめる。

 看守所のあった洞窟は荒れ果てて見る影もなかったが、重慶市政府が700万元(1元=13円)をかけて2008年2月に修復。観光客が大挙して革命拠点を巡る「紅色観光基地」として強化され、来訪者数が急増して地元の観光振興になるだけでなく、国威発揚と党の求心力が着実に増す効果を狙っている。

紅岩革命歴史博物館
重慶市郊外にある紅岩革命歴史博物館内のパネル展示。国民党に銃殺された中国共産党員の遺影が展示されている=深川耕治撮影
 「薄煕来書記になって幹部の汚職が正され、黒幇(黒社会=暴力団)が一掃された。毛沢東の偉大な精神を忘れてはならないし、薄書記こそ党指導者の見本」(重慶市内の商店主)と異口同音に礼賛する重慶市民。同館には毛沢東の銅像や蝋(ろう)人形が置かれ、有料(1回20元)で記念撮影できる場所まである。

 2007年11月、商務相から重慶市トップに転任した薄煕来党委書記は故・薄一波元副首相の三男で太子党(党幹部子弟)。来秋の第18回党大会で胡錦涛総書記に代わって総書記就任が確実視される習近平国家副主席も副首相を務めた父・習仲勲氏の長男で太子党であることが共通している。薄氏は党政治局員25人の一人であり、来秋の党大会で「太子党こそ党の伝統を正統に継承する次世代リーダーであることを示し、(党最高指導部である)政治局常務委員入りを狙う実績作りをしている」(重慶紙記者)と見られている。

薄煕来重慶市党委書記
重慶市トップの薄煕来党委書記=深川耕治撮影
 大連市長や遼寧省長を歴任した薄氏は、大連をモデルに中心部を暴力団の資金源だった違法看板広告撤去や緑化で大改造し、景観整備と農民を都市に吸収する工業団地を建設計画。「北京、天津、上海に匹敵する都市づくりを目指す」と話し、治安向上が党指導部でも評価され始めた。

 評価を聞きつけた各地の地方都市の首長が重慶に視察を重ねたり、党幹部の訪問も増えた。昨年12月6日、習近平国家副主席自ら、重慶入りし、調査研究を行って高く評価している。薄氏とは太子党という共通点のある次期リーダーの習氏が重慶を訪問して紅歌活動を評価する発言をした政治的意味は非常に大きい。

 2008年、薄氏の肝いりで重慶大学のキャンパスに巨大な毛沢東像が建てられ、小中学生が学校の行事で紅歌を歌うことが定例化。黒社会の息がかかった商店前で市民が紅歌を合唱する動きはいつの間にか各公園で競うように市民らが紅歌を歌う「紅歌現象」に発展し、貧富の格差是正や党幹部の不正一掃を求める「党への原点回帰願望」の声に重なる。

 当初、この動きは重慶のみに特化されていたが、中央宣伝部の主導で各地のテレビ局やラジオ局で紅歌コンクールの番組を5月から放送開始。中国中央テレビがゴールデンタイムに6月2日から「紅歌90年」という特集番組を連続放送開始すると、全国化した。

重慶の紅歌歌唱大会
重慶で繰り返し開催されている紅歌の合唱コンサート
 北京市内の公園でも、紅歌を合唱する光景が至るところで見られ、5日夕、記者(深川)が訪れた北京最大の繁華街・王府井でも吹奏楽隊が演奏する中、歌手たちが「わが祖国」「紅梅賛」「繍紅旗」などの紅歌を熱唱し、喝采を浴びた。12日には北京五輪のメーンスタジアムだった国家体育場で1万人が紅歌を大合唱。「紅歌運動」はピークを迎えている。

 さらに6月11日から4日間、薄氏が引率する重慶の1000人規模の紅歌合唱団が北京で公演。引率に同行した重慶市高官によると「(薄氏の目的は)党政治局常務委員9人全員に鑑賞してもらうこと」だったが、実際は政治局常務委員で鑑賞したのは江沢民前国家主席に近い賈慶林全国政治協商会議(政協)主席の一人だけ。しかも6月10日の非公式公演の時の参席だった。改革派とは反りが合わず、冷遇される場面もあったという(香港誌「亜洲週刊」最新号)。

北京で行われた重慶の紅歌合唱団コンサート
6月11日から4日間、薄氏が引率する重慶の1000人規模の紅歌合唱団が北京で公演。前日の非公開コンサートで賈慶林全国政治協商会議主席が鑑賞したが、党幹部の反応は冷ややかなものが多かったという
 08年6月、薄氏の主導で紅歌活動が開始されて以来、同活動は「総計18万1000回行われ、のべ1億1000万人が参加した」と党中央宣伝部はアピール。党創立90年に合わせ、さらに映画では大ヒットしている「建党偉業」や「湘江北去」、伝記映画「先駆者」など28作品やテレビドラマ「開天辟地」などで党の一致結束を民衆の底辺から底上げして覚醒させる効果を着実に上げている。

 この政治的動向を上海師範大学の蕭功秦教授は温家宝首相ら政治体制改革を求める改革派に対抗する中国の「新保守主義」と定義。「現政治体制の制度的秩序と伝統を維持するために『紅色文化(党創立前後の革命文化)』で人民の心を結束させる効果があるが、一方で晩年の毛沢東が行った(文化大革命の)間違った路線と方針に暴走したことを忘れてはならない。このままでは紅色文化の資源は中国を極左思想の復活に利用されかねない」と警鐘を鳴らす。

 これに対し、薄氏は「重慶の紅歌活動は極左運動ではなく、中華民族の偉大な精神的伝承。青年時代の責任ある態度を示すもの」と強調。毛沢東を信奉する極右系愛国組織「烏有之郷」や保守派の陳奎元社会科学院長らが思想的正統性を論文や講演で支持して左右両派の論争勃発でも闘い抜く理論闘争の動きとなっている。

 6月27日、訪英した温家宝首相はロンドンで「中国の未来」をテーマに講演し、「汚職腐敗が著しい中国社会の根本解決の道は、政治体制改革なしには社会主義民主法治国家の建設はない」と述べ、改めて政治体制改革の必要性を強調した。温首相ら政治体制改革を求める改革派は政府予算の透明化と官僚の資産公開を求め、腐敗防止に更なるメスを入れるよう主張。新保守主義の台頭に強い警戒感を抱いている。

 左右両派の理論闘争に発展しかねない動きを察知した党中央宣伝部は6月23日、「紅歌活動は意義があるが、左派や右派の思想とはまったく関係ない」(党中央宣伝部の王暁暉副部長)と発表し、紅歌合唱キャンペーンの行き過ぎによる反動を強く警戒するようになった。ネット上では「毛沢東は長征で数千万人を餓死に追いやった。文革の悲劇を忘れたのか」「党幹部の腐敗など党内矛盾から目をそらせる大衆誘導」「新たな階級闘争を呼び覚ます時代錯誤のアナクロニズム」など厳しい批判の声ばかりが目立つ。

 共青団(共産主義青年団)を中心とする胡錦涛派と江沢民派、左右両派に幅広い人脈を持つ習近平国家副主席らの太子党、温家宝首相ら改革派が入り乱れ、来秋の党大会に向けて人事権の争奪戦は党創立90年を節目に複雑に絡み合い、左右両派の権力バランスが権威づけされる太子党の巻き返しで微妙に変わりつつある。