台湾関連情報 2006年12月13日記

台湾大学政治学系の洪永泰教授に聞く
民進党が事実上大勝 /馬英九氏は前途多難
台北、高雄市長選の結果分析


 九日投開票された台北、高雄市長選挙は与党・民主進歩党(民進党)と最大野党・中国国民党(国民党)が現有ポストを死守して両市議会での議席数を増やす一方、小政党である親民党、台湾団結連盟(台連)にとって党の存亡を決するほど苦しい選挙結果となった。同選挙結果を受けて台湾政局がどう変化するのか、台湾の政治動向に詳しい洪永泰台湾大学政治系教授に政界再編の動きについて聞いた。(聞き手・深川耕治=台北で、06年12月11日)

二大政党に政界再編の波

【洪永泰(ホン・ヨンタイ)】台湾大学法学院政治学系教授。一九七三年、米ミシガン大学で生物統計学博士号取得。一九八六年、台湾政治大学選挙研究センター主任研究員などを経て現職。専門は台湾の選挙予測、社会科学統計方法など。
 ――今回の選挙結果をどう見るか。
 「与党・民進党と最大野党・国民党は一勝一敗の痛み分けだったが、実際は民進党の大勝と言える。国際的に見て、民進党が台湾で与党となって以降、政局が不安定になると対外的な評価が下がり、非常に危機的な政局に陥っていたはずだ。台北市長選で民進党の得票率が前回より上がり、党の趨勢が上がった。大接戦の高雄市長選で民進党が制したことは本当の意味の勝利」

 ――選挙戦術に定評がある民進党の本領発揮ということか。
 「民進党は選挙の戦い方が非常に巧みで上手だ。事前の選挙情勢は野党・国民党が有利だったが、最終盤の詰めが甘く、選挙戦のノウハウで敗北した。選挙前、陳総統夫人が総統府機密費流用事件で起訴されたり、娘婿のインサイダー取引による実刑判決で厳しい批判にさらされたが、それを乗り越えて高雄の大接戦を制し、台北での得票を伸ばすことに成功したことは民進党幹部や党支持者にとっては団結力、結束力を増し、次の選挙勝利へ勇気づけられる結果だった」

 ――台北市長選で与党・民進党の謝長廷前行政院長(前首相)が予想より健闘したことは、来春から始まる民進党内での次期総統候補選びにどう影響するか。
 「謝長廷氏は民進党内の実力者で選挙に強い。今回の選挙結果は、〇八年の総統選へ向け、党内の総統候補選びが激化するだろう。これまでは総統候補に最も近かったのは蘇貞昌行政院長だったが、今回の選挙結果によって最有力候補でなくなった。最終的には陳水扁総統がだれを支持するかが最重要で、候補者選びの決定打となる。しかし、ぎりぎりまで本命をだれにしようとしているか腹の中は明かさないだろう。今回の台北市長選で謝氏が大敗した場合、蘇貞昌氏が有利になるはずだったが、どちらが総統候補になるか、最終判断するのが難しい状況になってきた」

 ――野党・国民党は党内の予想に反して高雄市長選の接戦に敗れ、台北市長選で当選した●龍斌元環境保護署長(環境相)も馬英九氏が当選した先回より得票数が約十八万票も下がった。今回の選挙結果で馬英九国民党主席の党内での評価や指導力はどう変わったか。
 「馬英九党主席の評価は下がった。本人の党内指導力が本当にあるのかどうか党幹部らは考え直し始めている。来年末の立法委員(国会議員)選挙で国民党の候補者選びを党中央が選定する場合、馬主席が指導力不足の中で候補を選定しても説得力を欠いてしまい、大変な党内圧力を受けることになる」

 ――国民党の馬英九党主席にとって、党内をまとめ上げる指導力不足の原因は他にあるか。
 「国民党は実際は党内に外省人(戦後、台湾に移り住んだ人々と子孫)系と本省人(戦前から台湾に住んでいる人々と子孫)系に分かれており、党内を統一しにくい状況に陥っている。香港生まれで外省人である馬英九党主席が党内を挙党一致できないこの点が来年末の立法委員選挙に大きく影響する。このまま選挙になれば党内をまとめる力がなく、敗退すれば、党内を団結できない。台北市長の公費私用疑惑は馬英九氏の個人的問題で大きな問題にはならない。むしろ、本省人で台湾本土派の王金平立法院長(国民党副主席)との確執先鋭化が馬党主席の地位を脅かしかねない」

「台湾国民党」結成の動き急

 ――第二野党・親民党の宋楚瑜主席が政界引退を宣言したことで親民党はどうなるか。
 「親民党は国民党に合併、合流する可能性が高い。現状維持のまま古巣の国民党に合流しないと二〇〇七年十二月の立法委員選挙で完敗し、消えてしまう。台湾団結連盟も同じ状況に陥っている。大部分の親民党の立法委員は国民党に復党することになるだろう」

 ――親民党の立法委員が国民党に復党することで最大野党の国民党は〇七年十二月の立法委員選挙、〇八年三月の総統選挙を有利に展開できるか。
 「国民党は現段階で親民党との合流問題がきわめて困難な問題を引き起こすことに気づいていない。立法院(二百二十五議席)の立法委員数が来年末の立法委員選挙から百十三議席に半減され、小選挙区制に変更されることで国民党の立法委員の候補者選びが非常に難しくなる。現有の国民党の立法委員から候補者を半分に絞って選出することでさえ至難の業であるのに親民党の立法委員までが国民党に復党して国民党候補として立候補を求めるようになるわけで、もっと複雑かつ困難になる。国民党の弱点は候補者選びで選定されなかった人々の怨みが強く、選定する党中央、とくに指導力が問われている馬英九党主席への風当たりがさらに強くなり、その場合、党主席の指導力、求心力が低迷し、不満が高まることが懸念される」

 ――与党・民進党と協力関係にあった台連は、民進党と国民党の対決構図に板挟みとなる中で厳しい得票結果となったが、小政党は今後、どうなる見通しか。
 「李登輝前総統が精神的指導を行っている台連は解党する可能性が大きい。李登輝氏本人が早ければここ数日で方向性を決定するだろう。李登輝氏の決断と国民党本土派の王金平党副主席(立法院長)の判断次第では大きな政界再編がありえる。台湾本土意識が強い王金平立法院長と李登輝前総統が協力して『台湾国民党』を結成し、親民党と新党が国民党と合流して新しい中国国民党を結成するという再編構図だ。これは李登輝氏の決断以上に王金平氏の決断力次第で決まる。二、三ヶ月前までは呂秀蓮副総統が王金平氏と協力合流するのいう風聞があったが、現在はその線は消えた」

●=赤+オオザト

【台北市長選の得票数】

カク龍斌(国民党) 692085票 当選

謝長廷(民進党) 525869票

宋楚瑜(無所属)  53281票

李敖 (無所属)  7795票

周玉寇(台連)   3372票

【高雄市長選の得票率】

陳菊 (民進党) 379417票 当選

黄俊英(国民党) 378303票

羅志明(台連)   6599票

★台北市長に当選した国民党のカク龍斌氏
軍人の父と違う学者肌/行政手腕まったく未知数

 行政院長や中華民国国軍参謀総長を歴任した●柏村氏(86)の長男。父は軍人になることを望んだが、本人は医学や農業に関心が高く、学者の道を選ぶ。1975年、台湾大学農業化学学科卒業後、米マサチューセッツ州立大学に留学し、食品科学技術博士号取得。台湾大学食品科学技術研究所教授、中華民国赤十字プロジェクト顧問などを経て95年、国民党を脱党し、中台統一派で中国寄りの新党に入党。96年に立法委員(国会議員)に初当選し、新党の立法委員団招集人などを経て2001年3月、環境保護署長(環境相)に就任。03年10月、同職辞職後、中華民国赤十字会秘書長に就任し、06年1月、辞職。同月、国民党へ復党し、5月、国民党の台北市長候補に選ばれる。台北市出身で既婚、54歳。

★高雄市長に当選した陳菊氏
農村出身の“女性闘士”

 民進党の決起集会での司会としての盛り上げ方、熱情は生まれながらの女性闘士。代々、宜蘭県の農民で、ふくよかな体格の中に台湾農村の熱情がにじみ出る独特の雰囲気は「菊姐」の愛称で高齢の支持者からも親しまれる。1950年6月10日、台湾東部の宜蘭県三星生まれ。世新図書資訊科卒。79年、東亜人権協会理事に就任後、美麗島事件で逮捕され、懲役12年の判決を受ける。86年、保釈後、台湾人権促進会主任、民進党の建党小組メンバーになる。台北市社会局長、高雄市社会局長を経て2000年、陳水扁政権発足時に労働委員会主任委員(労相)に就任。05年9月に同ポストを辞職し、06年、民進党の高雄市長選で民進党候補に選出される。56歳。


【台北、高雄市長選での与野党対決動向(下線が当選者)】

台北市長選

民進党             国民党       新党

1994年 陳水扁(43.7%) 黄大洲(25.9%)  趙少康(30.2%)

1998年 陳水扁(45.9%)   馬英九(51.1%)

2002年 李応元(35.9%)   馬英九(64.1%)

2006年 謝長廷(40.9%)   ●龍斌(53.8%)

高雄市長選

民進党             国民党

1994年 張俊雄(39.3%)  呉敦義(54.5%)

1998年 謝長廷(48.7%)   黄俊英(48.1%)

2002年 謝長廷(50.0%)   黄俊英(46.8%)

2006年 陳菊 (49.4%)   黄俊英(49.3%)