台湾関連情報 2006年12月19日記

不毛の政党政治続く台湾
台湾の黄石城・元総統府国策顧問に聞く
民主化で開票の公平性は改善
小選挙区制で「黒金」政治復活も
党益が国益に優先する誤謬改めよ
選挙戦での中傷合戦、公平さ欠く


 九日に投開票された台北・高雄市長選挙は与党・民進党と最大野党・国民党が現有ポストを死守し、小政党である親民党、台湾団結連盟(台連)にとって党の存亡を決するほど苦しい選挙結果となった。一貫した中立的な立場で定評のある黄石城元台湾総統府国策顧問(前中央選挙委員会主任委員)に台湾政局が同選挙結果でどう変化するのか聞いた。(聞き手=深川耕治、写真も=06年12月19日記)


黄石城(ファンシーチョン) 1935年、台湾中西部の彰化県生まれ。台湾の東呉大学法律系卒業後、弁護士を経て81年から彰化県長。90年に行政院政務委員、92年に世界華文作家協会長、96年に総統府国策顧問、98年に中華民国サッカー協会理事長就任。94年〜95年と00年〜04年に中央選挙委員会主任委員として活躍。現在、環宇国際文化基金会理事長、台湾伝統基金会準備處主任。二男一女。長男は黄偉峰台湾大学教授(元行政院大陸委員会副主任委員)、次男は黄國峰台湾政治大学教授、長女は黄文玲弁護士。
 ――二〇〇四年の総統選挙で前日、陳水扁総統の狙撃事件というハプニングの中で選挙が実施され、僅差で陳総統が再選した。敗北した野党陣営は験票(票の数え直し)を要求し、再確認されても勝敗は覆らず、今回の高雄市長選でも千百十四票差で民進党の陳菊氏が国民党の黄俊英氏を制したが、国民党の黄氏陣営は験票を要求している。こういう事態が起こることをどう見るか。
 「験票の要求は候補者の権利。台湾の投票の場合、どうしても人為的な作業で一〇〇%正しいとは言いきれないが、ほとんど問題にならない程度だ。開票の作業員は膨大な票を素早く仕分けるために若干間違うこともあるが、きわめてミスは少ない。意図的に票を取り違えるようなことはないし、高雄市長選の場合でも験票で当選者が覆る可能性はきわめて低い」

 ――一九九〇年、花蓮県の立法委員選挙の開票時、不正が発覚して当選者が覆ったケースはきわめて稀な事件ということか。
 「国民党独裁時代、不正投票の証拠を選挙管理委員会や検察が掌握して覆ったケースでこれ以外はほとんどない」

 ――今回の台北、高雄市長選の選挙結果をどう見るか。
 「台湾の政治は間違った方向に進んでいる。台湾の政党の本質は党益が国家益よりも優先しており、国家観念を失っているのが問題だ。台湾の政治家は五四三(台湾語でゴーシーサー=世間話ばかりで肝心なことは話さないという意味)しか話さない。私は無所属で彰化県長に就任して以降、政府に入っても無党派の立場を終始貫いてきた。台湾の政党はイタリアの黒社会(マフィア)のような体質があり、民進党も国民党も親民党も党利党略ばかりで評価できない」

2004年3月20日、傷口を気にしながら投票会場に姿を現した陳水扁総統(中央左)と同行する黄石城中央選挙委員会主任(中央右)=深川耕治撮影
 ――選挙システム、選挙管理は国民党時代よりも公平性、透明性は増したと思うか。
 「選挙の公平性や透明性は民主選挙として良くなったが、政党政治の質は悪化した。私が一九八一年に彰化県長選挙に無所属で出馬した時、国民党候補と一騎打ちで約二十七万票を取って約三万票差で当選した。当時は特務警察が尾行して監視される生活。無党派の候補で当選したケースは当時、四人ほどで、集票作業の際、百票単位でまとめて集計しても最初と最後の票だけ国民党候補の票で他は全部無所属候補の票であったりしてきわめて不公正な開票がまかり通っていた時代だった。当時と比べると、現在の選挙の投開票システムは非常に中立で透明性が高く、問題がない」

 ――政党政治の質が下がった理由は何か。
 「だまし合い、中傷合戦が展開されている。選挙戦に入ると、他党を攻撃したり、誹謗して有権者を混乱させている。選挙管理委員会としてはこれらの行為をきちんと取り締まることができないので、私自身、選挙委員会主任委員を辞めた。このような選挙戦の体質は選挙民にとって決して良い教育にならない」

 ――昨年の憲法改正で立法院(国会=定数二百二十五議席)の立法委員(国会議員)数が百十三議席に半減することになり、来年十二月の立法委員選挙後から実施される。しかも、小選挙区制に変わり、一選挙区で一人しか当選しないシステムに変わるが、立法委員の半減と小選挙区制への移行を元中央選挙委員会主任委員の立場からどう見るか。
 「小さな政府にするという点では立法院の定数を半減することに大賛成だ。立法委員の質が良くないので、さらに削減した方が良い。しかし、小選挙区制になると、票を金で買う賄賂が横行しやすくなり、いわゆる『黒金(暴力団と金権汚職)』政治が復活してしまう。黒金の体質がなければ小選挙区制は理想的な選挙システムだ。小選挙区制は日本や韓国でもそうだが、台湾でも二大政党は理想的な選挙制度なので面目上、反対できなかった」

 ――来年十二月の立法委員選挙は大政党に有利で小政党は不利と見られているが、どう予想するか。
 「国民党の候補がかなり当選するだろう。台湾の地方都市、県、郷鎮などでは国民党が強い。小さな選挙ほど黒金が横行しやすいからだ。一方で民進党は選挙戦術に非常に長けている。黒金と無縁でも、大政党に成長して小選挙区制にも強くなり、選挙区制の改正は両党の思惑が一致した形だ。親民党は宋楚瑜主席が政界引退を決めたことで来年の立法委員選挙は非常に厳しい選挙になるだろう。現段階で国民党に復党すれば、党幹部との交渉次第では来年の立法委員選挙で国民党の候補に選抜される可能性がある。だから一部は国民党に復党するだろうが、親民党独自の見解は失われてしまうだろう」

 ――李登輝前総統が精神的指導を行っている台湾団結連盟(台連)は来年の立法委員選挙でどうなるか。
 「李登輝前総統は小選挙区制に反対していた。小政党にとって不利だからだ。日本でも同じ。小政党に所属している国会議員は少なく、無所属の国会議員はさらに少なく、当選しにくい。このままでは議席を確保できにくい状況になってしまう」

 ――中台統一派の新党は台北市で四議席を保持し、小政党としての存在感は残しているが、どう見るか。
 「新党は外省人の議員しかいない。台北市長に当選した●(赤+オオザト)龍斌氏も国民党から新党に入り、再び国民党に復党したのは所属政党からの立候補を認めてくれない事情があるからだ。台連の場合も国民党や民進党からの立候補選抜に漏れた人たちが入っている。台湾の政党政治が日本や欧米の政党政治と違うのはこのような部分だ」

 ――陳水扁総統夫人が総統府機密費の横領罪などで起訴され、十五日から裁判の審議が始まったが、有罪になった場合、陳総統は本人の主張通り、総統を辞職すべきと考えるか。
 「有罪判決が出ても辞めるわけがない。憲法上、総統ポストにある者は起訴されないが、辞任すれば即刻起訴されるからだ。政党指導者などの発言は嘘が多いが、住民は発言をそのまま信じてしまう」

 ――馬英九国民党主席にも台北市長の公費流用疑惑が浮上し、検察が起訴すれば国民党主席を辞任すると発言しているが、どう見るか。
 「政党の指導者は総統ポストと違い、社会団体の長に過ぎない。起訴されれば党主席を辞めて〇八年の次期総統選に全力を注いで準備した方が、むしろ本人にとって得策ではないかと思う。来年の立法委員選挙で定数が半減するので候補者選定で党主席の責任が非常に重い」

 ――〇八年の総統選挙は民進党と国民党のどちらに有利と見るか。
 「現段階では国民党に有利だが、国民党は選挙戦術が上手くない。選挙で非常に高等な作戦を展開する民進党が追い上げ、今回の高雄市長選のような接戦に勝つケースも考えられ、状況次第で変わっていく」

 ――今後の中台関係はどうなっていくべきか。
 「この問題はなかなか解決できない。台湾には中華民国、台湾共和国、中国の三カ国人が住んでいるようなもので常に対立し、国家アイデンティティが統一されていない。小三通(限定的な中台の交通、通商、通信の直接往来)は可能だが、大三通(中台の交通、通商、通信の直接往来)はできない。台湾はシンガポールのクリーンな政党政治、行政効率、環境対策を学び、国際的な評価を高めるべきだ。そうすれば中国は台湾に干渉できなくなる」