台湾関連情報 2006年12月23日記

馬英九氏の評価下げた高雄市長選敗北
台湾の黄天麟・前総統府国策顧問に聞く
執拗な個人攻撃、中間層そっぽ
対中投資抑制が奏功 台湾への外資拡大呼び水に
「日本経済圏」で中国牽制を


 二〇〇八年三月に行われる台湾総統選の前哨戦だった九日投開票の台北、高雄市長選挙は最大野党・国民党の●(赤にオオザト)龍斌・元環境保護署長(環境相=54)、民進党の陳菊・前労工委員会主任委員(労相=56)が初当選を果たした。両選挙結果を受け、台湾政局はどう変化するのか。対中貿易増が台湾経済だけでなく政治にも大打撃を与えると警鐘を鳴らす黄天麟・前台湾総統府国策顧問に中台経済関係の視点から聞いた。(聞き手=台北・深川耕治=12月23日記、写真も)


【黄天麟(ファン・テェンリン)】1929年8月25日、台湾澎湖県馬公市生まれ。台湾大学法学部経済系卒業後、米コロンビア大学に留学。54年、第一商業銀行(現・第一金融控股公司)に入行。92年に同行頭取、94年に同行会長に就任。李登輝政権時代、国家安全委員会諮問委員を歴任。陳水扁政権発足時の2000年5月以降、総統府国策顧問。06年5月、国策顧問が廃止され、現在、台湾心会理事長。著作に「中国の興亡盛衰」(中国語版)、「東方と西方」(同)、「外貨市場と外貨管理」(同)、「経済百問」(同)など多数。

 ――12月9日の台北市長選で民進党の謝長廷前行政院長が予想よりも善戦したとの見方があるが、どう見るか。
 「前回の選挙で民進党の李応元氏が獲得した票が極端に低かったので、善戦したように見られているが、前々回、陳水扁総統が台北市長選で出馬して馬英九氏に敗北した時の獲得票より票数が少ない。陳氏よりも票を獲得すれば党内評価はかなり高まったはずだが、そうではない。游錫■民進党主席が辞任しなくて良い程度だ」

 ――高雄市長選では民進党の陳菊氏がぎりぎりで当選を果たし、その影で台湾団結連盟(台連)は厳しい選挙を強いられたがどう見るか。
 「ある意味で民進党が何としても高雄を落としたくないための犠牲となった。台連の高雄市長候補だった羅志明氏は学歴、演説内容、施政方針のいずれを比較しても陳菊氏よりも優秀であることは高雄市民も認めている。二大政党の狭間に立っても、一つの政党として候補者を立てなければならないので、最後まで選挙戦を戦い抜いたことに意味がある。仮に民進党が高雄で敗北していれば、大方、台連のために負けたと民進党は弁解するところだろう」

 ――親民党の宋楚瑜主席が政界引退を宣言したが、親民党は今後、国民党と合流する道を行くのか。
 「その通りだ。親民党のメンタリティは国民党と同じ。中台統一派の新党にしても、親民党にしても李登輝前総統が目指す台湾本土路線に反発して国民党を出て新しい政党を結党した。しかし、国民党内に李登輝前総統がいなくなった現在、宋楚瑜氏の政治力もなくなり、再び親民党は敗戦の将として国民党に戻るようになるという構図だ。日本の郵政民営化をめぐる自民党内反対派議員が党を出て復党するかどうかもめている事情に似ている。親民党の立法委員の中には国民党に復党するケースが多いだろうが、無所属になるか、政界を引退するケースもあるだろう」

 ――基本的にグリーン(台湾優先の民進党系)とブルー(中国国民党系)ではっきり分かれる与野党の構図は変わらないということか。
 「グリーンは比較的に台湾を国家主体とする意識。ブルーは中国を主体とする国家意識を指示する人々だ。中国を主体とする人々の中でも、中華人民共和国を主体とする人や中華民国を主体と意識する人もいるが、いざとなれば、中華人民共和国に重きを置く意識が強い」

 ――台北市長に当選した●龍斌氏は国民党から新党に鞍替えし、再び国民党に復党したやや新党寄りの路線に見られているが、馬英九国民党主席よりも中国意識が強いか。
 「馬英九氏の方が中国意識は格段に強い。●氏は台湾生まれの台湾育ち。米国流で見ると、米国生まれでなければ大統領になる資格がないとすれば、●氏は台湾総統になる資格があるが、香港生まれの馬氏はその資格がないとも言える。」

 ――高雄市長選で優勢と見られていた国民党候補が落選した。馬英九国民党党主席の評価は党内で下がったとみるべきか。
 「評価は下がった。今選挙で圧倒的勝利が予想された国民党が結果は一勝一敗になったことは結論から見ると、敗北に近い。原因は敵陣営への極端な中傷、誹謗攻勢。国民党系メディアがこぞって陳水扁総統の長男夫婦の生活ぶりなどまで執拗に批判報道した。とくに陳総統への反発を感じていた中間層の選挙民にとってさえ行き過ぎに見え、同情票が増えたので、選挙結果はそのリアクションでもある」

 ――国民党の事実上の敗北、民進党の善戦の理由は他にあるか。
 「台湾経済が堅調であることだ。とくに今年一月から十一月まで台湾の対大陸投資が伸びていない。今年初め、陳総統は対大陸投資の有効管理をしない限り、投資を抑制する『積極管理』政策の方針を改めて明確に打ち出した。四月にTFT液晶、LCDの部分開放が実施されたが、七月の経済諮問会議で上場企業の対中投資については親会社資本の四〇%を超えて中国大陸に投資してはならないとの規定を撤廃しない方針が確認され、中台チャーター便を増やす方針も撤廃、銀行の大陸進出も事実上、できない方針を打ち出した。この決定以降、台湾の株価は着実に上昇してきている。七月決定時の台湾株価指数は六四〇〇前後だったのが、台北市長選前後では七五〇〇まで上がっている。もし、株価が下がっているようならば与党は高雄で負けていただろう。台湾は日本よりも株式投資が熱心なので、株価動向が政権への評価につながりやすい」

 ――今年に入り、民進党政権が対中投資にブレーキをかけたことが結果的に内需拡大と外資増加を促し、経済を活性化させたことが与党への支持拡大につながったとみるべきか。
 「そうだ。十二月に入り、日本の半導体メーカーのエルピーダが台湾企業と合弁で一兆六千億円を投じて台湾に最先端工場の建設を決定するなど、七月以降、海外から台湾への投資が増加している。台湾財界の多くが、対中投資を開放、促進しなければ台湾に外資が来ないと主張しているが、台湾への外資増加は台湾の対中投資とは関わりのないことを証明している。むしろ、対中投資を抑制した方が外資が入る」

 ――来年十二月の立法委員(国会議員)選挙で小政党はどうなるか。
 「小選挙区制に変わるため、台湾団結連盟(台連)は議席を獲得することすら難しい状況になる。親民党の立法委員も国民党に復党したとしても立法院(国会)の定数二百二十五議席が半減(百十三議席)されるために国民党候補の選抜から漏れるケースが増え、厳しくなる」

 ――来年末の立法委員選挙は与党・民進党と国民党のどちらが有利か。
 「離島区や原住民区など十数議席はすでに国民党系で占められている。とくに台湾西部で民進党が六割以上の得票率を獲得しない限り、立法院で過半数を取れないし、台湾経済がさらに好転しない限り、民進党の得票率は上がらない。現状では国民党有利で議席の過半数を取る勢いだ。しかも小選挙区制は選挙資金で左右されるので、旧来のルートを持つ国民党が選挙上手な民進党よりも強い」

 ――立法委員選で野党の獲得議席が民進党よりも増えて少数与党による立法院運営を迫られると、二〇〇八年三月の総統選挙で民進党はかなり不利になるのか。
 「行政院(政府)だけ与党、立法院は野党支配の構図のまま総統選に入るだろう。台湾経済が好転しないと民進党に有利に働かない。北京五輪が迫る時期だけに中国ブームが広がるので北京政府は巧妙に利用してくるだろう。その危険性に警鐘を鳴らしながら、いかに台湾本土意識を高めていくかが重要だ」

 ――三通(中台の交通、通商、通信の直接往来)問題に対する台湾の若い世代の意識は賛成意見が多く、就職も大陸志向が増えているが、どう見るか。
 「現在、台湾の二十歳代の若者は李登輝時代の国民学校教育を受けているので、強い中国意識はない一方、台湾本土意識も薄い。日本の若者の政治意識や国家アイデンティティの意識に近い。問題なのは、四十歳代以降の世代だ。彼らは徹底した旧来の国民党教育を受けているので中国意識が強い。その点では●氏も国民党教育の洗礼を受けているが台湾語も話せるし、台湾生まれなのでさほど問題ではない。香港生まれの馬英九国民党主席はもっとその影響は強い」

 ――日台関係はどうなっていくか。
 「日本はもっと声を出してほしいと台北駐日経済文化代表処も言っている。日本がアジアブロックの中で台湾との経済交流、投資を増やすことで結果的に中国の脅威を防御できる環境作りになる。台湾にとっては日本からの投資が増えれば経済的な安定が政治的安定につながる。日本はアジアで中国経済圏に入ろうとばかりせず、独自の日本経済圏を構築し、台湾やフィリピン、インドネシアなどと連携していくべきだ」
■=埜の木を方に
●=赤+オオザト

【台北市長選挙の結果】
2006年               2002年
●龍斌(国民党) 692085票   馬英九(国民党) 873102票
謝長廷(民進党) 525869票  李応元(民進党) 488811票
【高雄市長選挙の結果】
2006年              2002年
陳 菊(民進党) 379417票   謝長廷(民進党) 386384票
黄俊英(国民党) 378303票  黄俊英(国民党) 361546票

【台北市議会議員選挙の結果】
2006年         2002年
国民党 24議席  国民党 20議席
民進党 18議席  民進党 17議席
【高雄市議会議員選挙の結果】
2006年         2002年
国民党 17議席  国民党 12議席
民進党 15議席  民進党 14議席