中国企画記事 特選

2006年9月6日記

香港誌「開放」の金鍾編集長に聞く
60歳定年制が新たな腐敗生む 中国
軍も諦めムード、突発事件も/毛路線回帰で言論統制強化へ
 中国の胡錦濤政権は来秋の第十七回党大会を見据え、江沢民時代に選ばれた地方幹部を一掃し、政権の安定に有利な若手地方幹部を登用して政権基盤固めを強化している。胡錦濤国家主席と温家宝首相を主軸にした「胡温体制」が発足して三年半。胡錦濤政権の実情と問題点、政治課題や台湾問題について香港月刊政治専門誌「開放」の金鍾編集長に聞いた。(聞き手=深川耕治,2006年9月6日記、写真も)


――来秋の第十七回党大会で最高指導部の人事はどうなると見るか。
 「中国最高指導者は一世代が十年限りの権力掌握期間を有している。五年に一回の中国共産党大会で人事が決まる。第十四回、第十五回の党大会は江沢民前総書記が仕切り、胡総書記は二〇〇二年から二〇一二年の第十八回党大会までが権力掌握期間だ。〇七年秋の第十七回党大会では党中央政治局常務委員は九人から七人に変わるだろう。現在、九人になっているのは権力を分散するために一時的に二人増員しているだけだが、江沢民政権時代と同じ七人にもどる。現況九人の政治局常務委員のうち羅幹、黄菊、賈慶林、呉官正の四人は年齢制限のため退くだろう。継続するのは胡錦濤総書記、温家宝首相、曽慶紅国家副主席の三人。李長春と呉邦国は引退か、続任か未知数だ」

 ――胡総書記ら「第四世代」に次いで、張徳江広東省党委書記、李克強遼寧省党委書記ら「第五世代」指導者がポスト胡錦濤の有力候補として騒がれているがどう見るか。
 「李克強氏は最有力の一人として見ていいだろう。ただし、現時点で彼が次期最高指導者になるかどうかは不明で、現在、対外的にそういう情報を流しているに過ぎない。実際は李克強氏だけが独走しているわけではなく、同様に、昨年、持ち上げられていた張徳江広東省党委書記もいる。来年の第十七回党大会まで残り一年あるので、当然、変化が起こりうる可能性はある」

 ――ポスト胡錦濤レースは来秋の党大会人事である程度、候補が絞られるようになるか。
 「胡錦濤総書記が引退するまで残り六年ある。来秋の第十七回党大会で李克強遼寧省党委書記が党最高指導部である中央政治局常務委員に就任することがあるにしても後継者を意味するポストに入ることはないだろう。現在、注目されるのは、だれが胡錦濤総書記の後継者になるかということではない」
 「現状の権力掌握スタイルは一九八九年の天安門事件以降、現在まで十六年間、高度に権力を集中させる方法で、一人の指導者が党総書記、党中央軍事委主席、国家主席の三ポストを掌握する権力集中スタイルだった。この手法は一九八〇年代までの権力分散型スタイルとは違ったものだ。一九七八年に毛沢東時代が終焉して八九年の天安門事件までの権力スタイルは文化大革命の反省をふまえ、トウ小平が一人の指導者に対しての権力集中を嫌い、権力を分散させた。これがトウ小平の時代だった。趙紫陽が総書記、トウ小平が党中央軍事委主席、楊尚昆が国家主席、李鵬が首相となり、権力を四人で分散させた。それが江沢民時代になると、再び、一人に権力が集中するようになった。これは中国にとっていかなる政治的変化よりも重要な出来事だ」

 ――次期指導者の政治手腕次第で現代中国の抱える課題は克服できるだろうか。
 「江沢民、胡錦濤は卓越した指導能力を発揮して中国共産党の権力を牛耳ったとは思わない。こうした指導力を持つ人物は党内ではいくらでも存在する。だれが次期指導者になるかは重要ではない。江沢民時代、胡錦濤現政権で中国が抱える社会、民生、政治、経済など様々な問題について解決しようともしないし、解決できない。江沢民時代にできず、胡錦濤政権でもできないわけだから、次の政権でもだれが指導者になっても同様だ」

 ――中国の政治体制の問題点は何か。
 「最高指導者が終身雇用制ではなく、十年の任期が設けられたということは一つの進歩だと思うが、マイナスの要素も出てきた。地方の役人は六十歳定年制ということで、定年まで余計なことはせずに金を稼ぐだけ稼ぎたいと思うようになり、国のトップリーダーは十年が任期なので、自分の時代に卓越した巨大プロジェクトを成し遂げるようなことはしなくなった。十年間を終えたら引退するからという理由だ。こういう事なかれ主義的な官僚体質が地方から中央政府中枢までまん延してきている」

 「六十歳定年を前にした五十八歳、五十九歳前後の老幹部が中国国内でいろんな汚職して摘発されるケースが続出している。彼ら地方役人だけが汚職に走っているのではなく、江沢民も胡錦濤も同じような傾向がある可能性が大いにある。六十歳で定年すると何の権力も権限もなくなるので、定年退職する前に自分の息のかかった人物たちをいろんなポストに配置することに躍起になっているわけで、重要な国家プロジェクトを真剣に考えるような暇も余裕もないというのが現状だ」

――胡錦濤総書記のブレーンたちは胡錦濤氏を毛沢東化させ、カリスマ性を再び持たせるよう提言していると「開放」誌上では報じているが、これは十年任期、六十歳定年制の悪習に対する反動か。
 「自分を道具化させたいと話したそうだ。一九六〇年代、共産党の道具となれ、と党中央が指示していた時代がある。胡錦濤はその時代に生まれ育った。文革時代、造反派でも保守派でもなく積極的には参加していない。ただ、思想的には文革時代の思想が残ったままだ。文化大革命の衝撃を身をもって体験していない世代だ。トウ小平は経済改革にだけ手を付けたので、胡錦濤は経済改革以外、こぢんまりとした改革しかしない」
 「なぜ、毛沢東路線が復活し始めているかというと、中国社会の現状は袋小路に入り、どうすることもできない状況に陥っている。まず、胡錦濤政権が行うべきは社会の安定が第一。社会安定を持続させてやりやすくするのは過去の毛沢東路線を復活させて、トウ小平時代以上に言論統制を厳しくしてコントロールする。トウ小平時代は毛沢東批判を徹底して行ったわけでもなく、毛沢東路線を引き継ぐわけではなく、そのまま置いておいた。経済改革については改革開放路線を敷いて毛沢東路線と違う独自路線を展開させたが、胡錦濤は独自路線は打ち出す能力がない。手っ取り早いのは毛沢東路線の復活しかない。これは私が言っているのではなく、北京高層部が直接話していることだ」

――胡錦濤総書記は非公式に「北朝鮮の金正日総書記、キューバのカストロ議長を見習え」と話しているとされるが、これは毛沢東路線の復活を意味するのか。
 「イデオロギー統制という手段、手法は北朝鮮やキューバなどを見習うしかないとうことだろう」

――張徳江広東省党委書記は北朝鮮の金日成大学経済学部を卒業し、北朝鮮式の政治指導方法を学んだ人物だが、彼を次期指導者候補に持ち上げたりする動きはこれと関係があるのか。
 「おそらく一定の関連性はあるだろう。ただし、文章として彼が北朝鮮の大学に留学しているからそうだという表現は現在のところ出てない」

――同じ共産主義国家だったベトナムは党総書記の民主選挙が開始され、北朝鮮とはまったく違う道を歩んでいるが、中国はベトナム式の選択はあり得ないか。
 「まず、ありえない。中国社会は複雑かつ困難な問題をたくさん抱えており、民主選挙が出来る状況にない。ベトナムは中ソが険悪になっても独自路線を通してきた。北朝鮮は歴史的に朝鮮戦争以来、中国と確固たる同盟関係を築いており、米国に対抗するために中朝は協力関係を維持し続けることは間違いない」

――中国内で非合法組織となっている気功集団「法輪功」について当局がメンバーを生きたまま臓器移植に利用するなど弾圧の過激化がエスカレートしているようだが、法輪功問題をどう見るか。
 「これまで中国共産党に対抗するのは海外の民主活動家ぐらいしかなかったが、法輪功はいつの間にか中国共産党にとって最大の反体制組織になってしまった。宗教的組織は弾圧されればされるほど強くなる。私が訪米した時、法輪功組織基盤の強固さに驚いた。中国内でも彼らは地下活動を続けて、中国最大の反体制組織となっている」

――台湾の陳水扁政権は残り任期が二年を切り、〇八年春には次期総統選となる。与野党の候補はどちらが有利か。
 「現時点で総統選が行われれば、最大野党・国民党の馬英九党主席が有利だろう。しかし、選挙は一年半後なので、台湾政局はどう変わるか、予断を許さない。台湾の選挙は、藍(野党・国民党系)、緑(与党・民進党系)、中間層の三分天下と言われている。藍と緑は勢力が拮抗し、結局、無党派層の中間派が選挙時点でどう動くかで決まってしまう。台湾は本省人が八割、外省人二割なので、中間層も同様の割合なので選挙時になると本省人系の中間層の動きが鍵になるので、民進党側にも不利な条件ばかりではないし、民進党政権の継続もありえる」

――次期総統選で与党・民進党の総統候補は「四天王(呂秀蓮副総統、謝長廷前行政院長、游錫●党主席、蘇貞昌行政院長)」から輩出されると見られる。その中で最有力は蘇貞昌行政院長と見ていいか。
 「最有力は蘇貞昌氏だが、あくまで陳水扁政権の現在の危機的状況を何とか乗り越えた場合に限る。次期相当候補は候補者選びが最終決着する時期の党内事情に左右されるので、現時点でははっきりとした見通しは立たない」

――江沢民前党総書記、胡錦濤党総書記に対する軍幹部のイメージや評価はどうか。
 「トウ小平が敷いた改革開放路線以降、ピラミッド型に組織された党内は指導層が権力分散型になり、党最高指導部のリーダーの資質が抜きん出た指導力、カリスマ性がなくてもポストさえ与えられれば、その職務を続けられる体質に変わってしまった。私が軍最高幹部クラスから直接聞いた話では、だれが上に立とうと、自分の職務を全うすればそれで良いという雰囲気が軍内部でまん延している。これは江沢民前党中央軍事委員会主席、胡錦濤党中央軍事委員会主席が軍指導者として、あるいは国家指導者として平党員レベルの器しかないのに最高指導者に抜てきされたために軍内部で広がっているあきらめムードだ」

――最近、ベトナムでは指導部の民主選挙が開始され、中国共産党との違いがはっきりしてきている。中国共産党の一党独裁維持はいつまで続くと見るか。
 「中国では党指導部の民主選挙はあり得ない。当分、この状態が続くだろう。ただ、ポスト胡錦濤政権では、不安定要素が拡大するだろう。指摘した通り、軍内部には現政権への不満や憤り、あきらめムードがある。ごく一部の軍区の指導層でクーデターなどが突発的に発生して中国の一部地域で反乱軍のような動きが起こりうることはあり得る。中国共産党の生き残り術は、ソビエト共産党や台湾の蒋介石、蒋経国政権時の開発独裁の動きから学んでいる部分が多い。私個人のあくまで予想だが、二〇一四年ぐらいに一党独裁は突発的な事件が重なることで崩れていく可能性があると見ている」

――最近、相次いで江沢民文選など江沢民氏の著作が発刊されたが、どういう意味を持つか。
 「内容は主にこれまでの外交活動や文選で自画自賛ばかり。顔に金を張っているようなものだ。国の中枢権力を掌握した人物がこんな自画自賛行為をする必要があるだろうか。書籍が二種類出た理由は二つある。軍幹部には今でも江沢民派が数多くいる。二冊発刊された理由は、一つは軍内の江沢民派が江氏に対する謝意を示したもの。もう一つは江氏が政権掌握期間、非常に虚栄心が強く、海外訪問した際もあえて英語で話す必要がないところでも故意に下手な英語をひけらかしたり、虚栄心が非常に強い性格であることから、面子を重んじるために発刊したといえる。現在も政権内での江沢民氏の政治的影響力があるか、正確には分からないが、さほど大きくはない」

●=埜の木を方に
トウ=登ヘンにオオザト


【金鍾】本名は冉懋華(ゼン・ボウカ)。湖南省常徳出身。武昌電力専門学校を卒業後、60年代に黄河や雲南地区で水力発電の技術業務に携わる。文革後、文学評論を発表し始め、1980年、香港へ移民。政治雑誌の編集員となり、1987年、雑誌「開放」の編集長に就任。著書に「毛沢東からトウ小平まで」、「中国の演変」など。