中国メディア批評
2006年12月15日記

支持率調査に翻弄された台湾選挙の愚
結果に最も近かった自由時報
本音答えぬ選挙民の信頼得る


 台湾の重要な選挙で現地取材に行く度、惑わされるのが台湾メディアが発表する独自世論調査結果である。投票日が近づくほど、支持率調査の精度を上げないと信頼性を失うはずなのに、性懲りもなく大半のメディアが党派性を優先してデタラメな調査結果を堂々と発表するのが常だ。

遊説カーに乗り込む民進党の陳菊高雄市長候補。大半の台湾メディアの予想に反して最後の追い上げで大接戦の末、当選した=深川耕治撮影=許可なく転載禁止
 十二月九日投開票の台北、高雄市長選では、例外なく最大野党の国民党候補が優勢であるとしていたが、開票してみれば、高雄市長選は大接戦の末、わずか千百十四票差で与党・民進党の陳菊候補が当選し、台北市長選でもかなりの劣勢と予想された民進党候補の謝長廷前行政院長が善戦し、世論調査がいかに疑わしいものかを露呈した。

 台湾メディアは半世紀以上に渡る国民党一党独裁時代の中で、二〇〇〇年五月、民進党が政権を奪還して国民党が野党に転落した後も、テレビ局や新聞は圧倒的に中台統一派で最大野党・国民党寄りのメディアが多い。民進党系のメディアといえば、テレビ局では民視、新聞では台湾日報ぐらいでまだまだ少数派。台湾三大紙のうち、連合報、中国時報は統一派で、李登輝前総統に近い良識的な論調で台湾優先の新聞は発行部数最多の自由時報ぐらいだ。

 今回、高雄市長選挙直前の各候補の支持率調査で選挙結果に最も近くて正確だったのは唯一、自由時報だけだった。それ以外のメディアは国民党の黄俊英候補が民進党の陳菊候補を大きくリードし、優勢との判断を下す予想だったことから見ると、自由時報の直前世論調査は唯一、異彩を放っていた。以下、台湾メディアが行った高雄市長選での直前支持率調査(民進党の陳菊候補=陳、国民党の黄俊英候補=黄、数字は全体の支持率パーセント)。

 ▼自由時報・十二月六日発表(陳=三四・〇九、黄=三四・三八)、TVBS・同六日発表(陳=三六、黄=五〇)、中国時報・同五日発表(陳=二九・〇、黄=四二・七)、連合報・同三日発表(陳=二七、黄=三九)、東森新聞・十一月二十四日発表(陳=二八・五、黄=四一・二)

 統一派のメディアが一様に、二候補の差を一二〜一四ポイント前後開いていると発表したのに対し、自由時報だけが僅差の〇・二九ポイントで「五分五分の勝負」と発表し、実際には〇・一四ポイント差で陳菊氏が当選している。

 今回、南部の大都市・高雄の市長選でこれだけ支持率調査に誤差が生じた理由は、台湾人としてのアイデンティティが根強く、独立志向への熱情を抱く南部選挙民の特性にある。台北市内のように歴史的に外省人(戦後、台湾に移り住んできた人々とその子孫)が圧倒的に多い国民党の地盤と違い、高雄は本省人(戦前から台湾に住んでいる人々とその子孫)が多く、民進党の固い基盤を保つ。しかも、統一派メディアを毛嫌いし、まったく信用していない傾向にある。

 高雄市内の一般家庭に電話での世論調査が行われた場合、どのメディアの調査かによって選挙民の答え方が違う。民進党支持者が多い台湾南部の場合、北部で幅を利かせる統一派メディアの世論調査が行われた場合、決して本音で回答せず、あえてだれに投票するか決めていない中間層であるように答えたり、逆に国民党支持者であるような答え方をしてしまう傾向がある。

 逆にメディアの中では少数派で台湾本土意識を大切にする自由時報が調査すれば、高雄の民進党支持者であれば、素直に本音を回答するため、より正確な世論調査結果になるということだ。高雄の陳菊候補の選挙事務所に行き、そこに集まる二十二歳の男子大学生、五十歳の婦人、六十三歳の男性にそれぞれ感想を聞いてみたが、共通するのは「民進党の候補者であれば、だれでも良い。国民党時代に逆戻りしたくないので、党の決定通りに投票する」と回答する反国民党感情と党への熱情。台湾南部は民進党の最後の追い込みは詰めの甘い国民党とは比較にならないほどの底力がある。

 台湾では来年十二月の立法委員(国会議員)選挙、〇八年三月の総統選挙が今後の政局を決定づける。海外メディアは選挙前、台湾の統一派メディアによる支持率調査結果を紹介しながら見通しを予測しようとするが、決して信ぴょう性のある支持率調査ではないことを肝に銘じるべきである。(台北で・深川耕治=12月12日記)