中国企画記事 特選
2007年9月20日記

高級マンション、続々建設 河南省鄭州
炭鉱経営者ら新富裕層が購入

「児童拉致まだ続く」住民ら怒り
エイズ問題も深刻化 拡大浮き彫り
当局は問題発覚恐れて圧力


 中国の地方都市に行くと、マンションの建設ラッシュが目立つ。北京や上海などの大都市部から地方都市の不動産にターゲットを移して買いあさる富裕層が投資目的で購入するケースが多く、所得の低い地元民が購入する例は少ない。貧富の格差は、地方都市の不動産価格まで高騰させ、児童の拉致・強制労働、エイズ問題にまで難題を拡大させている。(中国河南省鄭州・深川耕治、写真も=07年9月20日記)



 北京から南へ約六百キロ。河南省の省都・鄭州市は古来より華北と華南を結ぶ交通の要衝として栄え、鉄道網も中国の東西南北どこにでも行ける地の利が魅力だ。北京ではゴミが落ちて大気汚染でほこりっぽいのに対し、鄭州市内はゴミのポイ捨ても少なく、市と契約した清掃員が到るところに配置され、街自体が緑が多くて整然としている。鄭州市の東側、鄭東新区には高級マンションの新築ラッシュが続く。

 鄭州大学工学院建築学科を卒業して同市内の設計事務所で働く張政軍(24)さんは「新築の高級マンションは違法経営をして金回りの良い山西省や山東省、河北省の炭鉱経営者ら富裕層の購入が増え、地元民はごく一部の富裕層以外ほとんど買えないまま指をくわえて見ているしかありません。浙江省の温州商人も不動産投機のために大量に購入し、地元の新都市機能開発のために建設されたニュータウンが他地域の富裕層によってバブル状況の不動産価格急騰に拍車をかけています」と異常な不動産売買熱を憂慮しながら憤る。

建設ラッシュが続く河南省開封市内のマンション

 鄭州市当局の発表では今年上半期の累計不動産売買面積は三百八十六万九千平方メートルで前年同比一八・二%増。不動産価格は一平方メートル当たり三千三百九元(約五万円)で前年同期比一七・五九%増と高騰は抑制されないままだ。

 今年上半期に売買された不動産のうち鄭州市住民が購入したのは全体の四八・一%、外地人の購入は五一・九%(前年同期比二四・五六%増)で過半数を占め、他地域からの購入が急増していることが特徴といえる。

 鄭州市内の不動産情報を提供する好運不動産情報有限公司のスタッフは「鄭州は周辺の省都や大都市に比べ、不動産価格は比較的安く、しかも価格上昇率が高いので不動産投資の場所としては穴場。市政府もそれに便乗して不動産開発投資に力を入れ、開発ラッシュを支援している」と事情を説明する。地元紙・鄭州晩報によると、今年上半期の不動産物件の平均価格は周辺十省の十都市の中で第七位、価格上昇率は長沙市に次いで二位という結果だ。

 夜、鄭州駅に行くと、交通の要衝だけに他省からの農民工(出稼ぎ農民)が大きな荷物を背負い、出入りする姿が目立つ。ここは悪徳仲介ブローカーによって全国各地で拉致・誘拐されり、巧みにだまされて一千人以上の少年たちが集められ、山西省臨汾市周辺の違法れんが焼き工場で強制労働させられた上に虐待を受けていた「奴隷工場」事件の発端となった場所だ。

河南省開封市内の新築マンション商談会場にはマンションの模型が展示してあり、富裕層に人気

 誘拐された少年たちは鄭州に集められた上、山西省に移動させられ、一人五百元(約七千五百円)で地下れんが工場へ人身売買され、大部分が食事も十分に与えられないまま一日十五時間以上の労働を強いられていた。今年四月ごろから拉致された少年の親たちが結束し、地元メディアを動かして「奴隷工場」事件が報じられるようになり、六月、温家宝首相は徹底調査を指示。山西省の地方都市幹部が仲介業者と癒着して見て見ぬふりをし続けてきた実態が解明されることで于幼軍山西省長が謝罪し、拉致少年らの解放に動き始めたが、いまだに半数以上の少年らの所在は不明のままだ。

 鄭州駅前の男性ホテル従業員は「少年の拉致・誘拐、強制労働はいまだに続いて未解決だ。鄭州に集められ、地方都市に分配される構図は変わっていないし、河南省は輸血や売血でエイズ感染者が増えて患者が次々に発覚して大騒ぎになっている」と貧富の格差拡大による歪みが同省で集約されている現状を話す。

 河南省では一九九〇年代初め、貧農がエイズウイルス(HIV)に感染していると知らずに安い価格で売った血液が病院で高値で輸血に使われ、HIVに感染したことが今になって発覚するケースが相次いでおり、感染被害者らは当時の省政府責任者や衛生庁担当者を告発しようと動いている。九〇年に河南省党委副書記に就任し、九三年から九八年まで同省トップの党委書記だったのは李長春政治局常務委員で、九二年から〇三年まで河南省衛生庁長だったのは劉全喜氏(全国人民大会代表に就任後、引退)だ。

 河南省内の裁判所では膨大すぎるエイズ関連の提訴を受理せず、中国政府も八月に開催予定だった河南省や広州でのエイズ問題会議を中止に追い込んで問題が国際社会に暴露される動きを警戒。来年の北京五輪を控え、十月十五日開催予定の第十七回党大会を前に党最高幹部人事が内定するこの時期、中国政府としては河南省のエイズ告発問題が政治化することを憂慮している。

 香港誌「亜洲週刊」九月十六日号によると、謎の死者が出始めた一九九五年当時、河南省内でもエイズ感染が実際には深刻化していた周口市で売血、輸血によるエイズ感染の実態を調査していた王淑平医師(現在は米国へ事実上亡命)が衛生省に河南省のエイズ感染の詳細な報告書を提出したが当時の衛生省幹部によって九六年に感染者数などを実際よりも少なく見せかけて改ざんされ、警告内容は無視されたと告発証言している。

 また、中国でエイズ禍の告発を続けたことが評価され、米国婦人権益団体から人権賞を授与された鄭州市の著名医師、高耀潔さん(80)は河南省当局から厳しい監視を受けながらも「中国内のエイズ感染状況は決して楽観できない。この結果責任は地方政府(河南省政府)にある」と断罪。中国国務院エイズ対策作業委員会弁公室主任補佐の韓孟傑氏も九月七日、鄭州を視察後、「わが国のエイズ感染者数は依然として上昇段階にある」と会見し、感染防止策による楽観論は決して出せない状況が続く。

 中国国営新華社通信によると、中国でのHIV感染者数は今年四月現在、二十万三千五百二十七人(発病者は五万二千四百八十人)で死者は一万六千百五十五人に上る。世界保健機関(WHO)と中国衛生省の合同調査では、中国のHIV感染者は少なくとも六十五万人、有効な対策がない場合は二〇一〇年までに感染者一千万人に達するとの推計も出ている。