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2011年11月3日記


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「文化強国」を新国家戦略に 中国
ソフトパワーも国益最優先


 中国は「社会主義文化強国」を国家戦略として掲げ始めた。文化力という科学技術とは違うソフトパワーが国益に直結すると見なし、戦略的に中国文化を喧伝(けんでん)しようと方策を練り始めているが、矛盾も露呈。孔子の扱いも一党独裁の国益に沿う形で二転三転し、中国独自の“文化強国戦略”は統制と管理の中で文化大革命後の価値観の齟齬(そご)が表面化しながらも、右往左往しながら不自然な形で浸透し始めている。(深川耕治=2011年11月3日記)

翻弄される孔子、徹底利用
“文革後遺症”、孔子のイメージも賛否両論

中国人民大学のキャンパス内に置かれた孔子像=深川耕治撮影

 富国強兵による国家復興を目指してきた中国は、近年、国力には軍事力、経済力などのハードパワーだけでなくソフトパワー(中国語で「軟実力」と表現)が永続発展の鍵となるとして伝統文化再評価の動きが高まってきている。

 10月15〜18日、北京で開かれた中国共産党の第17期中央委員会第6回全体会議(6中全会)はそれを象徴するもので、「文化体制改革の深化」などに関する決定を採択。世界第2位の経済大国に成長した一方、立ち遅れた精神文明を復興させ、映画やアニメ、音楽、芸術分野の世界市場で劣勢に立たされるソフトパワーを強化することで「社会主義文化強国」を目指す国家戦略を前面に打ち出した。

 そこには、歴史の浅い米国に比べ、外国に深く浸透できる文化力を通して世界市場で巻き返せる余地が十分あるとの長期的な読みがある。党が定義するソフトパワーとは、欧米のキリスト教的価値観とは一線を画し、党を批判するインターネットなどのメディア管理・監視を強化し、思想引き締めを図った上での“文化強国戦略”だ。

 中国はここ数年、この国家戦略に従い、世界各国に中国語や中国文化を教える孔子学院を次々と開校し、少林寺の分院を設けてカンフーや中国仏教文化を各国の博物館などで展示強化したり、中国文化にマッチする独創的なアニメや映画制作を養成支援するなど、多種多様な新文化浸透策を展開している。

 北京や上海、広州、重慶など大都市に行くと、ここ3、4年で大手書店の書棚レイアウトが変わっている。今までなかった「国学」というコーナーができて大きなスペースを取っているからだ。

北京大学哲学系で行われている国学講義

 中国の「国学」とは、中国古典や伝統宗教を通じて中国伝統文化の神髄を体得することを目的とした新しい学問体系。中国中央テレビの人気番組「百家講壇」(古典の講義番組)で人気が沸騰し、大衆に幅広く浸透した。党中央も奨励し、北京大学や清華大学をはじめ、各地の有名大学では、欧米の経営学の限界を痛感したビジネスエリートたちが国学の中に中国流の経営学の神髄を見いだし、国学の講義が本格的に始まっている。

 国学が大衆に浸透し、ソフトパワーを重視する戦略に転じた中国だが、国学の対象となる個別の分野については、文化大革命以後の価値観の対立で収拾が付かない問題も山積している。

 今年1月11日、北京・天安門広場の東側に位置する中国国家博物館前に高さ9・5b、重さ17dの巨大な青銅製の孔子像が設置されたが、4月21日、突然撤去されたのは最たる例だ。

1月11日、北京・天安門広場の東側に位置する中国国家博物館前に設置された高さ9・5b、重さ17dの巨大な青銅製孔子像

 当時、孔子像の撤去・移転はインターネット上で大きな話題となり、孔子の評価をめぐって賛否両論が激突。

 ネット上では「中国文化の巨人である孔子が博物館の前に設置されるのは妥当」との賛成意見がある一方、「国家博物館の前に置く銅像は孔子がふさわしいとは限らない」「毛主席と孔子を同列に扱うな」との根強い反対意見も多かった。

 天安門広場は政治的に敏感な場所。天安門の楼上には、文化大革命の時、孔子を「封建的な反動思想家」と批判した新中国建国の父・毛沢東の肖像画が掲げられており、右派にとっては、孔子の思想は封建思想と断じて受け入れ難い。文化大革命が終わり、1980年代になると、経済成長に伴う拝金主義の蔓延(まんえん)で、失いかけている道徳心をよみがえらせるために孔子の思想、儒教が見直され始めた。

 だが、文革後、中国の伝統思想や伝統宗教が教科書にも客観的に紹介される中で、孔子や儒教は中国の歴史人物の一人にすぎず、一つの宗教にすぎないとの見方も広がり、孔子のみを高く評価することへの違和感や反発を感じるケースも増えている。これも文化大革命後の価値観の齟齬が国民の間で表れてきた現象の一つだ。

 人民網が1月に実施した「天安門広場近くに孔子像が設置されたことをどう思うか」というネット世論調査では、約7割が反対を表明。結局、世論の圧力が予想以上に強く、孔子像は国家博物館西側の中庭にある彫刻園に移されたのが真相だ。

北京市内の書店にある国学コーナー。哲学とは別に新たなコーナーとして幅を効かせている

 中国人民大学などに孔子像を贈呈した香港孔教学院の湯恩佳院長は同問題について香港紙「信報」(7月6日付)に全面意見広告を出し、「ネットゲームに明け暮れるネットユーザーが9割を超すような世論調査で孔子の崇高な考えを理解してくれる人は少ない。孔子の思想は中華民族の精神的基軸になると同時に両岸(中台)統一を促す効果がある」と述べ、中国国家博物館の呂章申館長による「移転は政治的理由はなく、工事に伴う臨時措置」との弁明に強い疑問を呈している。

 一方で孔子は、中国語を海外で学ぶ「孔子学院」として中国政府に露骨に利用され、昨年は中国の獄中の民主活動家、劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞したことに対抗し、北京の大学教授らが中国独自の「孔子平和賞」を創設。台湾の連戦・元副総統に贈られたが、授賞式に本人が出席せず、一人の少女が授賞式で賞を受け取ったことで海外メディアから失笑を買った。

 周(チョウ)潤發(ユンファ)が孔子役を演じ、生々しい孔子の生きざまに迫った映画「孔子」が昨年、中国で公開され、孔子へのイメージが徐々に変わりつつあるが、中国政府としてはソフトパワーの復興のために孔子を徹底利用していくスタンスは一貫して変わりそうにない。