台湾関連情報  2007年11月7日記   最新中国株情報 WINTRADE

中国は国民党総統誕生を待望 李登輝前総統が講演
民進党への影響力拡大も
米中の太平洋争奪戦に備えよ

日本は憲法改正で「普通の国」に


 11月3日、台北郊外の淡江大学で開かれた国際シンポジウム「グローバル化における日本と東アジア」(主催・同大国際研究学院日本研究所)で李登輝前総統が中国語で記念講演を行った。来年一月の立法委員(国会議員)選、三月の総統選を控え、与野党の攻防が激化する中、「第三勢力の再結集」を呼びかけ、中国の圧力に直面する次期総統には、安全保障の専門チームの起用が重要な鍵になることを強調している。(台北・深川耕治、写真も=07年11月7日記)


 李前総統はまず、米国がイラクなど中東問題処理に重心を置いてアジアに関与する割合が下がるとして「アジアでリーダーになる可能性のある国は日本と中国。このままでは中国がやや有利」と予測。東アジアで中国と日本に二極化する動きの中で日本が世界第二の経済大国として憲法改正に着手し、自衛隊の海外活動を継続実践して「普通の国」を目指すことを願うとの見方を示した。

 また、福田政権について「小泉元首相、安倍前首相が教育基本法制定や憲法改正に着手する動きを見せる中、福田首相の打ち出す政策はまだ不明確だが、日本が『普通の国家』に変わっていくためにこれらを完成していくと確信する」と日本政府への期待感をにじませた。

 韓国の政局については、「内政重視の時期に来ており、十二月の韓国大統領選で与党が下野する可能性が高い。盧武鉉大統領は与党崩壊の予兆の中で長期的戦略として南北関係の緊密化を図り、軍事改革で米国の影響力からの離脱を志向しているが、大統領選で最大野党・ハンナラ党が勝利すれば対米関係が強化され、過去五年間とは大きく変わる転機を迎えるだろう」と予想。

 台湾の政治状況については「独立、統一で意見がまとまらない混乱した状況。来年誕生する総統は台湾住民の全体の声を一つに整理する必要がある」と述べ、与野党が対立したまま混乱する状況を憂慮。「来年一月の立法委員(国会議員)選挙、来年三月の総統選を控え、今後五年間の台湾の命運に大きな影響を与える時期を迎えている」と話した。

 また、「中国共産党は来年三月の台湾総統選で国民党候補(馬英九・前国民党主席)が当選することを期待している。過去の経験と教訓から比較的容易に台湾施政に対して影響力を行使できると考えているだけでなく、国民党に圧力を加えると同時に、積極的に与党・民進党内部の分裂を促す錯乱を行い、中国自体へのリスクを下げて民進党への影響力を強化する狙いがある」と中国側の思惑に警鐘を鳴らす。

 来年誕生する新総統について「中国の厳しい挑戦圧力に直面することになり、だれが就任しても、国家安全保障の方面で実戦経験のある人材がいない。もし、民進党が連勝した場合、自身が総統時代に起用していた国家安全団体を起用すべきだ」として経験豊富な安全保障の専門チームが対中関係で重要な役割を果たすことを強調している。

 李前総統は二日にも、台湾独立派の有識者らと会合を行い、台湾の第三勢力の再結集には台湾団結連盟を中心に据えることにこだわらず、台湾本土派全体がまとまることを願う意向を示していた。

 来年の立法委員選、総統選に向け、台湾与党・民進党と李前総統が精神的指導を行っている台湾団結連盟(台連)の与党連合に不協和音が生じ、立法院(国会)で十二議席を擁する台連は民進党寄りの自党所属立法委員を相次いで四人除名。来年一月の立法委員選で定数が半減することで小政党に不利な状況から立法院で八十四議席を擁する民進党は台連の弱体化を見透かす対応に出ており、李前総統は台湾本土派の党外人士を取り込む第三勢力の結集をめざし、台湾名義での国連加盟活動を総統選と関連させる民進党とは選挙協力でも距離を置くスタンスを取っている。

 講演後、台湾の記者団が集まる中、「謝長廷氏(民進党総統候補)を支持するのか」との質問に「知らない」とだけ答え、車に乗り込んだ。

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 以下は中台問題について李登輝前総統が語った講演要旨(要約=深川耕治)。

安全保障の専門チーム不可欠
第三勢力の結集で本土政権守れ


 過渡期にある東アジア各国の中で最も鍵を握るのが中国。十月十五日に第十七回中国共産党大会が開かれたが、過去五年間、迅速な経済発展を遂げながらも金融問題は非常に深刻な事態となっていることへの認識が甘すぎる。一九九一年の日本のバブル経済崩壊、九七年から九八年にかけてのアジア通貨危機を見れば、危機発生直前までの認識の甘さが金融体系の“重病段階”に陥る原因となったことを忘れてはならない。

 中国に対する外国からの直接投資は〇六年度を見ると〇四年以降とほとんど変化がなく、むしろ、香港やタックス・ヘイヴン(租税回避地)である英米領バージン諸島などへの投資が増加し、欧米やアジア各国の実質的な対中投資は減速傾向。外資が減少すれば中国への影響は大きく、中国政府は沿海地域の資金を内陸へ移転させる力量がなくなり、沿海部と内陸部、都市と農村の格差問題は深刻化し、具体的解決策が失われてしまう。

 胡錦濤(党総書記)は党大会で事故の権力基盤をいっそう強化させ、今後、中国経済の支配権は党中央に集中し、〇八年の北京五輪以降、(経済崩壊を食い止める)政策を強力に推進することになるだろう。

 中国の対外戦略の核心は米国と台湾問題の処理だ。長期的に見ると、米中は太平洋海域での直接的な権益争奪戦を回避しつつ自己防衛のスタンスを取り、近未来では争奪戦は白熱化することはない。その原因は中国の対米関係での最大の関心が経済問題に集中しているからだ。米国では上下両院で野党・民主党が過半数を掌握し、米中貿易の不均衡はますます悪化して米国会内での対中経済攻撃は来年の米大統領選挙期間、ピークに達するだろう。

 〇七年の世界政治の重心は米国とイラクの二国関係が中心で米ロ、米中の競合関係も重要だった。胡錦濤(中国共産党総書記)は国際政治上、最重要なライバルとしてブッシュ大統領と対峙しながら注意深く内外問題を処理しなければならなくなる。今後、これらの趨(すう)勢は三つの戦略的意義を内包することになる。

 第一はブッシュ米大統領が中東問題処理を最優先して東アジアでの主導権を失ったことで、〇九年に誕生する新大統領は、東アジア各国や中国への激烈な関与政策で主導権回復を行い、東アジアは歴史上、米中争奪の太平洋時代に突入するだろう。

 第二は〇八年まで米中は太平洋争奪戦を激化させず、中国は東アジアの政治主導権獲得をより強く画策することになる。もし、ブッシュ米大統領がイスラム世界の対処に縛られ続ける状況が続けば、東アジアの政治状況は第二次世界大戦前の情勢に回帰し、限定的な権力争奪戦が日本と中国の主導権争いを主軸として展開される。日本が(今後一年の)短期間内で中国との対抗バランスを維持することができれば、日本は〇八年以降も東アジアの政治を主導する国家になることが可能だ。

 第三は、〇八年より以前に中国は東アジアの戦略情勢の主導権掌握を完了し、来年五月に就任する台湾新総統はさらに厳しい中国の挑戦圧力にさらされることになる。だれが総統に就任しようと、民進党も国民党も国家安全保障方面で本当に実戦経験豊かな人材がいない。もし、国民党候補が総統に当選すれば、〇八年から〇九年前半に(国家安全保障上)困難な状況に直面することは避けられない。

 民進党候補が当選すれば、自身が(李登輝政権時代の)一九九〇年代に台湾で教育した国家安全保障団体を新総統が用いることで中国の挑戦を防ぐことができる。これこそ、新総統が今後四年の任期で職務を全うできるかどうかの鍵を握るポイントだ。(07年11月3日、淡江大学淡水キャンパス驚声大楼国際会議庁で)

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 シンポジウムが行われた淡江大学淡水キャンパスは台湾台北県にある夕日が美しい風光明媚な淡水河沿いの町だ。昔から台湾八景の一つとして「東洋のベニス」と言われることもあり、李登輝前総統も淡水に居を置く。記者(深川)も五年ほど前、淡江大学の卒業式に来賓の形で出席したことがあるが、同大には日本語学科、応用日本語学科、日本研究所などがあり、知日派養成の重要な学府でもある。

 日本人には懐かしさを感じさせる瓦屋根の寺子屋風教室が十棟ほど残り、卒業式では、ここで練習した卒業生や在校生らが日本の「蛍の光」を日本語で三番までしっかり歌う。李前総統が講演した十一月三日は、淡江大学の開学五十七周年記念日で、キャンパス内は記念日を祝い、日本で言えば大学の学園祭のようなイベントを行っていた。

 学生らに聞けば、台湾の大学は日本以上に超学歴志向で学生らは米国留学こそエリートへの道との風潮が強まっている。日本留学で日本の伝統文化を学び、今後の日台関係で重要な役割を果たす台湾の逸材が輩出されるべき学問の府が欧米志向に流されず、日本の農業専門家らを招請してシンポで活発な意見交換をしている姿は日本人としては少しだけ安堵させられる一時だった。
(淡水=台湾・深川耕治)

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