台湾関連情報 2004年12月13日記

馬英九人気は本物か?
台湾立法院選を振り返って

国民党次期指導者は好感度一位
連戦氏、名誉ある引退濃厚に

野党連合勝利の影の立役者
与党には次期総統選へ手強いライバル


 「具体的にだれが指導者になるべきとは言えないが、わが党は世代交代の時期に来ている」。三月の総統選で中国国民党本部(写真=深川耕治撮影)の中堅党員らに個人的に本音を聞いた時、こう答えてくれたのを鮮明に覚えている。

 というのも、まったく同じ答えを今回の立法院選挙の直前、別の同党本部の中堅たちが答えたからだ。党員の大半が世代交代を願いながらも、実現できなかったのは、三月の総統選での開票問題や前日の陳水扁総統銃撃事件の真相解明が遅々として進まず、連戦党主席の面目が立たないからに他ならない。

 今回の選挙で野党連合が勝てば「名誉ある引退」と党内外からささやかれていた中、結果は国民党の一人勝ち状態。開票直後、党本部で勝利宣言した連戦主席(写真左=深川耕治撮影)は「党内規定に従って、個人的には世代交代を推進することを願う」と内外メディアに語り、党機関紙「中央日報」(十二日付)も同発言を見出し付で掲載。自ら党主席引退を示唆した。もっと興味深いのは国民党寄りの台湾紙「連合報」(十二日付)が一、二面で連戦主席の勝利宣言の写真を掲載せず、二面で馬英九台北市長(党副主席)にスポットをあて、後ろ向きの連戦氏と握手して世代交代を印象づける写真を大きく掲載したことだ。

 国民党は今回の選挙で、党内の上層部と党員の風通しを良くした。選挙に勝つために、選挙に強いと定評があった与党・民進党の手法に習い、緻密な「配票」(同じ選挙区の複数の同党候補がバランスよく票を獲得できる調整)作業を行い、連戦主席が党員に直接電話して配票を呼びかけるなど、イメージ戦略も改善。野党連合の候補者選びでも第二野党の親民党の不満をはねつけて「総量管制」(以前の各党の投票結果に照らして立候補の配分を各党別に事前調整)を断行し、徹底して議席増にこだわった。

 十日夜、台北市内で行われた最後の決起集会では、民進党の集会を想記させるような派手なイベントとなり、数年前までの古くさい国民党の選挙手法を脱却し、「選挙で勝ち組に残る政党」として選挙戦略を抜本的に見直したことが今選挙での勝因だ。まるで眠れる獅子を呼び覚ましたような選挙活動だった。

 しかも、新世代の党内リーダーとして党内外で人気の高い馬英九氏(写真右と左下=深川耕治撮影)を各候補者の応援に全面的に回らせ、これまた、与党側の選挙戦術をそっくり真似て票を伸ばした。台湾の各種世論調査では、台湾の政治指導者として好感度ナンバー1は馬英九氏で二番目は陳水扁総統。陳政権一期目前半までは陳総統がナンバー1だったが、すでに逆転して久しい。

 民進党関係者は「馬氏が〇八年の総統選で国民党候補になることを歓迎する。なぜなら、彼は国民党支持者の多い台北では抜群の人気だが、南部でまったく人気がないから、大敗する」とあざ笑う。だが、最近は南部の高雄や台南、台中でも馬英九人気は着実に高まっている。民進党支持の若い女性の間でも「国民党は嫌いだけど、馬英九は党利だけでなく、常識的な正論を主張するので、個人的には支持できる政治家」との受け止め方が広がっていることを直接取材した中でも実感した。

 民進党本部スタッフや台湾政治に詳しい専門家らは、「民進党の次期指導者は蘇貞昌(総統府秘書長)か謝長廷高雄市長の二人が有力。最有力は誠実な蘇貞昌」と見ている。謝高雄市長がポスト陳水扁になれない理由は過去の選挙の怨念が消えないからだという。今選挙で民進党が事実上の敗北をしたことで、陳総統は「結果に対して自分が責任を持つ」と総括し、来年早々にも民進党主席ポストを後継に譲り、選挙責任を取る見込み。〇八年の総統選で民進党の総統候補最有力となるのは次期党主席であることは間違いないため、現状では馬英九VS.蘇貞昌の新世代対決が実現しそうだ。

 だが、このままでは、台北市政で徐々に実績を上げ、若年層や婦人層を中心に党内外での好感度がアップする馬英九氏に対し、蘇氏の期待度は未知数で、不安定要素が多い。与党・民進党は、今回の選挙で、独立色を強く打ち出しすぎ、改革のスピードを加速させようと急ぎすぎた。現状維持を望む主流民意からブレーキがかかった形だが、それ以上に民進党の存亡をかけた指導者選びは強敵・馬英九人気で重い課題となりそうだ。(04年12月12日、台北で、深川耕治)