中国企画記事 特選


東北振興、中国貧困問題のカギに

老工業基地と食糧庫を改造

 世界貿易機関(WTO)加盟後、世界有数の海外直接投資の受け入れ国となった中国は、外資の大量吸収によって沿海部が急発展する一方、農村部の貧困や失業・レイオフ、国有企業の不振、エネルギー・水不足と環境汚染、財政赤字と社会保障未整備などの構造矛盾をきたしている。政府内では、東部と西部の格差是正にはこれらの難題を凝縮した東北地域(遼寧、吉林、黒竜江の三省)振興が重要との声が広がっており、同地域の振興が新たな脚光を浴びている。
(上海・深川耕治、写真も=2003年1月3日記)

東西結ぶ第四の成長軸にも

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上海中心部の人民広場前
 昨年の暮れも押し迫ったクリスマス前の上海中心部・南京路は、夜十一時にはネオンがほとんど消え、人影もまばら。「上海市政府の通達で平日は工場の操業時間を週一回カット。電力不足は今後二年間は続きそう」と日系企業関係者は電力需要が集中する上海周辺の盲点を話す。

 中国の金融・経済センターをめざす上海には欧米の資本のほか、台湾や香港の財閥が巨額の不動産投資を行い、市街地の再開発が急速に進む。外資系企業が上海近郊への進出を進める裏で、急速な経済成長スピードに追いつけず、電力不足が深刻化しているのだ。

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 若者の人気スポットとなった中洋折衷建築が魅力の「上海新天地」。壮大な再開発プロジェクトの一部である、一流店舗が並ぶこのエリアは、不動産価格が低迷する香港に見切りを付けて「北上投資」に集中する香港系の瑞安集団(羅康瑞主席)が建設した。周囲の不動産開発にはシンガポールのキャピタランドなど大手デベロッパーも参画し、海外華商企業の潤沢な直接投資(上位五百社の株式総額は四千五百五十九億ドル)(表1参照)はとどまるところを知らない。上海近郊に続々と進出した台湾系企業はそれ以上のペースで投資し、後戻りできないほどだ。

 利益率の高い中国の成長企業ベスト・ワンは不動産業で、右肩上がりの天井知らず(表2参照)。ほかにも小中学教育ビジネスや葬祭業、出版、自動車、眼鏡、携帯電話、医薬品、留学仲介業、ネットゲーム販売などが都市部で巨大ビジネスに変貌している。

 その一方で、都市と農村の経済格差が都市部への人口流入を加速させ、農村の失業問題を悪化させている。とくに「三農(農業生産、農民生活、農村経済)問題」は、農民を都市へ離農させない政策を長年とり、農産物の消費が伸びなくなったことで深刻化。このため、二〇〇二年十一月の第十六回党大会でようやく退任した江沢民総書記(当時)が、二〇二〇年までに貧しい農村をも「小康社会(衣食住に若干ゆとりのある社会)」の一員に加える生活水準を目指すことを打ち出した。

 最近は、上海や広東省広州、深センに行くと、欧米並みの高級マンションに住んで高級外車を乗り回す「新富人」と、貧しい農村出身の民工(出稼ぎ労働者)や過労死するほど汗を流して働き続けている打工妹(出稼ぎで働く十代の少女たち)の対比が、三農問題の深刻さを物語っている。

 三農問題の解決を積極的に推進するようになった中国政府は都市と農村、沿海部と西部の格差是正を目指すため、東部と西部の中継地域となる東北地域を徹底して注目。〇三年の春節(旧正月)には温家宝首相が遼寧省阜新鉱山の地下七百三十メートルの炭坑を視察し、五月末から六月初旬、八月初旬に連続して東北視察を行った。

 東北地域はかつてエネルギー、原材料、食糧を供給する国内の主要な宝庫だった。だが、集中する大型国有企業が老朽化し、一九八〇年代に経営難が深刻化。九〇年代ではレイオフ(一時帰休)の労働者が急増し、国有企業改革は困難を極めた。かつて「食糧市場の圧力緩和器」と称された東北地域の農業も、中国の世界貿易機関(WTO)加盟後に海外の安価な農産物との激しい競争にさらされ、農産物の在庫が大量に積み上がった。各地で販売された大口の農産物が売られることは希となり、石炭・石油などの埋蔵量も残りわずかになってしまった。重化学工業基地の優位性がなくなったこの苦境を、中国では「新東北現象」と呼んでいる。

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 レイオフ者の賃金未払いデモが頻発する東北地域では貧民層の不満が募っており、胡錦濤政権は「困難に直面する大衆に心を寄せ、レイオフされた労働者や農村の貧困層に深く分け入って困難を解決する援助をせよ」と呼びかける親民路線を打ち出し、政権維持の新たな求心力を得始めている。

 三農問題や失業者問題解決のカギを握るのは、その縮図である東北地域の再興だととらえた温首相は、昨年三月の首相就任直後から東北振興のスローガンとして「西部提速、東北攻堅、東部保持(西部地域は発展を速め、東北地域は堅城を攻め、東部地域は発展継続)」、「東西互道、拉動中部(東部と西部が互いに補完し合って中部地域の発展をけん引する)」などを強調。東部(沿海部)と西部開発エリアの共同歩調を取った地域先行戦略の一つとして、東北地域の振興を打ち出した。

 同スローガンの背景には、重厚長大な大型国有企業に依存した計画経済の花形だった東北地域が、市場経済に見合った非国有企業の育成を果たさない限り、西部につながる農村地域の繁栄・振興はあり得ないとの中国指導者の現状認識がある。新東北現象の克服には、既存工業施設のスクラップ・アンド・ビルドが不可欠で、これを完了すれば華南の珠江デルタ経済圏、華東の長江デルタ経済圏、環渤海経済圏に続く第四の経済成長軸になるとの期待も出てきている。