深川耕治=2008年10月22日記

中国メディア批評 独自コラム



 連載 変わりゆく香港「一国二制度」10年の実験
 激戦・台湾総統選2004
 ルポ コピー天国・中国



2010年万博に向けてモラル啓発番組を連日放送する上海TV

◆五輪まで表向き改善

 北京五輪を成功裏に終えたはずの中国では有害物質メラミンによるミルク汚染事件が発覚し、同国の食の安全管理が改めて国際的に問題となっている。問題の根源は、改革開放三十周年を節目とした拝金主義の横行にあり、食の安全に深くかかわる中国人の価値観、モラル低下にある。

 「田舎の都会(地方の出稼ぎ労働者が集まった都会)」である政治行政の中心、北京では北京五輪一年前ぐらいからバスや地下鉄での列の並び方、痰(たん)吐きやたばこのポイ捨ての禁止など文明意識を改善するモラル運動が政府主導で半強制的に展開され、五輪までは表向き、着実に改善された。国際的なマナー評価を気にする国策だ。

 昨夏、段ボール肉まん事件の発火点となった地元の北京テレビ(BTV)は、隠しカメラを回しながらスタッフの一人がマナー違反をしている市民に改善を求め、素直に従う人、その場で激怒していなくなる人、そんな行為はしていないと白々しくうそをつく人などの反応を映像として記録。それを夜の特集啓発番組で連日放送し、モラル啓発を促していた。

 北京五輪を終えた中国政府にとっての頭痛の種は、二〇一〇年に開かれる上海万博での上海人のモラルだ。上海は政治の中枢である首都・北京と違い、中国の金融センターであり、大都市。モラルも欧米の悪い意味での個人主義が横行し、伝統的な悪習がマナー悪化を広げている。

 地元テレビ局・上海テレビ(STV)は、上海万博開幕まで六百日となる九月十九日から「万博を迎える文明(意識)大討論」とのテーマでマナー改善のための啓発番組を連日放送。モラル失墜が浮き彫りになり、視聴者の反響も大きい。放送内容を紹介すると、こうだ。

◆買い物客の悪態紹介

 上海の大手スーパーの女性下着売り場コーナー。女性客らが下着を袋から取り出し、中身をチェックしている。店員が「袋は開けないで下さい」と注意すると、「サイズが分からない」と客。「衛生問題もあるのでサイズは店員に聞いて下さい」と店員が諭すが、商品を袋に入れないまま放置し、真新しい商品だけ買い込んだ。

 生鮮食料品コーナーでは、凍った鶏肉を叩いて凍った部分を取り除いたり、包装した野菜をバラバラにして買い物かごに入れたまま放置する実態を紹介。店員は「悪質なマナーのため、毎日、売り上げ損失は一割」と嘆く(十月三日放送)。

 地下鉄一号線の上海駅のケース。整列乗車を守らず、老人や乳幼児を抱える女性らを押しのけ、我先に座席を取ろうとする乗客の実態を紹介。同駅の駅長は「ドアが開いた時、押し合いになって老人や幼児が不用意に倒れ込んだりする可能性がある。警備室では一日少なくとも一件、座席の奪い合いのもめ事を処理している」と話す(十月八日放送)。

 平日午前七時過ぎ、上海の住宅地。首輪を付けず、リード(ひも)も付けていない犬を散歩させる飼い主たちは、犬が公園や道路脇で糞尿をしても砂を掛けるだけだったり、見て見ぬふり。老人は「朝、運動していると、犬が突然、みついてくるのではないかと恐怖心を覚えることが頻繁」と話し、乳幼児を抱える女性は「子供が走り出したりすると、犬が噛みつくかもしれないので恐ろしくて仕方がない」とコメント。公園の清掃員は「ペットの飼い主は糞尿の後始末すらしない。犬の散歩時、首輪とリードを付けるマナーは最低守るべきだ」と指摘する(十月九日放送)。

 最後に、上海の繁華街・南京路の路上にある点字ブロック。自転車や乗用車が違法駐車したままだったり、店舗改装用の鉄パイプや資材を放置し、露店まで開くあきれたケースも発生。団地のバリアフリーのスロープに自転車やバイクが放置され、身障者が車いすで通れない実態も紹介し、住民が「管理する人がいないのは問題。自分のことしか考えていない連中が多い」と悲観する(十月十三日放送)。

◆拝金主義に蝕まれる

 北京五輪を契機に付け焼き刃的にモラル改善を啓発しても、結局、上海や他の地方での実態は変わっていない。わずか十七日間だった北京五輪に比べ、上海万博は百八十四日間という長丁場。二百二十一の国家・地域が出展し、延べ七千万人の入場者が見込まれるだけに上海のモラル改善問題は国際的な評価を気にする中国政府にとって待ったなしの課題となる。

 メディアのモラル啓発報道だけでは、改革開放以降、「向銭看(拝金主義)」にむしばまれる中国人の倫理観や中国製品への信用度は一朝一夕に上がりそうにない。(深川耕治=08年10月22日記)



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