2009年2月22日 深川耕治記

中国メディア批評 独自コラム



 三通の実験場・アモイ 中台貿易の最前線ルポ
 連載 変わりゆく香港「一国二制度」10年の実験
 激戦・台湾総統選2004
 ルポ コピー天国・中国



建国60周年へ愛国ムード演出する中国
CCTV火災で噴き出す体制批判危惧

農民苦境と民主化、暴動の火種に

メディア封殺でもネット統制困難

■建国60周年記念日に向かったソフト愛国路線

北京市内の中国中央テレビ(CCTV)新社屋に隣接する付属高層ビルで火災が発生した現場。中国メディアは10億元(130億円)以上の大損害との見方も。香港系のマンダリンオリエンタルホテルが今夏オープンする予定だった
 3月5日の全国人民代表大会(全人代=国会)開幕を控え、中国は暴動抑え込みへ言論統制を強化している。旱魃(かんばつ)と農民工(出稼ぎ農民)の大量解雇は中国農村部に深刻な社会不安を広げ、都市部も金融危機による不況で失業者があふれ返っている。民衆の不満は様々な形で急激に増幅しているからだ。

 10月1日の建国60周年を盛大に祝って党の求心力維持を図りたい胡錦涛政権にとって3月から薄氷を踏むような「政治の季節」を迎える。乗り越えるべきハードルは全人代を皮切りにダライ・ラマ14世のインド亡命50周年(3月10日)、法輪功の中南海陳情事件10周年(4月25日)、学生中心の反日愛国運動である五四運動90周年(5月4日)、大学生らによる民主化運動を軍事弾圧した天安門事件20周年(6月4日)が次々と待ち構える。

 春節(旧正月=今年は1月26日)から全人代の開幕前までの期間、胡国家主席、温家宝首相、習近平国家副主席がそれぞれアフリカ、欧州、中南米へ訪問して外交実績を積み、尖閣諸島や南沙諸島をめぐる領海問題でも強弁を繰り返しながらネット上での政府批判をかわしつつ「建国記念60周年」を全面に出したソフトな愛国主義路線が国内メディア向け戦略として鮮明になっている。

■習近平国家副主席の愛国講話報じない国内メディア

 中国首脳が春節後の積極的な「正月外交」で訪問した国は計20カ国。大国間外交の陰で手薄になりやすい途上国、とくに中国にとって資源国にあえて重点を置いた。「途上国の大国」を自任する中国としては国際経済の舞台で存在感が増す新興・途上国が増える中で途上国を束ねる「途上国連合」のリーダーとして発言力を増すための布石を打つことが中国外交戦略の狙いだ。

 中南米を歴訪した習近平国家副主席は2月11日、最初の訪問先であるメキシコで華人代表と会見した際、諸外国の中国人権弾圧批判について「腹が満たされた一部の何もしない外国人がわれわれ(中国)の事情を勝手放題にあげつらって話しているが、中国は革命、飢餓・貧困を輸出せず、彼らを痛めつけることはしない。これ以上、どんな良い話があるか」と厳しい口調で講話した。さらに習氏は「自国民13億人の食糧問題を自力で解決したのは人類に対する貢献」と自賛。このような激しい言葉で各国の対中批判に本音で中国の指導者が反論するのは極めて異例だ。しかもポスト胡錦濤の最有力である穏健な性格の習氏が発言した内容だから注目を集めている。

 習国家副主席の怒りの矛先は、2月10日、ジュネーブの国連人権委員会で発展途上国の中で唯一、メキシコが「中国の人権状況に問題がある」との立場を欧米やオーストラリア(ラッド首相は中国語が堪能で中国通)と共に示したことへの不快感だ。香港メディアはその憤りの真意を習国家副主席の講話全文と共に伝えたが、中国国営メディアは訪問国への露骨な批判に当たると判断し、内憂外患が愛国暴動に発展しかねないと憂慮して一切報道していない。それほど政治的に神経質にならざるを得ないほど、中国の社会不安は急速に悪化している。香港メディアの報道が広東省メディアを通してごく一部、中国本土でも紹介され、党内左派は習氏の講話を絶賛したが、この件に関しては一般ネットユーザーは発言の権限すら許されない状態だ。

 建国60周年の愛国キャンペーンの一環として国内テレビメディア向けに愛国主義路線を打ち出したのは2月中旬になってからだ。極端な愛国路線を煽れば、愛国デモを引き起こし、農民を巻き込んだ暴動になりかねない。党中央としては、いかにソフトタッチの愛国ムードだけを国内メディアを通して民衆に浸透させるかに腐心し、社会安定へつなげるか、綱渡り状態が続く。

 具体的には、放送メディア部門を統括監督している国家ラジオ映画テレビ総局(国家広電総局)が2月中旬、各地の地方テレビ局に対し、5月から11月までのゴールデンタイム(午後8時〜午後10時)に建国記念用の指定されたテレビドラマを放送するよう突然、口頭で通達。あくまで非公式通達としながらも建国記念に合わせて放送すべきテレビドラマとして50作品(戦争ドラマ「東方紅」、農村ドラマ「永遠の田野」、地域ドラマ「走西口」、改革開放記念ドラマ「私の三十年」など多数=左表参照)を具体的に列挙指定している。

 これは地方局にとっては非公式であっても、いわば国家広電総局からの半強制的命令と同然。夏から秋にかけて放送する予定だった撮影制作の終わっている数多くの人気ドラマ新作品が2010年まで放送延期される憂き目に遭っている(陝西省紙「華商報」2月20日付)との内情も報じられているほどだ。地方局を統率する中国中央テレビ(CCTV)は、多チャンネル化が進んでいる地方局にとって新番組の「回流」(放送延期)が嫌ならば他の番組と差し替えれば解決するとのごり押しの解釈で説得しているという。

■ネット規制強化でも民主化運動は拡大の一途

 放送メディアでソフトな愛国ムードを高揚させる一方、暴動勃発の火種になりかねないインターネット情報は規制が厳しさを増す。党中央宣伝部は一月以降、インターネット上の低俗情報を排除する一大キャンペーンを展開。表向きはポルノ追放を打ち出しながら、実際は民主化を求めるブログやサイト、論文を大量に削除し、すでに1000以上のサイトが閉鎖された。

北京市内の中国中央テレビ(CCTV)新社屋に隣接する付属高層ビルで火災が発生した現場
 ネットでうごめく民主化運動と不況、天災による社会不安が体制批判に発展することを最も危惧(ぐ)する中国政府は、春節(旧正月)期間、首都・北京だけでも延べ40万人の警官や武装警官が警備。今夏から建国記念日にかけて北京五輪と同規模の最大100万人態勢で警戒にあたり、人海戦術で暴動を阻止する計画だ。

 一方、民主化要求の動きは、取り締まり強化とは裏腹にますます拡大している。昨年12月、学者らが一党独裁廃止や直接選挙実施を求める「08憲章」を発表。起草の中心となった作家の劉暁波氏が身柄拘束されたほか、署名者が尾行や電話盗聴されるケースも続発。「08憲章」は北京五輪前に公表される計画だったが、四川大地震の影響で発表が金融危機と同時期になり、署名者数は7000人を超えて反響が予想以上に大きい。

 今年1月12日、突発事件や集団抗議事件にほとんど触れない中国中央テレビ(CCTV)に対して若手学者や弁護士ら22人による視聴ボイコットを呼びかける「中国中央テレビ洗脳拒絶宣言」がネット上で発表され、北京の会社員、汪兆釣氏が論文「全国人民に告げる書」を発表して言論の自由を求める提訴手続きを行う動きも見せた。

■CCTV火災で増幅する視聴ボイコット運動

 さらに追い打ちをかけるように2月9日、CCTVの新社屋に隣接する付属高層ビルでCCTV側が花火業者を雇って100万元(1300万円)分の大型花火を警察の制止を振り切って違法に打ち上げたことが原因で火災を起こし、同社主任や花火業者ら関係者17人を拘束。火災発生後、ネット上では市民らが写真やユーチューブ動画で火災状況を刻々と紹介したが、北京市のネット宣伝管理部門は緊急通知を出し、新華社以外の情報を用いたネットユーザーの論評を禁止する緊急通達を発表した。結果、中国本土での火災報道は徹底規制され、逆にCCTVの過去の誤報や番組問題点を指摘する中国語の「アンチCCTVネット」が立ち上がり、公然と批判を始めるばかりか、全焼した無惨なビルの火事現場は今では新たな観光スポットと化して携帯デジカメで記念撮影する人の姿が絶えない珍現象が起きている。

北京で行われた国際ラジオテレビ映画設備展示会で出展したCCTVの会場は一番広いスペースにヘリまで登場。CCTV社屋付属施設での火災では北京市の場合、軍事的理由でヘリの消火はできない=深川耕治撮影
 同火災で消防隊員1人が死亡、7人が負傷。火災による被害総額は10億元(130億円)以上とも見られ、CCTV側はウェブサイト上で謝罪コメントを出したが、ネット上では「民衆の血税で造った国家財産を無駄使いした」「言論は政府権力も批判対象にすべきだ」と公然と批判する書き込みが殺到。「CCTVの特権意識こそ火事の原因。自業自得だ」(中国紙「西安晩報」)、「禁止花火を違法に打ち上げ、計り知れない損害をもたらした」(「北京日報」)と手厳しい論評が続く。ブログ上でも「全国人民に謝罪せよ」との論文も登場しており、国営テレビ局の致命的な不手際に不満が噴き出し、政府もこれらの批判に対してまで取り締まり強化することは困難になってきている。

 CCTVのニュース報道は、必ず党指導部の活動動向を党内序列順に紹介することから始める。中国ウオッチャーにとってはこれが中国式社会主義の権力構造を見る上で、指導部内の序列を再確認するために重要で欠かせない。しかし、一般視聴者は「党中央の大本営発表であって庶民の本当の窮状はなかなか伝えないので見る気がしない。党の宣伝ばかりで地方のテレビ局や有線放送の方がずっと面白いし、人気がある」(北京市民)とのCCTV嫌いは根深い不信感として定着している。香港返還10周年の記念式典でも香港のテレビ局とは別格扱いで我が物顔の取材報道を行っていたことから見ても、日本のNHKと民放の格差をはるかに上回る絶大な権限がCCTVにあることは現場取材でもはっきり実感することだ。

 逆に約7400万人の党員から腐敗分子をあぶり出すため、当局がネット告発を利用する動きも見せている。広東省肇慶市政府の幹部らが2007年、公費で14日間のアフリカ視察旅行に行った際、視察名目の観光豪遊旅行だったことを暴露した動画が2月17日にネット上で紹介され、同省紀律検査委員会は事情調査を開始。公費を私的に流用したか事情聴取を始めた。

北京五輪開催期間は建設ラッシュで沸いたCCTVの新社屋周辺。左手のビルが全焼、建設中の新本社ビル(中央)は「ステテコ」ビルとの異名を持つ=深川耕治撮影
 江西省や浙江省でも同様の公費流用がネット告発で明らかになっており、温家宝首相ら党指導部もネット上の告発に目を光らせ、実際に現地調査を指示したケースも多い。ネットでの告発者が汚職を隠蔽したい地元政府から逆拘束されたり、拷問を受けた上、自殺するケース(安徽省阜陽市の事件)もある。告発者の身の安全が保証されないリスクはつきまとっている。

 腐敗党員のあぶり出しに約3億人のネット国内ユーザーの告発は欠かせず、ネット上からの告発から当局が捜査に乗り出すケースが増えている。政府のネット統制制御法が一歩間違えば、体制批判と腐敗摘発が表裏一体となり、暴動のきっかけになる諸刃の剣となりかねない。ネットの完全封殺、党のコントロール下にあるネット社会を創り上げるのは不可能である。

 CCTVが新たにインターネットテレビ局開設準備を進めているのも、生活苦が増す農民や地方失業者の急増、民主化運動と社会不安、それにネット上の告発が結びついて体制批判に発展する動きを牽(けん)制する狙いがある。中国は「政治の季節」を迎え、不況や旱魃(ばつ)が直撃して不満が渦巻く農民や失業者があふれる都市部は、何かをきっかけにマグマのように積もり積もった怒りが暴動の形で現れるか、予断を許さない。ネット上での民主化要求や不正告発、体制批判と隣り合わせの政権の舵取りは「一寸先は闇」の状態に変わりはない。(深川耕治=09年2月22日記)

 



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