中国企画記事 2007年5月17日記

新トロイカ体制へ人事着々 中国指導部
今秋の党大会へ水面下で交渉激化
団派、上海閥、太子党の配分微妙
衰退する上海閥、巻き返しどこまで


 中国では今秋の第十七回党大会での新指導部人事に向け、ポスト胡錦涛をめぐる熾烈な権力闘争が続いている。勢いづく胡錦涛総書記を中心とする団派(共産主義青年団の出身者)や太子党(高級幹部の子弟)、凋落著しい江沢民前総書記を頂点とする上海閥の巻き返しが新人事の焦点となっており、三派の攻防は江沢民時代に代わる新トロイカ(三頭立て馬車)体制との見方も出ている。(深川耕治)


 五年に一度開かれる今秋の党大会では党最高指導部である政治局常務委員会や政治局委員会、中央委員会の委員などが決まり、〇二年に党総書記に就任した胡錦涛氏が新体制を敷いて残り五年の胡錦涛・温家宝体制の進む方向性が決定する。

 胡総書記としては出身母体である中国共産主義青年団(共青団)の出身者を積極登用し、権力基盤を固め、旧政権の息がかかる上海閥を穏便に排除しながら全権掌握し、独自カラーを打ち出したいところだ。

 胡総書記が権力基盤強化に動き出した大きな一歩は昨年九月、上海市トップの陳良宇・市党委書記が社会保険基金の流用汚職で解任され、代わって太子党である習近平浙江省党委書記が落下傘降下のように後任の市党委書記に就任したことだ。

 陳氏は温家宝首相が進める上海など沿海部大都市の急速な不動産高騰に歯止めをかける景気抑制策に真っ向から異を唱え、都市開発最優先政策を自らの利権として推し進め、上海閥のホープとして政治局委員入りが有望視されていた。

 香港メディアの情報では、同じ上海閥で江氏側近だった曽慶紅国家副主席が胡氏への忠誠を誓って協調関係を築くため、陳氏のスキャンダルを提供して陳氏追い落としのきっかけを作ったとされる。副首相などを歴任した故習仲勲氏の長男である習近平氏は江沢民氏との関係も良好で、曽慶紅氏や同じ太子党の薄煕来商務相と親しく、太子党でもある曽慶紅氏の介在とお膳立てなくして習氏の上海トップ着任はなかったとの見方が根強い。

 香港誌「動向」(四月号)によると、第十七回党大会の準備指導組(組長=呉邦国全人代委員長、温家宝首相、曽慶紅国家副主席)は四月に入り、政治局常務委員の年齢制限を六十六歳以下から六十八歳以下に、政治局委員の年齢制限を六十三歳以下から六十五歳以下に高齢化させることを内定させ、現状維持のスタンスを対外的ににじませる動きを取った。しかも、政治局常務委員の定数を現状の九人から十一人に増やし、集団指導体制を拡大させることで上海閥の批判や突き上げを緩衝させる配慮ぶりだ。

 新たな政治局常務委員の候補リストは十五人、政治局委員のリストは三十人が挙がっている。政治局委員も現行の二十四人から二十六人に増やし、政治局候補委員も二人入れる予定という。

 上海閥である黄菊副首相は健康上の理由から国務院常務副総理ポストを呉儀副首相に譲り、第十七回党大会の政治工作報告の起草を温家宝首相主導で行うことも決まり、これらはすべて団派と上海閥の間での政治交渉の結果としている。香港誌「開放」(五月号)によると、最近では北京市幹部人事(北京市党委副書記だった龍新民新聞出版総署署長の中央党史研究室副主任への転出)について江沢民前総書記の事前了解があったとしており、胡総書記が江氏に北京五輪に関わる地方人事問題まで配慮する中で団派と上海閥の権力バランスを取っている。

 党最高指導部である政治局常務委員会メンバー九人のうち、上海閥は曽慶紅氏、賈慶林政治協商会議主席、黄菊副首相、呉邦国全国人民代表大会(全人代)常務委員長、李長春氏の五人。賈慶林氏と黄菊氏の二人は年齢制限や汚職事件との関わりから秋の党大会で引退が確実視されている。曽氏や呉氏は胡総書記との協調関係を強めており、新人事で団派が重用されれば、胡錦涛政権は徐々に上海閥の巻き返しを抑えて権力基盤をさらに盤石にしていくことになる。

 残り四人の政治局常務委メンバーは胡錦涛氏、温家宝首相、呉官正中央紀律検査委員会書記、羅幹中央政法委員会書記で、いずれも秋の党大会で残留組となりそうだ。胡氏は政治局常務委をほぼ完全掌握することとなり、後継育成へ本格的な段階に入る。

 ポスト胡錦涛の若手有力候補として秋の党大会で約半数が入れ替わる政治局委員(二十四人、うち常務委員九人)に入ることが予想されているのが団派で胡氏と同郷(安徽省)の李克強遼寧省党委書記、太子党で団派直系の李源潮江蘇省党委書記、太子党の兪正声湖北省党委書記の三人だ。他にも政治局入りが有力視されているのは王岐山北京市長、劉延東党中央統一戦線工作部長、薄煕来商務相、習近平上海市党委書記などいずれも太子党。

 江沢民前政権時代は江氏を中心に改革派の朱鎔基首相(当時)と保守派の李鵬全人代委員長(当時)のトロイカ体制だったが、胡錦涛政権の終盤五年は団派と上海閥の暗闘の中で太子党が緩衝材となり、新トロイカ体制になるとの見方も香港では出てきている。



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