帰国後、定職に就かぬ海滞派 中国人留学生
有能な海亀派の影で急増中
「頭脳流出」阻止に暗雲も


 海外留学した若者の三割程度しか帰国しない「頭脳流出」危機を募らせる中国政府は、「海亀派(海帰派)」と呼ばれる有能な帰国者に免税措置や研究費支援、「留学生創業パーク」での優遇措置などを取って帰国熱を高めている。だが、帰国しても定職に就かない中途半端な「海滞派」と呼ばれる帰国者がじわじわと増え始め、一般大卒者と別格の高所得をイメージさせる海外帰国組には「負け組」も含まれていることが浮き彫りになっている。(上海で、深川耕治、写真も=2004年1月10日記)


上海市役所前でスケートボード遊びをする上海の若者たち

 「彼の米国留学は肩書きだけ。卒業しただけで米国社会になじめず、帰国しても両親と同居して昼間はアルバイト、夜はネットサーフィンを繰り返して親のすねかじりばかり」。上海中心部の人民広場で、男友達を指さし、女子大生の陳景雲さん(21)は苦笑した。

 上海では有能な海外留学経験者が企業を立ち上げて頭角を現して脚光を浴びる一方、海外留学後に帰国して定職につかない「海滞派」とネット上で揶揄(やゆ)される若者が増えている。

 中国人事省の発表では、一九七八年の改革開放以降、出国した留学生は約四十五万人。そのうち帰国して就業している人材は全体の三分の一にあたる約十五万人となっている。帰国した留学経験者は、ここ十年間、年一三%ずつ増加。とりわけ、ここ数年の帰国が増え、二〇〇二年だけでも約一万八千人が帰国している。一昔前までは教育や科学研究分野で活躍する留学経験者が多かったが、最近ではハイテク産業、証券・金融、法律服務、多国籍企業などの分野で働く割合が増えている。

 「海亀派」と呼ばれる彼らは、海外で学んだ専門知識や先端技術を生かして、ベンチャーを創業したり、好条件で一流企業に就職したり、政府部門で若手幹部として活躍している華やかな側面だけ紹介されることが多い。

だが、一方では、祖国での居心地が悪く、移民したり、留学先など海外に住居を移すケースもあり、「海亀派」の成功した企業経営者
(表参照)には愛国心だけでは割り切れない揺れる思いがあるのも確かだ。
 先出の陳さんなどは海亀派のイメージを「留学して帰国しても役に立たないアウトサイダーの変わり者」としか思い浮かばない。上海では三十歳の平均月収が三千元(三万九千円)前後。中国紙「上海人材週刊」によると、「中国のシリコンバレー」と呼ばれる北京市の中関村ハイテクパークでは月給二千五百元(三万二千五百円)のパソコンソフト会社の求人でも海亀派の人々が就職を争っており、年収何十万元を稼ぐ華々しい海亀派のイメージは失われつつある。

 国家公務員採用試験でも、海亀派は特別視されることはない。先月十九日、上海市では同市が採用する公務員試験を行ったが、受験者約二万人のうち海外留学経験者は百七十八人。上海市人事局は「海帰派も一般受験者も条件はまったく同じ。採用は実力次第だ」として留学経験者をとくに重用するような判断はしていない。むしろ、上海の企業では、香港の有能な金融・貿易関係の専門技術者を求めるなど、留学経験よりも同じ中華圏の実務経験豊富な人材を求人するケースが増えている。

 中国内でのこのような潮流は、海亀派が有能な人材として重宝される「光」の部分だけでなく、留学経験のない人々と同列に扱われる「影」の部分も多くなり、分化していることを物語っている。

 中国人留学生は一九八九年六月の天安門事件以後、帰国して国内で就職する人材が一時的に激減したが、有能な人材の頭脳流出に危機感を募らせた中国政府は留学生の帰国、国内就業を国力の源泉と最重視し、海外留学経験者のさまざまなソフト、ハード両面での受け入れ態勢を充実させてきた。胡錦濤総書記も総書記就任後、同問題の人材受入システム構築強化を訴え、欧米への頭脳流出を食い止める多角的な政策を打ち出す構えだ。

 海外に留学後、帰国して国内で就業する「海亀派」は国際的な人脈を駆使して国内創業後、急速な成長を果たすケースが多いと見られてきたが、「ジャガイモ派」と呼ばれる留学経験のない有能な起業家も徐々に増えつつあり、有能な人材を国内に確保・定着させる国策は海外留学組だけに重点を置くべきではないとの意見もある。

 「内外のメディアでは留学経験のある帰国組を花形扱いしていますが、帰国者の中には定職につかず、祖国にもなじめない若者が増えています。人材の宝庫となっている上海でもかなり増えていますが、彼らは目立たないので帰国組の中での割合が増えていることに気づきにくい」と話すのは日本留学の経験がある上海在住の都市開発リサーチ業の男性。

 海亀派が徐々にその質を落とし、頭脳流出を食い止める中国政府の狙いとは裏腹に海滞派と呼ばれる即戦力にならない人材を国内に流入させる悪循環をもたらし始めていることを懸念する声は徐々に高まりつつある。中国政府が政策として改善を迫られる必要も出てきており、「ジャガイモ派」の養成・確保に重点を置いてシフトすべきではないかとの声が上がるのは、その危機感の裏返しだ。

<用語解説>
海亀派(ハイグイパイ) 海外に留学して専門の研究や仕事を経験後、中国に帰国した人々のこと。元来、海外留学経験のある帰国者は「海帰派(ハイグイパイ)」と呼ばれていたが、故郷に戻る海亀になぞらえ、発音がまったく同じになる「海亀派」の漢字が最近用いられるようになった。

表・海帰派の中国人富豪上位者リスト
名前   留学先     海外での経歴状況
許栄茂  オーストリア  住居移転
葉立培  オーストリア  住居移転
周建和  ペルー     移民
李兆会  オーストリア  学習
張朝陽  米国      学習
周沢栄  オーストリア  移民
呉鷹   米国      学習
胡成中  米国      学習
※米誌「フォーブス」に掲載された2003年度富豪ランクより