香港:閣僚を辞任に追い込んだ日刊大衆紙「蘋果日報」
    徹底した「反中国」で市民を啓蒙

◆50万人の反政府デモ

 一日午後、香港で五十万人以上が参加した反政府デモ、それに驚愕(きょうがく)した香港二
閣僚の引責辞任は、いわば、健全な香港メディアの勝利といっても過言ではない。

 中国政府は一日のデモ後、北京から香港に専門調査団を送り込み、九日夜の立法会議事
堂前の国家公安条例廃案を求める五万人抗議集会や十三日の普通選挙完全実現を求める
二万人抗議集会などを調査し、「デモ参加者の目的や動機がバラバラで中央政府を転覆させ
る力など持ってはいない」と結論付けた。一日のデモを取材した者から見れば、中立系メディア
や反中国系メディアの影響力を無視した暴論としか映らない。

 一日午後、摂氏三二度を超える蒸し暑い炎天下、身動きもできず、二時間以上、「牛歩」の
ような移動が続き、高齢者四十人以上が倒れて救急車で運ばれながらも、ミネラルウオーター
を飲みながらデモを整然と続ける参加者たち。

 交通整理する警察官と小競り合いを起こすこともなく、平和裏に約六時間に及ぶデモ行進を
続けた者たちの手には香港週刊誌「壱週刊」の特別版巨大ポスター(董建華行政長官の顔に
パイをぶつけた創作写真)、日刊大衆紙「蘋果(りんご)日報」一日付の抗議デモ用ポスターを
握り締める姿が多かった。

 いずれもアパレル量販会社、ジョルダーノの創業者で元筆頭株主の黎智英(ジミー・ライ)氏
によって創刊された「反中国」系メディアだ。ゴシップ誌「壱週刊」は李鵬元中国首相を批判す
る記事を掲載したことで中央政府の怒りを買い、順調に売り上げを伸ばしていたジョルダーノ
の中国本土各店は相次いで閉店に追い込まれ、ライ氏はジョルダーノを手放した。ライ氏率い
る「壱伝媒集団(ネクストメディア・グループ)」は今後、本土で香港メディアの出版が解禁されて
も「進出は不可能」といわれ、台湾進出で「反中国」の立場を鮮明にした。

 一日のデモ当日、十五歳以上のデモ参加者に対して香港大学と香港中文大学が合同世論
調査を行った結果、新聞の社説、特報欄、テレビやラジオの電話アンケート番組などメディア
の国家公安条例案に対する見方などがデモに参加する上で大きな影響を及ぼした、と答えた
人が全体の60%を占めた。


◆返還記念イベントも

 特に新聞メディアではデモ参加を決定づけた新聞として蘋果日報が50%、東方日報が2
2%、明報が16%の順となっている。デモ参加を決定づけた人間関係としては、友人や同級
生、職場関係などで大きく左右したと答えた人は全体の68%で、そのうち「友人と一緒に参加
した」と答えた人は45%で最も多かった。

 同調査結果でも明らかなように、日刊紙では「反中国」の一貫したスタンスを通す蘋果日報、
政治色が薄らいだ中道系の大衆紙「東方日報」、知識人が愛読する中立系の「明報」などのデ
モへの影響力は大きかったことがうかがえる。一日付の中立系紙はいずれも当日のデモ計画
明細について報じ、デモ参加を喚起するようなスタンスでまとまったことも大きい。

 逆にデモの偏向報道が際立ったのが、中国系紙の「文匯(わい)報」、「大公報」、「香港商
報」など。一日午後、五十万人デモの出発地点の隣接会場では、親中国系の各団体が主催し
た返還記念イベントが催され、一万人前後の参加が予想されたが、実際は一千五百人前後で
会場はガラガラ状態。デモ参加者が見れば、はっきり勝敗が決しているのが分かるはずなの
に、翌二日付のすべての中国系紙には、五十万人を超える大規模デモが起こったことは一行
も触れず、返還イベントだけがまるで最大の出来事であったかのように写真付で大々的に掲
載された。

 これに対し、中国系以外の各紙はデモ出発地点と返還イベント会場を同時にヘリで空撮。返
還イベント会場には人影がまばらで、それを取り巻くデモ出発地点は立錐(りっすい)の余地も
ないことは一目瞭然(りょうぜん)だ。これも無党派層の読者には中国系メディアの情報隠ぺい
体質を理解する格好の材料となったようだ。


◆健全な香港メディア

 香港ナンバー3の梁錦松(アントニー・リョン)財政官と葉劉淑儀(レジーナ・イップ)保安局長
の二閣僚が辞任する引き金となったのも、両者への手厳しい蘋果日報の批判報道が大きい。
とりわけ梁財政官は新車の自動車登録税引き上げ発表を行う直前、自ら新車を購入して意図
的に税金逃れを画策した事実を三月、蘋果日報から告発スクープされ、財政官への市民の信
頼度は失墜。他紙も後追い報道を続け、腐敗官僚のイメージが定着、辞任に追い込んだ。

 中立系メディアですら、オーナーが中国に経済進出している手前、中国政府が広告掲載拒否
や中国本土での経済活動を規制する圧力をかける中、堂々と反中国の立場を売り物にする
蘋果日報は大衆紙ながら香港メディアの健全性を示す一つのバロメーターとなっている。

(2003年7月19日記)


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