台湾:蘋果(りんご)日報の参入で激震
    「見せる」紙面に魅せられた読者層を固定化

◆斬新な前宣伝活動

 三大紙が共存して無風状態だった台湾で新聞戦争が勃発(ぼっぱつ)している。五月二日、
香港で急成長した「蘋果(りんご)日報」紙が台湾に“上陸”、創刊したからだ。

 発行部数五十五万部、一部五台湾ドル(約十八円)の破格値で売り出し、既存の日刊紙の
三分の一の低価格と香港人女優の鍾麗●(クリスティ・チョン)が旧約聖書の創世記をもじって
リンゴと戯れるCMは衝撃度が大きかった。

 豊富な資金を生かし、今年三月二十一日には「台湾蘋果日報」第一弾として十六ページフル
カラーのイラク戦争「号外」を五十万部発行、四月十九日には蘋果日報のシンボルである新鮮
なリンゴを七十五万個分、台湾各地に無料で配り、わずか二、三時間でなくなったことが話題
となった。聯合報のベテラン記者らを次々と編集幹部に引き抜き、最新の印刷工場を造って斬
新な前宣伝活動を展開したことは既存メディアを戦々恐々とさせた。創刊後、三週間が過ぎ、
コンビニで完売が続いていることは、順調な滑り出しといえるだろう。

 これまで香港から台湾へ取材で行くたび、台湾各紙を読む“気だるさ”に滅入ることが多かっ
た。衝撃的なカラー写真、カラフルな見出し、分かりやすいグラフィックを使った図表を駆使して
百花繚乱(りょうらん)だった香港各紙を見慣れた者にとっては、台湾紙「聯合報」や「聯合晩
報」、「中時晩報」の活字でぎっしり埋められたモノトーンの紙面はアナクロニズムすら感じる。
とりわけ「中国時報」紙の右から左に読ませる横組み文字、横見出しはそうだった。

◆読者開拓の秘密兵器

 それがどうだろう。蘋果日報の参入で激震が走った台湾各紙は先月から徹底した紙面改革
を迫られ、紙面が大幅に改革された。

 中台統一寄りの「聯合報」は四月一日、カラー紙面を増やす社告を出し、財テク面を独立さ
せて紙面を充実。同じく中台統一寄りの「中国時報」も同月二十五日、五十年以上も右から左
に読ませてきた横見出しや横組み文字を左から右に改め、芸能人のカラー写真掲載充実や
飲食ブームなど流行情報を積極的に取り入れる紙面作りを打ち出した。

 李登輝前総統を支持する台湾本土派の「自由時報」も固定読者層は変動しないと見ている
が、危機感から紙面をフルカラーに変更。「見せる」紙面がモットーの蘋果日報に対抗する措
置に踏み切った。

 わずか一紙の参入で各紙が紙面改革や料金設定を見直さざるを得なかったのは、一九九
五年、蘋果日報が香港で創刊された時と同じ現象といえる。創刊者の黎智英(ジミー・ライ)氏
は広州出身の香港メディア界風雲児で、天安門事件に失望して以来の反共、反中国の明快な
スタンス、写真やイラストを駆使した紙面のビジュアル化、分かりやすさを武器に大衆紙として
の新境地を確立。「見せる紙面」に魅せられた読者層をきっちり固定化させた。

◆読者開拓の秘密兵器

 黎氏本人は幼いころ、広州から香港に不法入境し、株で一攫千金を手に入れた後、衣料品
会社を設立。九〇年に週刊ゴシップ誌「壹週刊」を創刊して香港人の愛読者を拡大、九五年に
蘋果日報を創刊して香港では東方日報、成報、太陽報(蘋果日報より後発)などと並ぶ大衆紙
としての不動の地位を築いた。

 黎氏が開発した読者開拓の秘密兵器は毎日実施する読者アンケート調査。路上で一人当た
り八百香港ドル(約一万二千円)を支払って二十数人に詳細なアンケートを書き込んでもらい、
時々刻々と変化する庶民の関心事を細かく分析、黎氏自身が回答内容を最終チェックした上
で毎晩行う編集会議で新方針を打ち出す手法が読者心理を的確につかんだ。ビジュアル化し
た「見せる紙面」づくりはアンケート調査のたまものだ。

 台北市郊外に移り住んだ黎氏は、台湾でも〇一年五月、台湾のパパラッチ週刊誌とも言え
る「台湾壹週刊」を創刊。次に蘋果日報を創刊し、同じアンケート手法で新たな読者層を取り込
み、台湾メディアに大きな地殻変動を起こし始めている。

(03年5月24日記)

●=糸へんに是




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