観光業で再起めざす香港
広東省との役割分担明確に

 香港株式市場ではハンセン指数がこのところ一万四百台を回復し、二〇〇二年八月以来の
経済市況となった。新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)の災難をようやく克服し、中
国本土からの旅行客増加など景気の早期回復への期待感が市況に反映した形だが、妄信的
な中国依存をやめ、隣接する広東省との役割分担を明確化。大珠江デルタ経済圏の確立へ
向け、ライバル・上海とは違う華南の生き残り策が本格化している。(2003年8月16日記)

惨憺たるサイバーポート計画

 香港島西部にある情報通信産業基地「数碼港(サイバーポート)」。香港政府は、一九九七
年前半をピークとする不動産バブルで血迷っていた中国返還前後から「金融」、「観光」、「不
動産」に次ぐ新たな産業の目玉として鳴り物入りで建設を進めたが、アジア通貨危機が直撃
し、不動産バブル、IT(情報技術)バブルが崩壊した途端、「香港=ハイテク」という新構想は水
泡に帰し、入居率は五割に満たない。

 「元来、香港にはハイテク従事の人材は少ない。貿易、海運、観光、金融とりわけ観光業に
絞って回帰し、景気低迷を打破すべきだ」(香港貿易発展局の梁海国主任エコノミスト)という
教訓的な意見が続出し、六月二十九日に締結された香港版のFTA(自由貿易協定)に当たる
香港と中国本土の経済貿易新協定(CEPA)でも製造業よりはサービス産業への恩恵が大き
いと見込む専門家の予想は多い。

CEPAの誤算

 CEPAの締結で二〇〇四年一月から中国本土に輸出する二百七十三品目の関税が撤廃さ
れ、香港企業が中国本土にシフトした工場を香港に戻すことを促し、香港での雇用創出効果
が上がるとの見方も一部あるが、「失業率八・六%の香港ではCEPAは万能薬ではない。関税
撤廃で一部の付加価値業務が戻ってくるだけで、それほど多くの工場は戻らないだろう」(香港
総商会の翁以登総裁)との製造業復活に懐疑的な見方が大勢を占め、むしろ香港サービス産
業の中国本土進出を加速させると見ている。

 中国返還後の香港経済は、中国本土や周辺諸国とのコスト競争に敗れ、結局、「観光」が唯
一生き残りが可能な産業であるとの結論が醸成しつつある。昨年、香港を訪れた中国本土の
観光客数は六百八十二万人でトップ、二位・台湾人の二百四十二万人を大きく引き離してい
る。

 また、中資系企業による香港での直接投資額は二〇〇一年末までの累計でほぼ一兆香港
j(約十五兆円)。香港の実質経済規模は約二十兆円で、日本の兵庫県とほぼ同じであり、そ
こに十五兆円もの「公共事業」が入っているという構図だ。

中国本土の観光客が大量流入

 SARSで観光業に大打撃を受け、外国人観光客が激減した香港は、SARS禍を持ち込んだ
中国本土からの観光客の大量流入、大量消費でまず、巻き返しの第一歩を踏んだ。七月二十
八日、広東省東莞、江門、中山、仏山の四市住民に限り、観光目的での個人旅行が解禁。こ
れによって年間百万人の観光客が香港を訪れる計算となる。

 続いて広東省広州、深セン、珠海の三市、九月には北京と上海の住民も解禁されることにな
っており、小売業を中心とした関連業界では予想以上の波及効果が見込まれ、中国本土から
の観光客がよく消費するエリアでは約一ヶ月前から店舗賃貸料が上がる傾向も見られる。広
東省の旅行業界では香港への旅行ツアーが殺到し、ツアー料金の値上がりが起こっているほ
どだ。

香港ディズニーランドは中国本土客頼み

 個人観光が解禁された四市の住民へのアンケート調査結果によると、香港観光の目的は観
光とショッピングで、とくに携帯電話、パソコンの購入を考えている人が全体の五三%を占めて
いる。これらの中国本土観光客増加を見込み、二〇〇五年から〇六年の開業をめざす香港
ディズニーランドでは開業初年度は五百六十万人の入場者数をめざし、毎年の入場者数が一
千万人を突破すれば第二のテーマパークを建設することも検討して準備を着々と進めている。

 また、香港は広東省との協力強化を加速し、それぞれの役割分担を明確化することで相互
補完を図り、「大珠江デルタ経済圏」の形成に向けて協力関係を密にしている。五日、香港と
広東省の協力関係を協議する「第六回粤港合作連席会議」が開催され、香港、珠海市、マカ
オを結ぶ橋りょう「港珠澳大橋」の建設プロジェクトや連絡事務所の常設などで協力体制を確
立。

 とくに港珠澳大橋の建設は香港にとって国際物流センターとしての地位強化に大きなメリット
を持つプロジェクトとして注目を集めている。香港の董建華行政長官は、香港が金融業や物流
業、広東省が製造業の発展に力を注ぐ産業上の役割分担を明確に示すことで広東省政府幹
部との共通認識を得たことを表明。この共通認識は張徳江広東省党委書記が着任から半年
後に示した大珠江デルタ経済圏の発展戦略に基づくもので、広東省内での香港との悪性の競
争を避け、役割をすみ分けすることで上海を中心とする長江デルタ経済圏に対抗する生き残り
策を提示した。

人民元オフショア市場へ

 現在、人民元の取扱業務は中国政府によって厳しく規制されているが、今後は人民元の取
扱業務についても人民元口座の開設や人民元決済のクレジットカード使用、人民元の中国本
土への送金など香港の銀行である程度開放される見通し。人民元切り上げへの国際的圧力
が高まる中で、香港が人民元オフショア市場実現への実験場として重要な役割を果たしそう
だ。

治安悪化に戦々恐々 香港保安局

 一方、中国本土の観光客急増で戦々恐々としているのは、治安悪化を憂慮する香港政府当
局だ。李少光(アンブローズ・リー)香港保安局長は「中国本土の観光客一万人当たり違法活
動を行うのは平均三人。毎年四千人が売春容疑で摘発され、二千人が不法就労で摘発され
ているので入境管理体制をさらに強化する」と強調。不足する規律部隊の増員などを検討し、
十月一日の国慶節(建国記念日)前後の連休に合わせ、大挙する中国本土観光客の治安対
策に追われている。
(03年8月28日記)



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