中国 :サッカー界の異変“李響事件”
    倫理か特ダネ優先か

 中国サッカー界で突如として注目を集めた女性スポーツライターがいる。李響(リー・シア
ン)。北京大学英語学部を卒業後、国際政治学部で修士号を取得した三十歳の既婚才媛だ。
父親は優秀な科学者で両親とも北京大卒業生という「知識分子家庭」の出身。

 大学卒業後、「広州日報」に入社し、一昨年二月、同報が発行するスポーツ紙「足球報」(サ
ッカー報)で中国男子サッカー代表チームの番記者となり、次々と特ダネ情報をスクープして頭
角を現し、一躍スター記者に。

 人気絶頂の李記者は突然、昨年七月、「広州日報」傘下の「足球報」からライバルの大手ス
ポーツ紙「体壇周報」へ三カ月百六十万元(約二千四百万円)の破格の報酬条件でリクルート
された。

 西側世界でしか行われなかった破格の引き抜き行為が中国内で、しかも女性ライターから始
まったことに中国メディア界には衝撃が走り、大事件として連日騒がれ続けた。

 サッカーのルールすら知らなかった彼女が名物記者になり得たのは、得意の英語と高い教
養を生かして、中国が巨額を投じてサッカー・ワールドカップ(W杯)中国代表の監督として招
請した旧ユーゴスラビア出身のミルチノビッチ監督(57)との信頼関係をだれよりも深く築いた
ことだ。

 中国チームの海外遠征では各紙の番記者が同行、でもミルチノビッチ監督はお気に入りの
李記者以外、親しく接することを許さず、監督しか知らない選手配分、戦略、今後の予定を細
かく密着取材で入手、「足球報」一面を飾り続けた。彼女は「大手紙の番記者は遠征時だけ突
然現れるだけ。私のように日ごろから選手や監督と接し続けることをしないのが待遇の差とし
て表れている」ときっぱり言う。

 既婚の外人監督と既婚女性記者の「愛人関係」にも似た親し過ぎる信頼関係は他紙のブー
イングを呼び、二人を「不倫関係」とこき下ろした上、ミルチノビッチ監督の指導方針や選手人
事にまで批判を浴びせた。その急先鋒(せんぽう)がライバル紙「体壇周報」だったが、カネに
ものを言わせる欧米流のスカウト成功で李記者は「体壇周報」の花形記者に“大変身”。「私は
市場システムの幸運児だ」とひるむ気配もなく、特ダネを連発している。

 その後、李記者は十月末、「ゼロ距離―ミルチノビッチとの心の対話」と題する本を出版し、
すでに十万冊が完売。ミルチノビッチ監督同伴のもと、中国内外の二十カ都市以上で出版サ
イン会をして回り、大人気に。

 今後の身の振り方は「W杯後は記者を引退し、米国に留学して弁護士資格を取得、経験を
積んだ後にニュースキャスターとなって二番目の著書を出したい」としっかり述べ、花形記者で
あり続けることに何の未練も持っていないのが印象的。これぞ中国の新たな富豪層の生き方
なのか、と価値観の多様ぶりに改めて驚かされる。

(2002年2月12日記) 



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