マカオ関連記事  1999年12月17日記



■■ 沈みゆくマカオ ■■  中国返還の光と影(1)

カジノ利権めぐる攻防激化
黒社会取り締まりの姿勢崩さぬ中国当局

 人口約四十三万人の観光都市・ポルトガル領マカオが二十日、中国に返還される。英国領
だった香港に次ぎ、四百五十年以上にわたる異民族支配に終止符が打たれる。中国は「澳門
(中国語でマカオ)回収」のお祝いムード一色だ。返還後は「澳人治澳(マカオ人によるマカオ
統治)」による五十年不変の一国二制度(ミニ憲法にあたるマカオ基本法遵守)に移行する。
「マカオの次は台湾統一」と意気込む中国の思惑とは裏腹に、賭博(とばく)による“曖昧都市”
の魅力が薄れ、衰退していく中国領マカオ(マカオ特別行政区政府)の今後を展望する。 


 マカオといえば、古き良き南欧風の観光名所とカジノの街。カジノのシンボルであるリズボア
ホテルは返還直前、クリスマス用のネオンがライトアップされ、街のいたるところに「熱烈歓迎 
人民解放軍」の横断幕が躍る。 

 元来、マカオ政庁がポルトガル支配下にあった東ティモールへの財政支援のために苦肉の
策として捻(ひね)り出した免許制ギャンブルは、やがて「東洋のモンテカルロ」と呼ばれるほど
マカオの財政的繁栄をもたらし、ついにカジノ産業がマカオの“表の顔”になってしまった。 

 マカオの賭博税収は全体の六割を占め、返還後のマカオ財政を安定的に運営する重要な財
源になっている。マカオの賭博経営権は現在、英国系の血が入った“マカオのカジノ王”スタン
レー・ホー氏が会長を務めるマカオ観光娯楽公司(STDM)が独占している。ホー氏の後ろ盾
になっているのは香港の親中系財界人・霍英東(ヘンリー・フォック)氏だ。 

 二人とも毛沢東率いる共産政権成立直後の鎖国時代に中国へ秘密裏に物資を供給し、中
国に感謝された。二人は表向き、六〇年代初めに入札で賭博利権を手に入れたとされるが、
「建国直後の“財政的恩義”が中国と密接な関係にあるマカオでの利権獲得に結びつき、二人
の利権の一部は中国側に流入している」(香港誌編集者)との指摘はマカオや香港では常識と
なっている。 

 しかし、STDMが独占する賭博場の経営権は二〇〇〇年十二月に期限切れし、二〇〇一
年からの権利は競争入札によって再配分される予定になっている。中国側は当初、娯楽事業
の健全発展のため、現在の独占状態を見直し、複数に賭博場経営免許権を分ける意向を示
した。初代マカオ行政長官選挙で圧勝した親中系マカオ経済人二世の何厚カ氏や対抗馬だっ
た区宗傑氏はいずれも中国側同様、「カジノの利権独占は見直すべきだ」との共通認識で一
致し、“カジノ王”ホー氏のあせりが増幅した。 

 ゴルフ好きで知られる初代マカオ行政長官・何厚カ氏とゴルフプレーを頻繁に楽しむマカオ
の観光会社社長は本紙に「二〇〇一年以降のカジノ経営権免許はマカオ政府が十件出し、う
ち半分の五件が中国、五件がマカオとポルトガルの利権。親中系のスタンレー・ホー氏だけに
依存しなくても中国側がカジノの利権を確実に支配できる動きが強まっている」とカジノ利権争
奪戦の最終決着を予測する。マカオの裏事情に詳しい同社長は「マカオとポルトガルの五件の
うち一件は何厚カ・マカオ初代行政長官が実質的に握るように水面下で内定している」とまで
断言している。 

 また、このカジノ利権分散化の動きは、従来スタンレー・ホー氏が経営するSTMDの下請け
利権に群がっていた黒社会(暴力団)の内部抗争を激化させる引き金になった。マカオ黒社会
の二大派閥である十四Kと水房会が九七年四月から血で血を洗う抗争事件を繰り返し、結
局、十四Kの勝利で決着がついた。 

 だが、十四Kはマカオ司法幹部や警察へのテロ行為でマカオ政庁と全面対決。今年一月に
は観光名所の聖ポール天主堂跡付近で福建省公安幹部を乗せた車の運転手がオートバイに
乗った男の爆弾で死亡する事件まで起き、一般観光客への被害拡大の危険性が一気に高ま
り、マカオの観光産業を根底から危うくした。中国側はカジノ利権拡大のために黒社会を徹底
して排除する立場を崩していない。 

 一方、スタンレー・ホー氏は二〇〇一年からのカジノ経営権の競争入札で利権が大幅に縮
小する危機感から、“保険”の意味で北朝鮮でのカジノ事業推進やフィリピンのマニラ沖での賭
博場再開などを打ち出し、強気の攻めの姿勢だ。 

 十三日、STDM傘下の十番目の賭博場である皇庭海景ホテルがオープンし、開店のテープ
カットには会長のホー氏自身以外に何厚カ・マカオ初代行政長官やビエイラ・マカオ総督が来
賓として参加。ホーSTDM会長は「カジノ経営権は二〇〇一年まで延長されると確信し、楽観
視している」と発言し、十二日のイベントでも何マカオ行政長官に「カジノ経営権は三年から五
年延長するのが望ましい」と打診、中国側の顔色をうかがっている。 

 何・初代マカオ行政長官は「香港への観光客の六割がマカオへ立ち寄ることができるように
多元的な経済を開拓したい」と意気込むが、少なくともここ数年間のマカオ観光客数は“香港
返還バブル景気”が返還直後から急速に冷え込み、治安悪化の悪条件も重なり、百万人以上
減少した。 

(99年12月17日記)




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