マカオ関連記事  1999年12月22日記


■■ 沈みゆくマカオ ■■ 中国返還の光と影(5) 

台湾は冷めた反応
関係冷却化すれば経済衰退の要因に

 「毎年八十万人以上の台湾人が大陸へ向かうためにマカオを訪れている。マカオでは必ずし
もビザは必要なく、航空機のチケット代も香港−台湾線より安い」――事実上の駐マカオ台湾
代表機関「台北貿易観光事務所」のレイ威廉事務所長は台湾にとってのマカオの魅力を語
る。台湾では現在、約二万五千人のマカオ出身者が就労し、マカオへの送金額は毎月約二億
香港j(二十八億円)にも上る。 

 マカオ返還に合わせ、同事務所の名称変更問題が中国側の圧力で揺れているが、レイ事務
所長は「返還後には順当に解決するだろう」と楽観的だ。 

 名称変更問題がマカオ住民への通常業務に支障をきたせば、「代価は非常に大きいものに
なるから」というのがその理由。台北貿易観光事務所は、台湾外交部(外務省に相当)に属
し、中国籍マカオ住民を対象に台湾観光や移住などに関するサービス業務を行っている。中
国側は同事務所が中国語で国家の駐在事務所に当たる「弁事処」という表記であることにクレ
ームを付け、「台北」という表記も変更の必要性を強調。毎年十月十日の双十節(中華民国建
国記念日)にレイ所長がマカオの公的行事を抜かして活動していることも問題視している。 

 一方、台湾当局者のマカオへの入境拒否問題も悩みの種だ。 

 台湾総統選挙に出馬している許信良・前民進党主席が十八日、香港で開かれる台湾企業主
催の座談会に参加するために香港入りを試みたが、入境を拒否された。香港保安局の通知で
は「マカオ返還直前であり、入境は歓迎できないので訪問日程の取り消しを迫った」という理由
が書かれている。許氏は台湾独立派の人物であるため、今後は一国二制度に移行するマカ
オでも同様な動きが増える可能性が高い。 

 香港は中国返還後、台湾当局者の入境拒否事件が相次ぎ、マカオ出入境事務当局は香港
と同様の扱いをする可能性が高く、返還後はマカオへの入境を拒否される台湾当局者が出て
くるのは避けられない。 

 香港の中国返還後、米国で民主活動を続ける医師の王炳章氏らが台湾からマカオに空路
飛び、マカオから海路で香港に入ろうとして入境を拒否された事件が発生したが、同様の事件
はマカオ返還後、海外の民主活動家の動きが活発になれば、マカオの水際でも当然起こり得
る。マカオの民主活動家の場合も返還後、いったん出国すれば香港特別行政区政府と同様に
再入境を阻止される試練に見舞われ、香港の二の舞いになってしまう状況だ。 

 香港返還式典には招待された中台民間交流の台湾側窓口、海峡交流基金会の辜振甫(こ・
しんぽ)理事長が、十九日夜のマカオ返還記念式典に招待されなかった点も李登輝総統の二
国論が発端とはいえ、露骨な中国側の排除に対して台湾側が今後のマカオの政治状況を懸
念する大きな要因になっている。 

 中国政府は十二日、中国内での台湾企業の権益保護を目的とする「台湾同胞投資保護法
実施細則」を施行する発表を行い、優遇措置を前面に押し出して台湾資本の取り込み増を見
越した政策を打ち出した。 

 中国がこの時期に同細則を発表した背景には、来年の台湾総統選挙を前に中台間の経済
交流を活発化させ、三通(通郵・通航・通商)の受け入れを台湾側に迫る狙いがある。マカオ返
還直前に法改正が打ち出されたことについて香港紙・経済日報は「台湾統一に向けた布石で
あり、経済や貿易の面で呼び水となる絶妙のタイミング」と分析。台湾経済部(通産省)投資審
議委員会議も「台湾企業による大陸投資が急減していることを受けたものだ」と指摘、マカオ
返還で勢いづく中国側の意図をけん制し、冷静に受け止めている。 

 同委の統計でも台湾企業による今年一−十月の中国大陸向け間接投資は、金額ベースで
前年同期比二一・六%減、件数ベースで二八・九%減に落ち込んでいるため、中国側のあせ
りも見える。 

 十九日午前、特別機でマカオ入りした中国の江沢民国家主席は二十日午前零時過ぎから行
われた中国政府主催の返還移行式典でマカオが中国に返還されたことで台湾問題を解決、
祖国の完全平和統一実現を呼びかけた。台湾の李登輝総統が提唱した二国論を批判し、香
港、マカオで適応された一国二制度を台湾にも適応して「完全統一」への大号令をかけた。一
方の台湾側は民間調査でも一国二制度を拒む人が過半数を超え、マカオ返還の政治的宣伝
がエスカレートすればするほど、台湾の世論は冷めている。 

 二十日正午に入城した約一千人の劉粤軍(りゅう・えつぐん)少将配下の人民解放軍駐マカ
オ部隊は、マカオ特別行政区政府の要請による治安出動時には司法警察権が与えられる。
法輪功や民主派デモが返還式典で発生した場合はマカオ政府が要請さえすれば出動可能と
なり、黒社会(暴力団)抗争を未然に防ぐ治安保持の役割が大きい。ただ、力でねじ伏せようと
する人民解放軍の進駐は台湾人たちの心証をさらに悪くすることになる。 

 カジノと観光業で発展した人口四十三万人のマカオは経済構造が「アジアの金融センター」
香港よりはるかに脆弱(ぜいじゃく)だ。だが、香港ほどグローバル経済の中に組み込まれて
いないため、九七年十月に起こったアジア通貨危機のような経済風波は受けにくいメリットもあ
る。 

 これまで見てきたように、観光面では台湾や中国大陸との関係が強いため、中台両岸関係
の影響を受けやすいデメリットがある。隣接する広東省珠海市と経済一体化を進め、政治的
にも一国二制度が空洞化すれば、マカオ特別行政区政府が香港同様、台湾人の往来が途絶
え、活性化がそがれるシナリオも考えられる。 

 中国の江沢民国家主席がマカオ返還記念式典で「中台の完全統一」を強調すればするほ
ど、台湾側の冷めた視線は強まり、「マカオの次は台湾統一」との中国側の政治的野心はマカ
オ自体の経済発展を阻害する最大要因になりかねない状況だ。

(99年12月22日)=おわり=




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