不満渦巻く香港、江沢民派の懐柔策どこまで
“統治”は観光復興優先に

 香港特別行政区政府の董建華行政長官は五日、中国政府の転覆行為など反政府活動の
規制強化を盛り込む国家安全条例案の撤回を表明した。同条例案通過を後押ししていた中国
政府も条例撤回と景気回復による緩やかな親中ソフト路線が香港人の民意を得やすいと判
断、同決定を事前了承した。そこには、香港の政治的コントロールには中国本土客の観光復
興による経済安定が最優先との思惑が働いている。
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アモイ密輸事件主犯、頼昌星容疑者がマネーロンダリングで購入していた香港島コーズウェイ
ベイにある「遠華ホテル」用の物件  
 七月末に香港、マカオの管理事務に関する中国政府の最高責任者となったばかりの曽慶紅
中国国家副主席は十五日、休暇中の董建華香港行政長官と広東省深セン市内で会談し、香
港の現状や中央政府との経済貿易協力について突っ込んだ話し合いを行った。
 香港・マカオ弁公室や党中央統一戦線部、商務省などの官僚らを引き連れた曽国家副主席
は十三日、広東省珠海市入りし、張徳江広東省党委書記ら広東省トップの案内で珠海市内の
開発区を参観、建設準備が進みつつある港珠澳大橋(香港、マカオ、珠海を結ぶ陸橋)につい
て詳細を尋ねた。

 中国の胡錦濤政権は、七月一日に香港で起きた香港基本法二三条の立法化に反対する約
五十万人参加の大規模デモが一国二制度の根幹を揺るがしかねないと判断、香港と広東省
の珠海デルタ地帯との経済融合を推進することで香港の景気低迷を打破し、社会安定を最優
先する経済復興優先策を改めて決定、曽国家副主席が北京から南下して実態把握を行った
形だ。

 香港行政長官再任後初めての休暇旅行を夫人と共にした董長官は浙江省杭州で李鵬前全
国人民代表大会常務委員長や浙江省幹部らと会談、十五日、杭州から空路、深センに入り、
曽国家副主席との会談に臨んだ。同会談では広東省と香港の経済一体化のさらなる推進が
再確認された。

 中国の江沢民中央軍事委員会主席の腹心である曽国家副主席は八日、香港の親中派政
党代表団が北京入りした際、「香港社会の安定が極めて重要」「香港の民主派との会談も願
う」などと語り、これまで決して口にしなかった香港民主派との接見も視野に入れ、民主派の懐
柔策に本格的に乗り出す姿勢を示唆していた。

 これに呼応するかのように、香港の民主党幹部は七月一日の大規模デモ以来、北京の密使
が何度も民主党や天安門事件の再評価を求める支連会(香港市民支援愛国民主運動連合
会=司徒華主席)幹部と接触していることを明らかにし、「北京の密使は香港の民主派が北京
を訪問するチャンスを排除しないと伝えている」と述べている。

 民主党など香港の民主派勢力は中国本土への里帰りに必要な回郷証を中国当局から一方
的に奪われて里帰りできないケースが増え、先祖崇拝を重視する民主派の各個人に対して、
回郷証の再発行許可を条件に懐柔しようと工作している。

 中国政府の香港への新政策が鮮明になるにつれ、懸念されているのが中国本土の観光客
が香港に大量流入することへの治安悪化や巨額現金が動くブラックマネー流入、マネーロンダ
リング(資金洗浄)問題だ。

 広東省の主要都市で観光目的による香港への個人旅行が解禁されて一カ月半が過ぎ、中
国本土客の旺盛な消費力は香港の小売業などに恵沢を与えると同時に不動産市場の活性化
も促されている。中国本土住民が香港などに出境する際、持ち出せる現金限度額は人民元で
六千元(約九万円)、外貨で二千ドル相当だが、実際は香港で八十万ドル相当の高級車を購
入したり、三百万ドルの高級マンション物件を購入するなど、限度額を大幅に超える現金が香
港に持ち込まれている。

 ほかにも、税関に申告すべき課税品目の携帯電話、デジタルカメラ、高級時計などを香港で
購入して中国本土に持ち帰る際、申告しないケースが増え、申告漏れ違反者が約一カ月間で
一千人を超えた。中国本土客の香港での不動産物件購入も増え続けており、多額の現金で一
括購入することも多く、その現金が不正なブラックマネーであるかどうか見分けるのは困難だ。

 これまでも、香港では、新中国建国以来、最大の密輸事件と呼ばれるアモイ密輸事件の主
犯、頼昌星容疑者が福建省アモイから家族ぐるみで巨額のブラックマネーを香港に持ち込み、
高級マンションを数十軒購入したり、ホテル経営のための新築ホテル物件を購入するなどして
おり、マネーロンダリング防止は中国政府が取り締まりに乗り出さない限り困難を極める。

 最近でも、中国銀行の香港法人からの巨額の不正融資疑惑があった上海の実業家、周正
毅農凱集団総裁が中国銀行香港の前総裁から巨額不正融資を受けて株価操作や香港の虚
偽資産登録などを行っていた事実関係が次第に明らかになっており、香港が中国本土客の大
量流入でマネーロンダリングの新たな温床になることは避けられない状況だ。

 香港政府はマネーロンダリング防止措置として、香港ジョッキークラブ、宝飾品卸売り、不動
産代理業、会計士、信託投資などの業界に対し、できる限り顧客の身分を洗い出し、資金源
の特定や流れをチェックすることで正常とは思えない取引には注意を払う指導をしていく構え
だ。

 だが、「水際防止には程遠い甘すぎる対応」との厳しい批判も出ており、中国本土観光客を
装った不法就労、売春活動などの取り締まり強化なども迫られている。香港は景気低迷の解
決策を中国本土依存に傾斜することで治安悪化やブラックマネー流入の代価を払い、“中国
の悪(あ)しき植民地”と化すか、懸念は高まるばかりだ。(03年9月18日記)




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