「黒社会」巣食う買売春構造 中国広東省珠海市
   ――日本人集団買春報道の真相――

 慰安旅行中の日本人団体客が中国広東省珠海市で「集団買春」を行ったとされる事件は、
現場となった二つのホテルが営業停止処分となり、売春婦を斡旋(あつせん)した中国人らを
逮捕、同市警察当局者三人が職務怠慢で職務停止処分となって一応、幕を閉じた。同事件の
期日が満州事変の発端となった柳条湖事件七十二周年(九月十八日)前夜だったため、中国
メディアは激しい日本非難を展開。歴史問題にすり替えられて反日感情が高まる一方、感情
論とは裏腹に買売春を「夜の産業」として黙認し、黒社会(暴力団)の斡旋業者と地元政府が
暗躍した拝金主義の腐敗構造が浮き彫りになっている。


■エイズ売春婦の恨み根強く

 「私は人身売買で珠海の風俗店で売春を強要され、エイズに感染させられた。買春した奴ら
に復讐のためエイズを性感染させてやる」。一九九九年六月、香港週刊誌のトップ記事は黒社
会に人身売買された末、珠海で売春を強要されたエイズ感染の中国人女性が恨み骨髄で心
境を告白した独占インタビューが掲載され、密かに中国本土に「北上」して買春を繰り返してい
た香港人男性たちを震え上がらせた。

 当時、珠海と隣接するポルトガル領マカオ(当時)が中国に返還される直前ということもあり、
マカオを仕切る黒社会の「十四K」と珠海を仕切る福建省マフィアの確執が取り沙汰され、珠海
の風俗産業はエイズ売春婦の告白記事が影響し、一時的に停滞したが、数ヶ月後には元通り
となった。その後、広東省のエイズ感染者数は増加の一途で「無策」に等しい。

 マカオで日本人向けの香港・マカオパックツアーを企画している旅行業者は「この売春婦の
話は香港の旅行業者では知られているが、日本人は知らずにゴルフコンペとセットで女遊びを
する愚か者もいる。今回の買春事件では、中国人の斡旋業者がそのリスクを分かっていなが
ら金儲けのために日本人を利用したとすれば、エイズ感染の可能性も否定できない」と同事件
に関わった日本人団体客のエイズ検査の必要性を強調する。


▲珠海市中心部・拱北の海岸線道路=深川耕治撮影

■「需要と供給」絶つ決定打なし

 同買春事件では、日本人団体客を接待する売春婦らを派遣した女性責任者を逮捕したが、
接待した女性らは大半が逃亡し、エイズ感染者であるかどうかも不明。斡旋した女性責任者の
背後にある黒社会にメスをいれることはタブー視され、売春を取り締まる刑法はあるものの、
セックス産業を必要悪として「需要と供給」の元を絶つ根本的問題解決を避け続けている。新
型肺炎(SARS)同様、いわば中国流の「トカゲの尻尾切り」的な一件落着法で終始しているわ
けだ。

 マカオは九九年十二月の中国返還後、人民解放軍が都心部に駐屯したことで「十四K」など
の有力マフィアによる犯罪活動が鳴りを潜めて大きな事件は発生していないが、隣接する珠海
市は逆に閉め出された十四Kも影響し、黒社会による犯罪事件が続発。人身売買、買売春、
外貨の違法送金を行う「地下銀行」などを斡旋している黒社会の資金源に対して公安当局は
手をこまねいているのが実情だ。

 かつて故トウ小平氏は「広東省を第五の竜にする」「いくつもの香港をつくらなければならな
い」と語り、珠海市は一九八〇年代末以降、経済特区として改革・開放路線の恩恵を受けて急
成長。空港建設など多数の大型プロジェクトで全国五カ所の経済特区の中で一時は実績トッ
プとなり、評価も高いが、その裏で市政府高官の汚職疑惑もたびたび浮上。改革開放のツケ
は貧富の格差増大、モラル低下と拝金主義横行を拡げ、二〇〇〇年、同市元商工局長らが
収賄罪で摘発され、同市高官の汚職事件はその後も尾を引いている。

■無知な外国人が買春行為

 珠海市は人口約百十五万人。静かな漁村から「経済特区」に指定されて一変、キャノンなど
大手日系企業が続々と進出し、市内には約六千六百社が進出(日本企業は約百三十社)。
「日本人の現地駐在員は単身赴任者が大半。黒社会の怖さを知っているので、地味にカラオ
ケに行く程度で、買春行為をするのは事情を知らない慰安旅行で訪れる外国人が大半」(広東
旅遊有限公司のスタッフ)との声も聞かれる。

 珠海は経済特区であると同時にマカオや香港のベッドタウンとなりつつある。香港人やマカオ
人がセカンドハウスとして購入する物件が増え、マンション建設が進む。香港、珠海、マカオを
結ぶ橋りょう「港珠澳大橋」建設について、中国と香港双方が計画に合意し、総延長三十`、
香港、マカオ、珠海を一直線で結び、車でわずか四十五分しかかからない同プロジェクトが始
動。〇五年には香港側の起点近くに香港ディズニーランドが開園予定で、香港、珠海双方で経
済波及効果に期待が集まっている。この点が「光」の部分ならば今回の買春事件が珠海の
「闇」の部分を覆っている。

■リフォームブームで急成長した建築会社


▲買春疑惑に明確な回答をしない建築会社「幸輝」=大阪府吹田市内

 買春疑惑事件を起こしたのは大阪府吹田市に本社のある建築会社「幸輝」。リフォームブー
ムで急成長し、社員がここ数年で約十倍増の三百八十人になり、年商は二〇〇%増(売上高
二十二億五千九百万円=〇二年十一月)を続け、破竹の勢い。

 中国紙や同社の主張を総合すると、九月十六日夜、慰安旅行で訪れた幸輝の社員約三百
人は珠海市中心部の粤海ホテルで宴会と表彰式を行い、約二百人の女性コンパニオンを接
待させた。その後、宿泊先の国際会議センターホテルに移動し、社員の一部がコンパニオン
に買春行為を行った疑いが持たれている。

■反日感情高まり墓穴掘る結果も

 問題が発覚したのは現場を目撃した中国人が中国紙に証言したことがきっかけで、中国メデ
ィアでは尾ひれがつき、反日感情が増幅。人民日報のウェブサイト内「強国フォーラム」の書き
込みには、「日本の軍国主義分子がわが国を侮辱している」「もし、広島の原爆投下記念日に
米国の組織が広島での買春行為を手助けすれば、日本の右翼は卒倒するだろう」などと記さ
れ、民族的な感情論が目立つ。

 一方、「幸輝」側は、慰安旅行で珠海を訪問したことは認めても「集団買春」が意図的に行わ
れたことは否定し、口をつぐむのみ。本紙の直接取材に対しても「答えることは一切ない」の一
点張りだ。日中関係に微妙な影を落としている元凶でありながら、日本企業としての最低限の
公式見解を表明しない態度は中国側だけでなく日本国内に向けても決して集団買春疑惑が晴
れない状況が続く。(03年10月8日記)

トウ=登ヘンにオオザト。

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