住民投票で再選戦略練る陳総統 台湾
「独立」志向、あえて危険な賭け
――「台湾国」対「中華民国」の闘いに――

 「台湾共和国」建国か、「中華民国」護持か――。台湾では来年三月二十日の総統選挙をひ
かえ、支持率が微増する陳水扁総統と野党共闘による政権奪還・圧勝をめざす国民党、親民
党が住民投票による新憲法制定賛否をめぐり激しいつばぜり合いを続けている。二十五日、
台湾南部の高雄市で与党・民進党などが呼びかけ、住民投票による新憲法制定を支持する
十万人規模の集会が行われ、陳総統は独立志向を強める演説を行った。台北市内では同
日、独立反対デモが行われ、約三千人が参加。両者が真っ向から対決する構図が鮮明にな
り、支持率の差もじわじわ縮まってきている。(03年10月25日記 台湾南部・高雄市で)


■参加者に住民投票、新憲法制定の同意求める

 「この場で参加者に問いたい。住民投票、新憲法制定が必要だと思う人は挙手してほしい」。
陳総統が二十五日夜、高雄市内の新憲法制定を呼びかける大規模な集会で演説した内容
は、台湾総統の立場というより民進党主席の発言というべき独立色濃厚なものだった。

 陳総統は最後に@台湾は中国の一省か主権独立国家かA第四原子力発電所は必要かB
台湾はWHO(世界保健機関)に加盟すべきかC現状に合わない現憲法を修正した新憲法を制
定すべきか、の四点を参加者に問いかけ、挙手で意思表示を求めた。

 陳総統が参加者に挙手を求めるのは異例中の異例。参加者らは「住民投票で新憲法制定
を実現させよう」と台湾語で答え、「台湾国万歳」と叫ぶ人も。同集会は呂秀蓮副総統や民進
党幹部が顔をそろえ、李登輝前総統が後ろ盾となっている台湾団結連盟、キリスト教長老教
会、反原発団体など二十四団体が共催。さながら再選をめざす陳総統の総決起集会の様相と
なった。


▲新憲法の必要性をアピールする陳水扁総統(深川耕治撮影)

 デモ行進前、呂秀蓮副総統も故蒋介石総統の宋美齢夫人が死去したことについて「蒋王朝
は過去のもの。台湾の新時代到来として住民投票があり、絶対に台湾は中国の一部ではな
い」と強調している。

 陳総統は六月、建設途中の第四原発存廃是非や立法院の議席数半減を問う住民投票実施
を突然表明。九月六日、台北で行われた李前総統が提唱する台湾正名(台湾を正式国家の
名称に使う)運動の十五万人デモに支持を明らかにし、現憲法が台湾の実態に合わなくなった
として新憲法制定を提案した。今回の集会では、〇六年までに新憲法草案を策定し、〇八年
に新総統選出後、正式に新憲法を施行することを表明。

■南部から燃え上がる「台湾優先」意識

 陳総統はここに来て「不統不独(統一でも独立でもない)」の中間路線を踏み越えて独立志向
に傾斜、国際的合意を得ないまま、なぜ、あえて危険な賭けに出たのか。

 先回の総統選で国民党の連戦主席、同党から分裂して出馬した親民党の宋楚瑜主席の票
が割れたことで漁夫の利を得て当選した陳総統にとって、連戦、宋楚瑜コンビが対抗馬の正
副総統候補として確定したことは支持率でも劣勢が目立ち、景気低迷もあって苦戦続き。そこ
で住民投票による新憲法制定を提唱することで独立派寄りの姿勢を示し、有権者の九割近く
を占める本省人(戦前から台湾に住んでいる人々)の新たな台湾建国志向をかきたてることで
最後の巻き返しを図る狙いがある。

 先回の総統選でも高雄での選挙集会で一気に必勝ムードが盛り上がり、若年無党派層の取
り込みに成功。南部から中部、北部へ陳水扁支持が急速に広がった。今回の高雄での集会も
同様の効果を見込み、来年二月二十八日に行う民進党の二・二八事件記念百万人集会で形
成を逆転させる腹づもりだ。

 台湾紙「聯合報」の最新支持率調査によると、陳総統が呂秀蓮副総統とペアを組んだ場合、
支持率三六%(前回比四ポイント上昇)、連戦・宋楚瑜野党ペアの場合は四二%(前回比四ポ
イント低下)で票差はじりじりと縮まりつつある。台湾株式市場が六〇〇〇台を回復し、景気低
迷を脱しつつあることも陳総統の支持率上昇に好影響を与えているようだ。

 このところ、李登輝前政権時代の宋楚瑜氏の不正資金疑惑をめぐり、李前総統と宋氏の主
張が裁判上で対立し、李前総統は高雄の集会には参加しなかった。李前総統は「住民投票に
よる憲法制定には米国の同意を取り付ける必要がある。今回のデモで米国も反対はできなく
なったはずだ」と述べ、独立ではなく建国を対外的に強調すべきであるとしている。

■深刻な若年層の政治離れ、致命傷にも

 一方、若者の政治離れが進むことで陳総統の陣営には不利な要因が大きく横たわる。今回
の高雄での集会を見ても、十代、二十代の若者の参加者は一割も満たない。民進党政権誕
生後の景気低迷、経済政策の無策、第四原発建設中止の撤回などが熱狂的な若い民進党支
持者を失望させ、「今度の総統選では投票所に行かない」と話す若者が急増。前回の総統選
で無党派の若年層が圧倒的な陳水扁支持に回ったことに比べ、今回の総統選では昔ながら
の高齢な民進党支持者が動いているだけで、固定票だけしか頼りにならない選挙戦となりそう
な流れだ。

 高雄の集会に参加した童鉄洪さん(66)は「これまで五十年間以上、中国大陸から来た外省
人の手によって強引に作られた憲法を押しつけられ続けてきたので、自国の現状に合った憲
法を新しく作ることは当然の権利。仕事などで多忙のため、若い人はあまり参加していない
分、われわれ年配者が老体をむち打ってがんばって参加している」と話す。

 これに対し、台湾独立や新憲法制定に反対する外省人ら約三千人は二十五日、台北市内を
デモ行進。「中華民国憲法を守ろう」と気勢を上げ、「民進党は与党でありながらデモ行進をす
るのは笑止。法案を作って施行するのが政権政党の責務なのに、自分の選挙のことしか考え
ていない」との声が上がっていた。

 国民党や親民党は民進党の住民投票法草案に対して独自の代案を提案、「与党案は必要
ない」として反対の立場を取っており、総統選の前哨戦はさらに激しさを増しそうだ。


▲2003年10月25日、台湾南部の高雄市で「台湾国万歳」を掲げる台湾独立派の住民たち


【高雄の住民投票デモ参加者の声(台湾語での応答)】

童鉄洪さん(66)男性 高雄市に隣接する鳳山市在住
「これまで五十年間以上、中国大陸から来た外省人の手によって強引に作られた憲法を押し
つけられ続けてきた。自国の現状に合った憲法を新しく作ることは当然の国民の権利。たしか
に若い人はあまり参加していない。いろいろと仕事などで多忙なのだろう。その分、われわれ
年配者が老体をむち打ってがんばって参加している。台湾の経済が低迷しているのは、台湾
だけの問題ではなく、世界的に各国の景気は低迷しているので、陳水扁総統の政権能力責任
では決してない。むしろ、立法院で野党の議席が多いことで本来の政策を打ち出そうと法案を
提出しても阻止され、うまくいかない。野党が悪いんだ。第四原発は建設反対だ。日本でも原
発事故が問題になったではないか。事故が起こって後悔するぐらいならば、最初から建設しな
い方が妥当だ」

江来枝さん(72)男性  台中市在住
「台中市からバス九台を連ねて参加した。われわれ台湾団結連盟は李登輝先生の提言通り、
台湾共和国の建設のために正名運動を全国に広げ、署名活動を続けていく。今回の住民投
票を求めるデモはその大きなうねりになるはずだ。昨日百六歳で死んだ宋美齢は過去の人。
思い出したくもない」

林啓智さん(71)男性  台北市在住
「現在の中華民国憲法は半世紀以上前に作られた憲法で、現状にまったく合っていない。李登
輝前総統が現職の総統時代でさえ六回も修正しているが、それでも修正すべき内容が多い。
台湾はすでに国として独立しているので、台湾国としての新憲法を早期に制定する必要があ
り、台湾国民として最初に望むことだ。第四原発は建設を中止すべきだ。私は台北市内で建
設会社を経営し、日本の大手建設会社とも付き合いがあるが、日本の企業に一時的に不利
益をもたらすとしても、事故の危険をはらんでいる原発ならば、中止した方が日本のためにも
なると思う」

陳碧揺さん(24)女性 高雄市在住
「住民投票は当然の権利。陳総統や民進党の憲法制定案に賛同し、このデモに参加した。若
者の就職が厳しいというが、ここ高雄では景気は向上しつつある。若者の参加者が少ないとい
っても、私たちのグループは二十人ぐらいで一緒に参加している。陳水扁総統の再選のため
に若者として協力したい思いでいっぱいだ」

張簡天祥さん(24)男性 高雄市在住
「若者は先回の総統選で民進党に対する理想に燃えて支持したが、その後の原発問題での曖
昧な対応、経済政策などで民進党に失望している。私より熱心な民進党支持者の友人も、民
進党を支持していない。国民党、親民党は当然、支持しない。投票に行かない、行っても政治
は変わらないとみんなあきらめているのが正直な気持ち。就職を控えている若者は景気が良く
ならなければ、政権党への評価がない。民進党は言っていることとやっていることが全然違う
ことがわかり、がっかりしている」
「陳総統の演説はこれまで何度も聞いているが、今回のように参加者に対して住民投票が必
要か、新憲法制定が必要か、直接尋ねて同意を求めるような講話をしたのは初めてだ。今回
の演説は台湾総統としての立場で話しているとは到底思えない。むしろ、民進党主席として民
進党党員に話していると感じた。総統選に向けてかなりあせりを感じているようにも思えた」

天天写楽
独立志向を鮮明にする陳総統 台湾(03年10月25日記)

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