台湾独立か中華民国存続か 台湾総統選
対中政策の違い、勝敗の鍵に

守りの連氏、攻めの陳氏

住民投票、外圧に屈せず
28日の集会、流れ変わるか
浮動票次第、一騎打ちの攻防

 三月二十日投開票の台湾総統選挙は六日、立候補受付が終了し、再選を目指す与党・民進党の陳水扁総統(52)と呂秀蓮副総統の現職ペアと政権奪還の雪辱を期す最大野党・国民党の連戦主席(67)と第二野党・親民党の宋楚瑜主席(61)の野党統一候補ペアの一騎打ちが確定した。陳総統は李登輝前総統から引き継ぐ台湾独立路線を鮮明にし、連主席は中台共存による現状維持を優先、両者の対中国政策での違いが勝敗の鍵となっている。
(台湾で、深川耕治=2004年2月13日記)



   連戦氏   陳水扁氏   宋楚瑜氏   呂秀蓮氏 (撮影はすべて深川耕治)


 「前回の選挙の延長戦なら、単純に野党統一候補が勝てる。だが、先回の宋楚瑜支持者は前回の選挙で宋が台湾省長時代の恩義を全部返したので今回はその票の何割かが陳水扁陣営にも流れ、終盤で波乱もありうる」――。連戦支持の古い国民党員は選挙上手の民進党の追い上げにもう一波乱が起これば、辛勝で乗り切れるか、不安を残しながらも「逃げ切って辛勝できる」との見通しを語った。

表1・2000年台湾総統選挙結果
候補者  陳水扁    宋楚瑜    連戦     許信良  李敖
得票数  4,977,737  4,664,932  2,925,513  79,429  16,782
得票率  39.3%     36.8%     23.1%     0.6%    0.1%
(有権者数 15,462,625人,投票率 82.7%)


 先回の総統選では、国民党が分裂し、宋楚瑜氏が国民党から出る形で連戦氏と宋楚瑜氏が対立。漁夫の利を得る形で陳氏が辛勝した
(表1参照)。今選挙では早くから国民党と親民党が共闘を組み、連宋コンビは陳呂コンビに比べ、当初は支持率が一〇ポイント以上リードしていた。だが、各種世論調査ではその差はじりじり狭まってきており、台湾紙「連合報」の最新世論調査によると、連宋ペアの支持率が四〇%、陳呂ペアが三六%で僅差。態度保留が二四%で、浮動票の取り込みが勝敗を決することになりそうだ。

 四年前の総統選に比べ、若年層を中心とする熱狂的な「阿扁(アピエン=陳総統の愛称)人気」は影を潜める。原因の一つは民進党政権樹立以降、台湾経済は低迷し、失業率も高まって就職難となり、景気回復が遅れて熱狂的支持者が失望したこと。もう一点はクリーンさを売り物にした民進党政権でも与党系の地方自治体での汚職事件が絶えず、黒金政治(ブラックマネーとマフィアが癒着した政治)の一掃がなされていないとの不信感だ。

 弁護士出身が多い民進党の体質は「経済政策に弱いが選挙戦術に長けて黒金政治打破への決意は揺るぎない」(民進党支持者)と期待されていただけに若年層の民進党支持者が政治不信で投票に行かないムードが漂っている。

 最近では石油化学や繊維業の大手、東帝士(トンテックス)グループの陳由豪元会長が陳総統に多額の献金を渡したとする疑惑が浮上し、陳総統側は完全否定しているが、連合報の最新世論調査では「陳総統は黒金政治を一掃していない」と答えた人が五一%、「一掃した」と答えたのは三一%。前回の総統選直前では「一掃できる」が四五%、「一掃できない」二八%であったことを比較しても不信感の高まりを示している。

 巻き返しをめざす陳呂ペア陣営は対中政策で攻めの姿勢に転じた。昨年十月、高雄で「台湾正名」(中国の名称をやめ、台湾の名称を使う)運動による二十万人規模のデモを行い、新憲法制定を〇八年の総統選直後に施行することを表明。〇八年の北京五輪、一〇年の上海万博を控え、中国が国際世論を配慮して台湾に手出しできない絶好のチャンスととらえ、台湾の体制を中華民国体制から限りなく台湾独立に近い状況にシフトしたい思惑が台湾本土派を鼓舞させている。

とくに総統選と同時に行われる住民投票の行方が注目の的だ。投票の設問内容は@中国が台湾向けミサイルを撤去せずに武力行使を放棄しなければ、ミサイル防衛装備の購入増と自衛能力強化を行うA中国との対話再開、中台間の平和的枠組み構築を進める、の二点を問う。対中国のミサイル防衛強化の是非を問う内容だけに結果次第では反中感情をバネに独立志向を強める対中国政策の大きな転換点となりうる。

 住民投票に対しては温家宝中国首相の訪米、胡錦濤中国国家主席のフランス訪問などで米日仏などが反対を表明し、外交圧力が強まったが、陳総統は動じなかった。野党との対中政策の違い
(表2参照)で最後の「賭け」に出たからだ。

 台湾行政院(内閣)は初段階として、九百万冊の啓蒙パンフレットを有権者に配布予定。パンフには「ミサイル防衛強化に反対する票や棄権票が賛成票より多い場合、中国に誤った情勢判断を与え、戦争勃発を誘因させる」と警鐘を鳴らし、「自国は自国民が守る」との国防意識のコンセンサスができれば、中国に対して対等な平和的対話交渉が可能との意図を強調している。

 急追しながらも接戦を制するところまで支持率が上がらない苦戦の陳総統に対し、終盤の妙策で全面支援するのが李登輝前総統。一日、台南県で台湾独立派の住民約七万人を集めて手をつなぎ合い、約六〇`の人間の鎖を作って中国の台湾向けミサイル配備に抗議する集会を自らの主導で開いた。

 二十八日には百万人を集めて台湾本島の南北を人間の鎖でつなぐ大規模集会を開き、台湾本土政権の継続を訴える。同日は一九四七年二月二十八日、本省人(戦前から台湾に住んでいる人々)の民衆抗議デモに対して国民党が軍隊を投入して弾圧し、約三万人が虐殺された事件の記念日で台湾独立志向の機運を一気に盛り上げる狙いがある。

 李前総統は九日、「国の強化(の必要性)を共通認識することが台湾を救う第一義。親中国派の野党側の人物が旧来の観念で台湾人をだまそうとしても、そうはさせない」と連宋コンビを厳しく批判。全人口の八五%を占める本省人に「台湾化」を強調し、勝ち馬に乗る流れを終盤で醸成しようと「仕掛け」を作り、必死の追い上げを見せている。

表2・陳氏、連氏が掲げる主要政策

【陳水扁氏】

中台は「一辺一国(それぞれ別の国)」の関係。小三通(台湾が支配する大陸沿岸の金門、馬祖両島に限定した中台間の通信、通商、通航)の中台直航を大幅緩和し、04年末までに中台直航便を実現。中台の代表事務所の相互開設、海域共同開発や合同犯罪捜査の推進を行う。非武装地帯(DMZ)の設置による兵器や部隊撤退と中立的な監視組織設置。今回の住民投票施行を機に06年には新憲法制定のための住民投票実現。

【連戦氏】
統一、独立のいずれも反対し、主権独立国家「中華民国」護持。当選すれば総統就任前に中国訪問、両岸共同市場の建設で平和協議へ。ミサイル配備凍結、海空の直航便実現、自由貿易協定(FTA)締結、平和協議実現などの五段階の和平ルートマップ提案。台湾側の金門県と中国福建省アモイを両岸平和実験区に提唱。陳総統が実施する住民投票は違法なので反対。中華民国の主権を守りつつ05年に新憲法制定をめざす。


資料 台湾紙「連合報」による総統選の最新世論調査動向
この結果では、かなりの接戦。守りの連戦・宋楚瑜ペアが攻めの陳水扁・呂秀蓮ペアに急追されつつある。終盤、勝ち馬に乗ろうとする台湾人有権者の浮動票の行方が勝敗を決めそうだ。




資料 台湾紙「りんご日報」による総統選の世論調査の動向
この結果では、明らかに連戦・宋楚瑜ペアの圧勝ムード。
結果は総統選開票を見なければ分からない。