連載 北京五輪と中国



 連載 変わりゆく香港「一国二制度」10年の実験
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北京五輪と中国 (2)

大気汚染と“新四害”に挑戦

中産階層も週末は郊外別宅で

picture 大気汚染で遠方が霞(かす)み、渋滞が続く北京の幹線道路

 北京市中心部の住宅地やマンションを見ると、例外なくベランダがない。北京の日系企業に一年勤める水野歩さん(26)は「大気汚染がひどい北京の建物では、物を干すのも室内だけ。北京に十年住むと、正常な肺でも中は真っ黒になるといわれていて、このまま北京勤務が続けば五十歳ぐらいで早死にすることを覚悟しています」と話す。最近、北京に出張で来る日系企業の幹部らも排ガスの影響で三日間でも耐えられないと愚痴をこぼすことが増えたという。

 北京五輪は「グリーン」「人文」「ハイテク」が三大テーマ。特に「環境五輪」を最重視し、北京市は五輪開催が決まった二〇〇一年から本格的な大気浄化や緑化に取り組んできた。

 香港出身の客家人、高興業さん(35)は英国に住みモルガン・スタンレー社に勤務していたが、退職し、北京で語学留学の日々を過ごす。「北京の大気汚染は深刻。香港も大気汚染がひどいが、香港は北京五輪乗馬競技が行われることで環境問題は北京と対比されて逆に評価されるのではないか」と苦笑いする。

 「英国の北京五輪出場予定選手は、北京の大気汚染のひどさで成績に悪影響を与えないため、コーチらの指導で直前まで大阪で合宿訓練し、北京滞在時間をできるだけ減らしている」とも言う。ソフトボールの女子日本代表は当初予定していた北京での直前合宿を取りやめにしている。

 北京の大気汚染の要因は、急増する自動車の排ガスとされる。北京の交通事情を見ると、公共交通システムの整備が十分とは言えず、交通渋滞の中で決まったルートしか行けないバスや混雑する地下鉄を利用するよりも渋滞を避けやすい自動車で移動する方が格段に便利である。

 北京市内の自動車登録台数は約三百七万台。北京市政府は一九九八年以降、千二百億元(一兆八千億円)を投じ、二酸化炭素(CO2)削減のためのクリーンエネルギー普及に取り組み、着実に効果は上げているが、急増する自動車台数で排ガス規制の相対的な効果は鈍ってきているとの指摘もある。

 八月十七日から四日間、北京市内はプレートナンバー末尾が偶数の車と奇数の車を一日置きに通行禁止とし、空気浄化の改善効果をチェックした。四日間は通常の四割以上の車両が運行禁止状態となり、朝晩の交通ラッシュがほとんどなくなった。いつも自家用車を使っている日本人駐在員も「この期間は子供たちが夏休みなので、仕方なくタクシーで北京郊外に家族と日帰り旅行した」と話す。

 老北京(北京に長年住んでいる人々)の中産階層は口をそろえて「週末は郊外でゆっくり過ごす。都会の喧噪(けんそう)を離れて新鮮な空気を思いっきり吸ってリフレッシュするためだ」と話す。北京市中心部に住む邵小穎さん(53)は毎週末、郊外に中古で購入したマンションで過ごしている。「郊外には外資系のスーパーが次々とオープンし、都心部での生活と変わらない便利な生活ができる。エアコンの利かない地下鉄、ぎゅうぎゅう詰めのバスでの通勤から解放され、自然に囲まれた新鮮な空気が何よりも心安らぐ」と言う。

 北京の地下鉄や公共バスに乗ると、老人が来るなり、必ず若者が席を即座に立って譲る姿が見受けられる。その一方で、公共バスの窓から道路に痰(たん)を吐き捨てる姿や禁煙トイレでたばこを吸う姿も日常茶飯事で、儒教的な高い道徳を持ちながらも公共意識が未成熟な部分も多い。

 中国政府は北京市民のマナー向上のため、「新四害(喫煙、路上での痰やツバ吐き、列への割り込み、大声での下品な言葉遣い)」撲滅キャンペーンを展開している。「四害」は本来、毛沢東がネズミ、ハエ、スズメ、蚊を指した言葉だが、「新四害」は北京市のイメージを損なう非文明的な行為として、マナー向上への市民の協力を求めている。毎月十一日は「整列の日」と定め、割り込みをなくす運動を展開。徐々に効果を表している。

(北京・深川耕治、写真も=07年9月7日記)




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