連載 北京五輪と中国



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北京五輪と中国 (3)

消えぬ“国産”不信の連鎖

人気の日本米「高くても安全」

picture 北京のイトーヨーカ堂亜運村店で売り出された「宮城県産ひとめぼれ」は売り上げ上々

 イトーヨーカ堂(中国名・華堂商場)亜運村店は五輪メーン会場からそう遠くない場所にある。ここでは八月から「宮城県産ひとめぼれ」を売り出し、好調だ。売り出し価格は二キロ百八十八元(一元=十五円)で一般的な中国米が二キロ八―十元前後であることからすると、二十倍近い高さだ。夕方六時半ごろ、売り場に行ってみると、一日で三十七袋、一週間で二百七十六袋売れたという。

 二袋まとめて買った五十五歳の中国人婦人は「日本に短期滞在したことがあるので日本の食の安全性は信頼している。以前、安い中国米を購入して食べてみたら腹痛を起こして大変だったことがある」と話す。

 中国人、特に北京市民の食品衛生観念が大きく変わったのは「二〇〇三年の新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)騒ぎ直後から」(北京在住歴三十年の銭小生さん)だ。北京市民は市政府の話が頼りにならず、ありとあらゆるものを徹底消毒する以外に感染防止の手だてがなかった。人前で咳(せき)一つできず、通りから人が消え、水や食料も買いだめしたり、配達後に消毒し直す繰り返し。当時、北京在住の欧州人だけが平気で通りを歩き、奇異に見えたという。

 新型肺炎騒ぎで消費観念が大きく変わったのは富裕層と中流層だ。富裕層は「安全はカネで買うもの」との意識を強め、海外ブランドの食品を買い集める傾向をいっそう強めた。中流層、特に知識層はカルフールやウォルマートなど、外資系スーパーの食品を好んで購入し、安全な食品を購入しようとの意識が高まった。

 ただ、貧民層が、できる限り安い食品を買おうとすることは変わらない。地方の農民や大都市に出稼ぎに来ている農民工らは、ブランドとノーブランドの安全性の違いが分からない。北京五輪の偽キャラクターグッズなど偽造品を路上で平気で買う、という。

 国際的批判が集中する中国食品や製品の安全性について中国政府は信頼回復キャンペーンを展開して巻き返しを図っている。

 記憶に新しい段ボール肉まん事件は、その真偽は別にして、都市部に住む農民工ら低所得者層の消費心理を示す象徴的事件だ。複数の北京市民に話を聞くと、一様に事件は本当で、やらせ報道だったことを信用していない。〇三年のSARS騒ぎで北京市政府が情報を隠蔽(いんぺい)した不信感が根強く残っているからだ。

 「段ボール入り肉まん」事件がやらせ番組であったと公表された中国の北京テレビだが、毎日、「我愛北京」という北京五輪に向けた公衆道徳啓発番組も制作して放送している。例えば、北京市内でゴミが落ちていないきれいな場所ベスト10を投票で決めたり、洪水被害で交通事情が悪い場所を指摘したりしている。

 さらには、「タクシーに乗るときは並んで順番に乗ろう」運動を展開。スタッフが、列に並ばないで勝手にタクシーを拾おうとする市民に「並んでください」と声を掛けると、素直に聞き入れる人、怒鳴っていなくなる人、「当然やるべき市民の道徳だ」と賛同する人など、十人十色。その反応をテレビカメラで撮影し、紹介している。

 やらせ番組が事実ならばテレビ報道の信頼性を失墜させる深刻な事件だが、一方で文明意識を高める啓発番組を隠し撮りしながら制作している。アングルや手法は欧米に似ており、北京市民にとっても刺激的だ。視聴率の高い番組の一つといえる。

(北京・深川耕治、写真も=07年9月8日記)




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