中国企画記事 2007年6月29日記


少年らを人身売買、強制労働−中国・山西省の違法れんが工場

 中国各地で拉致・誘拐されたり、巧みにだまされて河南省鄭州に集められた一千人以上の少年たちが、山西省臨汾市周辺の違法れんが焼き工場で強制労働させられた上に虐待を受けていた――。この事件は、深刻な人権蹂躙(じゅうりん)問題として内外に波紋を広げている。九月の第十七回党大会、来年八月の北京五輪を控え、和諧社会の実現とはほど遠い弱者を食い物にする「奴隷工場」事件は、貧富格差拡大の歪(ゆが)んだ中国社会を映す鏡となっている。
(深川耕治)


家族の必死の告発ネットに

地元メディアも動かす

仲介業者は失跡、解決には程遠く

picture 于幼軍・山西省長

 誘拐された少年たちは一人五百元(約七千五百円)で地下れんが工場へ人身売買され、大部分が食事も十分に与えられないまま一日十五時間以上の労働を強いられていた。仕事ぶりが悪いとすぐに恫喝(どうかつ)されて、やけどを負わされたり、鉄製器具で縛られて監禁されたりする“生き地獄”。最年少は八歳で、知的障害者も含まれていたことから「奴隷工場」と中国メディアは表現した。

 救出された十七歳の少年は両足が変形し、体中に大やけどを負った状態で、同じ工場内には少年たちが殴打されて負傷した後、生き埋めにされたケースもあったことを証言している。

 同事件が問題化したことを受け、十五日、温家宝首相らが徹底解明を指示し、現段階で救出・解放された少年を含む出稼ぎ労働者は三百五十九人で五万人を超える強制労働者のうち1%に満たない。当局が再検査したれんが焼き工場三千三百四十七カ所のうち、約三分の二に当たる二千三十六カ所が無許可営業で税務登記書もなく、違法に農民工(出稼ぎ農家)五万三千二十六人を長期間にわたって強制労働させていたことが判明。違法なれんが焼き工場での未成年の強制労働に対して見て見ぬふりをしてきた地元政府の腐敗、汚職構造が浮かび上がってきた。

 二十二日、労働保障省の孫宝樹次官は「少数の地方幹部らが違法れんが焼き工場の生産活動に関与して職権乱用による不法利益を貪(むさぼ)っている」と闇れんが工場経営者と地方幹部が結託して人身売買、強制労働を行っていたことをついに認めた。

 ネット上で中国政府へ不満の矛先が出始めていることに対しても、「農民工の合法権益を侵犯する官僚の職権乱用に対しては厳粛に法律に則(のっと)り断固取り締まる」と中央政府への批判を必死にかわそうとしている。

 少年の強制労働が日常茶飯で行われていた山西省永済市では、批判が厳しくなる中、市当局がようやく重い腰を上げた。十七歳の少年が強制労働させられていることを調査チームが把握し、仲介ブローカーを通して農村の党支部書記や村委員会主任を芋づる式にあぶり出し、失職させた。しかし、地元民は「十数年の公然の事実を見て見ぬふりをしてきたのは政府」と自己保身だけで動く地元政府の“捕り物劇”に極めて冷ややかだ。

 実は同様の奴隷工場事件は、十年以上前にも山西省の違法れんが工場で行われていたことが地元メディアを通して発覚。また四年前にも表ざたとなった。

 その後も現地では公然と行われ続け、地元政府官僚が賄賂(わいろ)を受け取ることで隠蔽(いんぺい)し続けていた。闇れんが焼き工場は過去十年間、山西省全域だけでなく、河北省定州、河南省武陟、山東省臨清、広東省恵州に至るまで全国各地に広がっており、山西省特有の事情とはいえない全国規模のものだ。

 今回、同事件が中央政府の指示で徹底した対策が取られたきっかけは、拉致被害者家族の子供救出への死に物狂いの努力だった。特にネット上の呼び掛けと現地捜索、それに地元メディアの後追い報道が国内ネットで反響を呼んだことだ。

 山西省のれんが焼き工場事件とは別に二〇〇〇年から〇四年までの期間、雲南省昆明や広東省内で三百五十人を超える児童が突然行方不明になり、家族らが自発的組織を結成してネット上で人身売買された子供の救出を呼び掛けた。

 同時に山西省の事件の被害者父兄ら四百人もネットフォーラム「大河論壇」で救出を呼び掛ける声明を出し、国内のネット掲示板で大反響をもたらして国内メディアも大きく報道し始めた。ここ数年、中国のネット社会の急速な普及・発達が国内世論の同情と義憤を呼び起こし、功を奏した形だ。

 国内メディアでも「少年強制労働事件が発覚した洪洞県政府は毎年罰則規定が発表されるだけで、闇れんが焼き工場から賄賂をもらっており、地元派出所は五万二千元を上納しても大部分は領収書すらない」(第一経済日報)、「公務員法に基づいて関係者が失職するのは容易だが、こんな重大な事件でなぜ監督責任者の辞職がないのか」(大手ウェブサイト「紅網」)など、山西省政府幹部への責任論が噴出し始めた。

 新華社電などによると、于幼軍・山西省長は二十二日の記者会見で被害を受けた労働者やその家族にようやく謝罪。しかし、発覚を恐れるれんが工場の経営者らは強制労働をさせていた少年を含む労働者を別の場所に移したり、自ら失跡するなど、あの手この手で罪状を隠蔽している。

 また、中国誌「民主と法制」によると、十六歳と十七歳の少女が〇四年の旧正月、陝西省安康市内で誘拐され、河北省臨西市内の闇れんが工場で男性同様の強制労働をさせられた上、夜は出稼ぎ農民を相手に一回五十元(七百五十円)で売春を強要させられていた。事件は昨年発覚したが、現在も現場監督の責任は問われていないままだ。

 劉山鷹中国社会科学院政治学研究所研究員は「山西省の事件は中央と地方間の政治失態であり、中央の命令が形骸(けいがい)化し、無力化していることを示している。地方政府が独立王国化することに歯止めを掛けるため、中央政府は権威を高め、規律検査、環境保護、会計監査部門に関しては中央が直接管理することが重要」と歪んだ利権を防止するために地方自治の権限縮小による政治改革を訴えている。