香港企画記事速報
2006年10月19日記

尖閣諸島へ上陸、10月22日出航へ 香港保釣行動委
反日盛り上がらず資金不足深刻
日中首脳会談で反日気運沈滞
漁船1隻、経営難で出航断念
台湾総統の辞任カンパを模倣
「中華民族の領土」を鼓舞
中国政府冷ややか、圧力も


 
八日に行われた日中首脳会談を機に「政冷経熱」だった両国関係が「戦略的互恵関係」の再構築に動き出す中、香港や中国の反日団体が路線転換を迫られ、中国当局の圧力と資金不足で活動が低迷している。香港の反日団体「保釣行動委員会」(柯華主席)は八月十五日に尖閣諸島(中国名・釣魚島)へ漁船で上陸する計画を中国当局の圧力で延期し、今度こそ十月二十二日に出航すると発表。だが、昨年の反日デモの盛り上がりは冷め、中国当局との温度差は開く一方で、台湾総統の辞任要求デモでの募金活動に似せた一口二十香港ドル(三百円)募金活動を展開しても反応は冷ややか。安倍新政権誕生による反日気運の衰退は、尖閣諸島領有権をめぐる民間抗日団体の活動に微妙な影を落とし始めている。(深川耕治、06年10月19日記)


 保釣(釣魚島防衛)行動委は十七日、香港で記者会見を開き、尖閣諸島が中国領であると日本政府に抗議するため、二十二日午後に香港から漁船「保釣2号」一隻を出航させ、尖閣諸島上陸をめざすことを発表した。保釣2号は台湾経由で台湾の抗議船二隻と合流し、尖閣諸島付近に二十五日前後に到着後、水上スクーターや小型モーターボートに分乗して日本の海上保安庁巡視艇の監視をくぐり抜けて上陸する計画だ。

 同行動委の柯華主席は「安倍首相の訪中で緊張状態にあった中日関係が表面上はゆるみ始めているが、安倍首相は小泉前首相よりも右派寄りであり、いまこそ釣魚島上陸のタイミングとして適当だ。日本の右翼民族主義の立場に少しの変化もないことを中央政府や全世界の華人に行動で訴え、覚醒させたい」と話す。

 今回の尖閣諸島上陸活動は民主党の何俊仁立法会議員が総指揮を執り、香港から保釣2号に乗船する四十人のうち約半数が初めての抗議船乗船となる。主要メンバーは柯華主席、劉夢熊顧問をはじめ、過激な民主活動家で知られる「四・五行動」の梁国雄立法会議員、朱幼麟・全国人民代表大会香港地区代表などが含まれる。

 総指揮を執る何議員は「今回参加するメンバーには理性的、平和的な行動を守り、いかなる状況下でも武力と暴力を用いず、法律を遵守して人に危害を加えないとの誓約に署名、承諾している」と述べ、今回の抗議船行動の支出総額は三十三万香港ドル(四百九十五万円)に上ることを明らかにした。乗船メンバーは二十二日午後二時(日本時間同三時)にチムサーチョイのフェリー埠頭で壮行会を行った後、出航する。

 当初、同委は八月十五日、小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝に合わせ、「終戦記念日に尖閣諸島へ漁船二隻で航行、上陸する」と発表していたが、中国広東省汕尾市馬公鎮の港で補修作業に出していたトロール船「保釣2号」が修理完了後も中国税関当局から申請書類不備を理由に出港許可を出さず、中国当局から事実上、延期させられた。

 保釣行動委員会は十年前の一九九六年九月二十三日、初めて香港から尖閣諸島に向けて漁船「保釣号」で出航し、同二十六日、尖閣諸島への上陸を日本側から阻止され、抗議行動として同メンバーの陳毓祥氏が海に飛び込み、溺死。同十月七日、香港保釣行動委と台湾の団体が再び尖閣諸島への上陸を目指し、数十隻の船がゲリラ的手法で海上保安庁の船による阻止を受けながらも一隻だけが尖閣諸島に上陸した。

 溺死した陳氏を追悼し、上陸十周年を記念するため、同委は今年九月二十六日までに尖閣諸島上陸計画を実現しようとしたが、九月二十日の記者会見で「十月末までに航行・上陸する」と再び延期を発表。九月に入ってようやく「保釣2号」が汕尾港から香港に帰港し、同二十二日、尖閣諸島上陸用の漁船「釣魚台2号」と「保釣2号」の船内を地元メディアに公開し、同二十五日夜の陳氏追悼集会を香港で細々と行うに留まった。しかも、最終的に資金不足を理由に保釣2号一隻での航行を余儀なくされる決断を迫られた。

 転機は安倍新首相の誕生だ。靖国神社参拝を堂々と参拝した小泉純一郎前首相が香港や中国の抗日団体にとって非常に単純明快に中国人の立場から批判できやすく一般国民へアピールしやすかったのに比べ、安倍晋三首相は「靖国神社に行くとも行かないとも言わない」とのスタンスを貫く「曖昧模糊戦術」(香港紙「東方日報」)で小泉首相時代のようにストレートな“日本首相叩き”ができない状態に陥ったことも抗日団体の動きを鈍らせ、資金不足に拍車をかけた。

 実際、香港保釣行動委は小泉前首相の靖国参拝批判を声高に批判し、昨年四月十七日に香港で行われた一万二千人規模の反日デモでは“反日バブル”ともいえる募金が集まり、今年八月十五日の小泉首相の靖国神社参拝前後に再び反日気運が盛り上がると、香港政財界からの個人カンパが増えた。しかし、安倍首相に対しては首相任期中の参拝は未知数であるために反日のスケープゴードにはなり得ず、募金の集まりも激減している。

 保釣行動委によると、尖閣諸島上陸実現には百五十万香港ドル(二千二百五十万円)の資金不足。台湾総統の辞任要求デモを主導した施明徳元民進党主席が「一人百台湾元(約三百五十円)募金」を呼びかけて募金額が一億九百万台湾元(約三億八千万万円)を超えた成功例を模倣し、香港人五万人から一人二十香港ドル(三百円)の募金を集めて海外の華人からも募ろうとしているが、政治的関心度は低く、目標達成には遠く及ばない状態だ。

 「釣魚島は中華民族の領土」と内外に訴えながら上陸計画を決行することで中国人の民族領有意識を奮い立たせ、存在価値を高めようとの狙いもあるが、実際は、八月十五日の計画実行を延期したことでタイミングを逸し、資金難から漁船二隻での航行を断念。微妙な「冬枯れ」の時期に直面しつつある。

 一度しぼんだ反日気運が再び高揚する動きは見られない微妙な時期にあえて尖閣諸島領有権の問題を声高に行動に移しても日中双方に益はなく、中国側が打診する共同開発案もさらに現実味はさらになくなりそうだ。