深川耕治=2008年2月1日記

中国メディア批評 独自コラム



 連載 変わりゆく香港「一国二制度」10年の実験
 激戦・台湾総統選2004
 ルポ コピー天国・中国


春節帰省ラッシュに豪雪の壁
憤怒表す住民の声は香港メディアのみ

温首相の地方視察奮闘ぶりで沈静化 中国メディア
北京五輪へ危機管理の甘さ露呈


 「帰省したい。帰省しないといけないんです」。上海浦東空港で4日間も足止めされた若い女性が繰り返し連呼しながら涙を流して訴える映像が1月29日、香港のテレビ局ATVや香港有線テレビで流れた。不満がピークに達した帰省客らが警察官と小競り合いになる映像も放映された。

 中国の今年の春節(旧正月)は2月7日。10日前ぐらいから1年に1度の帰省を始める農民工(出稼ぎ労働者)や一般労働者は先を争って帰省の途につこうとしていた矢先、50年ぶりの豪雪は行く手を阻んだ。

 送電線も断絶した。停電被害が深刻だった貴州省貴陽市は交通要衝の信号機が止まり、水道凍結も深刻化して高層アパートのエレベーターも停止。省政府ビルも停電した。連日ろうそくを灯す住民の生活は「死城(死んだ都市)」(香港紙「明報」1月31日付)と大見出しで掲載するほどだ。

 1月29日に湖南省長沙市を訪れて豪雪の被災地を視察した温家宝首相は1月30日、列車待ちの帰省客約50万人でごった返す広州駅を訪れた(写真左)。中国中央テレビ(CCTV)では温首相が拡声器で駅構内の人々に慰問の言葉をかけるシーンなどが紹介され、現場にいた帰省客は「首相を目の前で見ることができて心が安らいだ」と感極まって感想を述べるなど、実際には不満が渦巻く帰省客大多数の心理とは裏腹に中央政府が豪雪対策に奮闘している部分だけがクローズアップされる国内メディアの統制ぶりだ。

 1年に1度、家族と再会できる帰省を待ちこがれていた出稼ぎ農民にとって春節前の帰省の道が閉ざされた失望感は想像するに難くない。広州では温首相が駅構内で寝泊まりする数十万人(写真右下)の人々に飲料水や保温用品を支給したり宿泊場所をただちに確保するよう指示する一方で、広東省政府は出稼ぎ労働者らに対して広東省に留まって春節を過ごすよう呼びかける公開書簡を発表。まるでアメとムチのような措置で、一触即発の帰省客の不満は温首相の突然来訪でガス抜きされながら再び高まるという状態だ。香港のテレビ局による広州での現地報道では駅構内で先を争う帰省客らが将棋倒しになる事故も頻発していることを克明に紹介している。

 香港メディアが広東省各地で現地取材して実情を紹介しない限り、地方の現状は中国国営メディアによる統制で見えにくい。最近は欧米メディアも克明に豪雪での危機管理能力欠如を浮き彫りにする現実を伝え始め、超格差社会に陥る中国の貧民層の悲哀や不満を報じるケースが増えた。

 いずれも八月開催の北京五輪が、こんな危機管理能力の欠如で本当に開催できるのか、と問い続けている。北京五輪の期間は豪雪は起こらないが、豪雨による洪水被害が中国各地で予想される事態。交通網が天候次第で大きく混乱する中国の現状は海外メディアが北京五輪で殺到する時期、隠しようのない現実としてさらされることになりそうだ。

 1月31日、胡錦濤国家主席は山西省大同と河北省秦皇島の炭鉱を視察。地下400bの採掘現場で労働者を激励する姿が中国中央テレビで放送された。その背景は、雪害で鉄道網が寸断され、国内電力の約8割が鉄道輸送による石炭依存であることから、火力発電所の発電力激減で日系メーカーを含め、各地の工場は一時停止を迫られてエネルギー危機に直面していることに親民路線で党指導部の求心力を保持したい焦りの裏返しだ。

 人民解放軍40万人以上が除雪作業に動員される非常事態となり、2月1日までに雪害による死者は60人に達し、春節前後には国内でのべ2億人近くが移動する時期と重なり、出稼ぎ労働者たちの不満爆発を押さえ込むだけで精一杯という状況だ。

 日本の中国製冷凍ギョーザ中毒問題も今月1日になってようやく中国各紙で報じ始めたが、雪害対策報道に比べれば非常に小さな扱い。「食の安全」を根幹から揺るがす中国食品への信用失墜が再び悪夢のように国際的に浮上しているにもかかわらず、国内問題と切り離し、いや、それどころではない雪害被害を通したエネルギー危機、農民工の不満増大は国内メディア規制なしでは乗り切れない綱渡り状態が続いている。(深川耕治=08年2月1日記)



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