中国企画記事 特選

2004年10月26日記

民工の賃金未払い、争議が頻発 中国広東省
「民工荒」が深刻化、対策後手に/専門弁護士も出現、不満削ぐ
過酷な労働条件で「民工」不足に/懲罰含む法整備、効果は未知数
当局、社会不安沈静化に躍起
 中国広東省の香港系メーカーなどで最近、「民工」(農村からの出稼ぎ労働者)による賃金未払いなどの抗議行動が頻発している。企業側は法令の最低給与基準を大幅に下回る賃金しか支払わず、残業に次ぐ残業で過酷な労働条件を強制した上、民工が不満を抱いて抗議行動を起こせば解雇するケースが急増。結果、民工が就職先を選別して慢性的な労働力不足が続く「民工荒」現象が地元政府の新たな難題として大きく立ちはだかっている。(04年10月26日記、中国広東省深センで、深川耕治、写真も)


 国慶節(建国記念日)の最後の祝日である10月6日午前、広東省深セン市福田区の香港系電子部品メーカー工場「美芝海燕電子」の前にある幹線道路は、同社で働く民工約三千人が不当な低賃金抗議のために立ちつくし(写真右)、約四時間にわたって不通状態となった。渋滞した車列は十`近くに及び、クラクションが鳴り続ける周囲は騒然とした。

 中国の労働法では、深セン市経済特区内の企業が社員に支払う最低月給が六百十元(一元=十三円)だが、同工場では二百三十元。毎日十二時間の過酷な労働時間以外に残業する場合、時給わずか二・一元しか支払わず、労働法の超過勤務規定に違反していた。民工たちは繰り返し、法令違反を是正する待遇改善を会社側に求め、市政府労働局や「工会」(労働組合)に是正を要求したが、梨のつぶて。

 工場長が「十数年前に香港の親企業との取り決めで決定した賃金基準を続ける」と突っぱねるだけで改善されず、「耳目を集める派手なストをやる以外に改善は見込めない」(同社員)と袋小路状態になった民工らは会社前の幹線道路に立ちつくす抗議活動で交渉の最後の望みを託したのだ。

 騒ぎで現場にかけつけた同市幹部は、地元公安当局や武装警察による強制排除も考慮しつつ、立ちつくす民工らが企業の法令違反に抗議する正論に冷たく無視し続けていた地元政府への不満が拡大することを恐れ、工場幹部に対して労働待遇の改善を確約するよう説得。最終的に工場側は労働法に準拠した賃金を九月分から支払うことを決定し、民工たちの決死的な抗議活動はようやく幕を下ろした。

 第六回ハイテクフェア(写真左)を終わったばかりの深センでは今年上半期、三十人以上の大規模な労使紛争が前年同期比一二%増の五百十二件に上り、同市苦情処理弁公室が受け取った労使問題に関する陳情書は賃金未払いや超過勤務など前年同期比一三・六%増の四万一千通に上った。四日、同市竜崗区の香港系プラスチック製造メーカーでも一方的に不当解雇された民工約三百人による抗議行動が起こって地元警官とのつばぜり合いもあり、立て続けの大規模抗議に深セン市政府は強い衝撃を受けたと見られる。

 深セン市では「従業員給与支払い条例」を一日から施行。給与未払いに対して労働部門の命令する期限内に全額支払えば未払い分の二五%を賠償金として支払うことが義務づけられ、支払わなかった場合は一万元以上五万元以下の罰金を科すことになった。労働部門は労働者から陳情を受けた場合、三十日以内に処理することも盛り込まれ、今回の騒動も見て見ぬふりだった市当局がようやく条例を遵守するようになったに過ぎない。

 中国政府はこれまで「民工潮」(農民の出稼ぎ現象)に歯止めをかけるため、「離土不離郷」(農業は離れても土地は離れられない)政策を取り続け、中国経済を下支えしてきた約一億二千万人に上る民工を戸籍上、都市住民と差別し、農村戸籍のままの外来人口として虐げてきた。最近では地元政府が民工を市の人民代表(市議)や労働模範に選ぶなど、不満暴発防止のために差別見直しの柔軟政策を取り始め、工会に加入させる動きも広がりつつあるが、国有企業の「工会」は有名無実化しており、民工の不満を削ぐのがやっとという程度だ。労働力不足をもたらす「民工荒」は矛盾をはらむ改革開放政策の歪みといえる。

 一方、民工の不当就労問題を告発する専門弁護士として「民工弁護士」と呼ばれる周立太氏(写真左)は10月12日、広東省恵州市内にある香港系の電池製造メーカー二社に勤める民工六十五人が職業性慢性マンガン中毒になったとして損害賠償金一千五百万元(一億九千五百万円)を求める民事訴訟を彼らの代理人として恵州中級人民法院(地裁に相当)へ起こした。

 中国で社会的弱者層に入る民工は労使関係でもきわめて弱い立場にあり、企業側は労働法を空文化させるような賃金未払いを平然と行い、企業収益に伴う経済成長率が評価される地方政府も見て見ぬふりをしてきた。不満が爆発寸前の民工たちは労働ボイコットや座り込み抗議などで抵抗したが、労使交渉による労働待遇改善に好影響は与えなかった。

 そこで、周氏のような「民工弁護士」が各地の民工の不当就労問題を取り扱い、労働上の被害を受けた民工たちと訴訟の打ち合わせをきめ細かくしながら告訴するケースは徐々に増えてきている。

 周氏は1996年以降、広東省珠海デルタ地帯や国内各地の民工に関する損害賠償訴訟約二千件に関わり、とくに深セン市内の損害賠償訴訟では同市の労働者権益を侵害する問題を浮き彫りにした。訴訟費用や法手続だけで尻込みしていた民工の心強い助っ人となった彼の活躍ぶりは、改革開放政策で急成長する経済特区の歪んだ労使関係の側面を露呈させ、「周立太現象」とまで地元メディアは呼ぶほどだ。

 訴訟を起こされた企業は営業停止処分を受けるなど、周弁護士を「黒律師(ヤミ弁護士)」と揶揄(やゆ)し、目障りな存在として逆恨みするケースも多い。だが、本人はまったく意に介せず、労働条件の是正に向けて断固闘い抜く構えを崩していない。恵州での訴訟は弁償金額が高額で、不満が渦巻く民工らにとっては不当な差別撤廃のきっかけとして捉えており、中国当局にとってもこのような訴訟を受理することは民工を体制内に入れることで社会不安を未然に取り除く狙いがあるとみられる。

 このような深刻な「民工荒」現象に対し、広東省労働保障庁の林王平副庁長は「東莞など広東省内の企業で賃金未払いによる民工不足が起きているというのはごく一部のケース。広東省内の雇用状況に大きな変化はない」と現象自体を否定。

 だが、広東省内の労働力不足に陥っている企業約一千百社の実態調査を行った同庁によると、同省全体に占める労働力不足に陥っている珠海デルタ地域企業は六五%に集中、うち七八%が加工製造業、全体の七六%が香港、マカオ、台湾を含む外資系企業だった。

 とくに月給七百元以下の企業での労働力不足が深刻で、月給七百元以上の労働待遇を保障する企業では労働力不足は解消されており、あくまで、広東省政府としては、労働力不足は給与額次第で、労働争議が起こるのは「給与待遇が悪いごく一部の企業のみ」と主張したいようだ。
セン=土ヘンに川。

【民工荒(min2 gong1 huang1)=出稼ぎ労働者不足 】「民工」(農村の出稼ぎ労働者)が都市部に大量流入する「民工潮」現象が続く中で、雇用側が、民工に残業など過酷な労働条件を強制した上、法令の最低賃金より低賃金しか支払わず、抗議行動を起こせば不当解雇する動きが急増。結果として、民工はより条件の良い職場や他地域へ移動を始め、民工が逆に就業先を選別することで労働力不足が深刻化する現象をいう。沿海部、とりわけ華南地方で同現象が広がっている。