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2013年6月18日記


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元CIA職員の身柄どうなる?
米中ジレンマ 香港の法治判断
 
米国家安全保障局(NSA)による通話記録や電子メールなどの極秘ネット情報収集を暴露した米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン氏(29)が滞在先の香港で米国の身柄引き渡し要求の動きに対して法廷闘争を行う準備を進めている。個人情報保護に極めて敏感な香港ではスノーデン氏の米国引き渡し反対のデモを親中派、民主派の双方が行い、米政府のハッキング行為に不信や反米感情の連鎖が高まっている。(深川耕治=2013年6月18日記)

親中派、民主派とも米引き渡し反対
ハッキング暴露で反米感情高揚


米政府のハッキング情報を暴露したエドワード・スノーデン氏
 告発したスノーデン氏は元CIA職員で、コンサルタント会社ブーズ・アレン・ハミルトンの元契約社員でもあった。米ノースカロライナ州出身で03年に軍隊入隊後、訓練中の事故で両足骨折で除隊。メリーランド大学でNSAの極秘施設の警備員となって以来、NSAと関わりを持ち、CIA職員になった後、07年にジュネーブに派遣され、08年にCIAを辞職。民間業者の立場でNSAと契約し、日本の在日米軍基地でも働き、13年から年俸20万ドルでNSAのハワイ事務所に勤務し、機密文書を閲覧できる立場だった。

 ハワイ事務所で暴露の証拠となる機密文書をコピー後、病気療養名目で3週間の休暇を取り、5月20日に香港入り。米中首脳会談(6月7、8日)直前の6日、英紙ガーディアンとのインタビューや米紙ワシントン・ポストの報道を皮切りに米政府による個人情報収集の暴露を行ってきた。

 13日付の香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、スノーデン氏は同紙に対して米政府が2009年から中国本土や香港がハッキングの標的になっており、NSAが世界各地で行っている6万1千件以上のハッキング作戦のうち数百件は中国本土や香港が対象だとしている。

 香港で行われた民主派のスノーデン氏身柄保護を求めるデモ。900人が参加した
 香港のハッキング目標には香港中文大学や官僚、財界人、学生などが含まれており、さらに多くの米国の監視対象の詳細を同氏が中国政府に提供したり、暴露する可能性もある。

スノーデン氏は「香港を離れる機会は多々あったが、香港の法治を信頼しており、香港に残って法廷で米政府と闘う。自分の運命は香港の法廷と市民に決めてもらう」と述べ、「出境するよう要求されるまで」香港にとどまるとの意向を示した。

 また、「隠れるためではなく、犯罪を暴くために私は香港にとどまって米政府と闘う」と強調。「米政府は先週まで市民の同意を得ないまま、隠れて情報収集作戦を行っていたが、今は違う。社会は説明責任と監督責任を要求されている」と話している。同氏の発言は米中首脳会談で中国側が「中国もサイバー攻撃の被害者」と主張する根拠を裏付けるものになってしまっている。

 スノーデン氏は米国にとって売国の裏切り者なのか、勇気ある告発者か。

 香港で行われた民主派のスノーデン氏身柄保護を求めるデモ。900人が参加した
 米国では国家の安全のためにテロ対策情報収集が個人のプライバシー保護より優先する世論がなお根強い。

 米国と香港の間には犯罪人引き渡し協定があり、米司法省はスノーデン氏の刑事訴追準備を水面下で着々と進めており、香港政府に対して身柄を引き渡す手続きを行う可能性は高い。一国二制度下にある香港政府が中央政府の意向と無関係に引き渡し是非を決定するかどうかは不透明だ。

 ただ、スノーデン氏の読みは香港での法廷闘争で時間稼ぎをしている間に次々と米政府のハッキングを問題化させ、香港の世論を味方につけて裁判を有利に進めたい思惑が見え隠れする。裁判の進展次第では身柄引き渡しが大幅に遅れるだけでなく、中国の情報機関に機密情報が提供される可能性も否定できない。

 香港の梁振英行政長官はスノーデン氏の暴露問題について「法に従って処理する」とだけコメント
 米国人の場合、香港滞在はビザ無しで90日間だが、法廷闘争となった場合、裁判期間は香港に滞在延長できる。米政府が香港政府に同氏の引き渡しを要求した場合、是非を争う裁判は3年前後続く可能性もあり、裁判の期間中は香港のみでなく世界的に注目を集める問題となることは計算済みだ。

 香港では、スノーデン氏の米国への身柄引き渡し問題について立法会(議会)で19日に口頭質疑弁論を行い、論議。親中派の馬逢国立法会議員(香港地区全国人民大会代表)が立法会内務委員会で緊急質疑を提案し、決定した。民主派の民主党や公民党だけでなく、親中派の民主建港協進連盟(民建連)も香港政府に徹底調査を要求し、米国政府に対しては事実ならばハッキングの停止と入手データの破棄を求めている。

 曽●(金ヘンに玉)成立法会主席(議長)は「米国が香港にスノーデン氏の身柄引き渡しを要求した場合、法治を非常に重視している香港では法によって事務処理する」と話し、引き渡しに対して合法処理する立場を示している。

 一方、スノーデン氏が暴露した米政府による香港でのハッキングについては、「対象は数十万台のパソコンにアクセスできるインターネットの中継機」と語っているため、1995年に開設された香港の各プロバイダーを一括管理する香港インターネット交換センターを狙ったものだと見られているが、香港政府や香港中文大学は13日の段階で「侵入が現段階では確認されていない」と発表しており、スノーデン氏の証言の信憑性に疑いが残る。

 民間人権陣線や香港キリスト教徒学会など香港の民主派団体は15日、スノーデン氏の身柄保護を訴えるデモを行い、香港人や欧米系住民など約900人(主催者発表)が参加。米国領事館前でネット監視を止めるよう要望書を提出し、親中派の団体も香港政府に対して米国への身柄引き渡しを拒否するよう訴えるデモを行った。

 中国政府は同問題について「米国とサイバー攻撃問題で意思疎通を図る」と述べるにとどめいるが、中国共産党機関紙で人民日報系の環球時報(17日付)は身柄引き渡しについて「(引き渡せば)香港政府の失点で中国の面子もなくなる」と反対を表明。「スノーデン氏のリーク情報を米国との交渉材料の証拠に使うべきだ」とした上で、米国に引き渡せば「世界の世論が抱く香港への期待を失墜させる」と論評している。